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2…一日二秋?-Part/α2

 徒歩10分のところにあるスーパーは、この近所ではそこそこ大きいところだ。

 スーパー、と言っても厳密には違い、3階建ての建物には食品売り場のほかに雑貨屋、喫茶店、洋服店、ゲームセンターまであり、どちらかと言えば小さめのショッピングモール、といった方が正しいかもしれない。私はとりあえず昔からの癖というか、スーパー、と呼んでいるだけだが。

「スーパーよりは、ハイパーが良いかもな」

 兄さんは建物を見上げるなり、そんな事を言った。それを聞いて、「うぉおーっ」とエルトが歓声を上げる。

「氷室、上手い事ゆーなー」

「そうか?」

 苦笑しながら兄さんは首をかしげた。リアクションされたら困る、みたいな表情だった。

 しかしエルトは瞳をキラキラと輝かせて、

「なーなー。もっと面白い事言えよー」

「そんな無茶な」

「そうすっよー。氷室さんにボケのセンスを要求するのが間違いっす。雀は百歳まで踊り続けるんすよ」

「うん、もっと雀の別の面にも目を向けてやろうな。雀の天職はダンサーじゃないから」

「そう! それっす! それこそ氷室さんの本懐っすよ!」

「ボケを自覚してんなら気をつけろよ……」

 口では呆れ言葉を吐きつつも、表情はどこか楽しげだ。

 すると、話から自然に外されたエルトが、こころなししょんぼりとこちらへ歩み寄ってきた。

 ちなみにエルト達は今は浮かんでