2…一日二秋?-Part/β3
なんだかんだと話がもつれたせいで、結局出かけたのは午後になってからだった。
「ゆうちゃん、今日はどこに行くのかしら?」
「んー」
家を出て鍵をかけた事を確認していると、姉さんがやんわりと尋ねてくる。
「とりあえず当分の栄養を調達して……あとは本屋かアニメイトかなぁ」
カップ麺の在庫も、我が家の新刊の在庫も切れているので、ちゃっかり出かけるにはちょうどいいタイミングだった。姉さんだったら、そういう結弦さんの心情も読み取ってあえてこういうタイミングで話を切り出したのかもしれないけどねぇ。
姉さんは私の横をゆったりと歩きながら、
「アニメイトって、あの大きな本屋さんの事かしら? こっちにもあるの?」
「あー、そっか。東京には本店があるんだっけ」
羨ましい。実に羨ましい! 結弦さんの勝手な思い込みだけど、アニメイト池袋本店にはきっとレイヤー達がたくさんいて、階段とかですれ違ったりできるんだよ!
ビルがまるまるメイトだなんて、結弦さんだったら飲まず食わずで3日過ごせる程度の楽園だよ!
「姉さん、お土産! お土産ないの!?」
「そーそー! お宮揚げ、お宮揚げないのー!?」
隣から地面を歩くラミぃも加勢してくれる。なんていい娘だろうか……お母ちゃん、幸せだよ?
冗談はともあれ、姉さんは「うふふ」と口元を押さえて舞妓さんみたいに微笑むと、
「姉さんはあそこは何度も入ってるけど、買い物はした事ないわねぇ。ごめんね」
「ええー! もったいない……どうしてメイトに入って買い物しないの?」
本当にもったいない。結弦さん式スケールでいくと、人生を6割くらい損してるよ。
「だって、姉さんはライトノベルとか漫画とかはあんまり読まないもの」
「読んでも言葉の意味わかんねぇだけだろうが……」
隣からトゥルーが毒を吐く。姉さんはしかし表情に一点の変化も見せず、私の隣のラミぃが「おおー! 言い得てすとれんじゃー、なりけりねー」と失礼な事を言っている。この子の喋る謎の言語『ラミぃ語(命名・私)』もだんだん理解できるようになってきた。
言い得てstrangeだから、『言い得て妙』とか言いたいのだろう。
「失礼ねトゥルー。意味が分からないんじゃないわ。分かっても使わないから無駄なだけよ」
「わかんねぇって認めてんじゃねぇか」
銀髪ツインテールをゆらゆらと揺らしながらトゥルーは溜息をつき、
「青嵐、もっと素直になれよ」
「あらぁ。姉さんはいつだって自分に正直よ? ねぇ、ゆうちゃん?」
「はい?」
姉さんは同意を求めてこちらに笑顔を向けている。
対してトゥルーはどうでも良さそうに、視界の正面にこちらを入れている。
そしてラミぃは「うわっはー! 結弦んみてみて、るっきんあうと! あの雲さん、結弦んに全然どんと・らいくだねぇー! いえっへーい!」と、どうでもいい事を叫んでいる。可愛いから許す。
私はとりあえず、思ったままに言葉を返す。
「うん」
「そうよねぇ? それなのにトゥルーったら、姉さんが素直じゃないっていうのよ?」
「ふーん?」
私はまぶたをピクピクと引きつらせてそっぽを向いているトゥルーを見て、
「トゥルーやい。姉さんは良くも悪くも、正直な人なんだよ」
「そうよトゥルー。姉さんはいつだって自分に正直なんだから」
「~……」
もの凄~く頬をピクピクを痙攣させながら、トゥルーは「チッ」と舌打ちしてぶわっ、と再びそっぽを見る。何となくツンデレという言葉が、銀髪ツインの上にゆらゆらと揺れる。
姉さんは「ふふっ」と面白そうに笑ってから、
「トゥルーのああいうところ、姉さんは可愛くて好きよ? ゆうちゃんはどうかしら」
「そうだねぇ。結構、いい属性持ってると思うよ。ねぇラミぃや」
「むむむー」
おや。私は驚愕する。ふざけてラミぃに話を振ってみると、腕を組んで真剣な眼でなにやら考え込むようなポーズ。普段から「あっひゃひゃひゃ!」と笑い転げている姿しか見ていない結弦さんから見てみると、奇跡的な光景。
「ラミぃや……結弦さんは幸せだよ。まさかそこまでツンデレについて真剣に考えてくれるなんてさ……。そりゃ、昨今は2番目のあの人の影響でヤンデレも流行だけどさ、やっぱりツンデレには勝てないよねぇ。ま、結弦さんはどっちもいけるからいいんだけどね? 2次元限定だけど」
「むー。私の思うに、それはのっとなんせんす、且つ、きゃっちゃこーるでぃんぐ、なのだよ結弦ん。それにつけて引いてからまたつけてそのうえ加えてしんぜると、青嵐なる結弦んの姉さんに対して、その概念的かつ抽象的なろじっくは通用せしめることはありしもなかれなのだよー」
「そうだよねぇ。最近の若い人達は我々を差別しすぎだよ。それが原因でいじめられるなんて事も聞くし……別に人の趣味趣向なんてそれぞれじゃんねぇ」
「うむうむ」
ラミぃは真剣に頷いてくれる。きりっとした表情も、それはそれで可愛いなぁ……。
「……」
それにしても、と思う。
横をとてとてと歩くラミぃのきりっとした表情と顔立ちは、何となく星に似ているような気がする。金髪とか、目の形とかで勝手にイメージが被ってるだけかもしれないけど。
横目でちらっ、とトゥルーの横顔を見る。こっちはこっちでげんなりとした表情で猫背になって歩いている。
これもこれで、似ているかどうかと言われれば……似ているような気がしないでもない。特に目元が似てる。目つきが悪いところとか。
「……あ? んだよ、結弦」
「ああ、いえいえ」
完全にやつれた風のトゥルーがこちらを睨んできた。平和主義のやさしいやさしい結弦さんは、さらりとその視線をかわす。
「もう、トゥルーったら。悪い癖なんだから直しなさいって言ったでしょ?」
「うっせ。青嵐こそ悪い癖を直せ」
そのまま、私達はすとすととあてどなく歩いていく。
○
「あら」
その後、しばらく歩くこと約10分。休みの日は引きこもりがちな結弦さんの脇腹が少しずつ悲鳴を上げ始めた頃、姉さんがふいっと立ち止まる。
「どうしたんだい、姉さん?」
「ほら見て、あの子」
やんわりと姉さんが綺麗な指で指し示した先には、1人の女の子がいた。
特に変わった服装をしているでもない、肩にかかるくらいの黒髪の女の子だ。ラミぃと同じような色の瞳をしていて、右手には黒い紙袋を持っている。
結構、友達の多い結弦さんも、あの子は見覚えがなかった。
「あの子がどうかしたのかい?」
「うーん――」
と、姉さんはあごに手をあてて真剣な表情で考え込むような仕草。しばらくして、
「……いえ、何でもないわ」
とだけ言い、くるりと振りかえって再び歩き出した。
なんだか煮え切らないような、納得いかないような態度だ。ふとトゥルーを見ると、こっちはこっちでその女の子を険しい目で睨むように一瞥し、「チッ」と鋭い舌打ちをして姉さんの後に続く。
「……?」
2人とも、何やら険悪なオーラを出していた。
トゥルーは常にあんな感じだからいいとして、姉さんがあんな素振りを見せるなんて滅多にない事だ。よっぽどの事であるとうかがえる。
「ほーん……」
と、ラミぃも段々遠ざかっていくその女の子の背をぼんやりと眺めていた。
「どうしたんだい、ラミぃ?」
「ほにゅ? うむうむ、何でもなっしんぐだよー」
いつもとは違う、穏やかな笑顔でラミぃは言った。
「……そっか」
私も何か煮え切らないようなものを感じつつ、
「ほらラミぃや。早くいかないと置いてくよー?」
「はーいっ」
元気に返事をして、ラミぃが後ろをついてくる。
「……昴……」
ふと、何かをラミぃが呟いた気がして振りかえる。
「……おや? 何か言ったかい、ラミぃ?」
「いえいえー。まっさかー」
両手をバンザイしてラミぃは元気いっぱい答える。
「……そっか。じゃ、ホラ、早くいこ?」
「おーいえー!」
結弦さんは細かい事を考えない子なのだ。
私は踵を返して歩き出した。直前に見た女の子の背は、もうすっかり小さくなっていた。
どんどん思わせぶりになっていきます。
もちろん伏線として、解答となるシナリオも用意しています。
あとは、それをどのタイミングで紐解くか……。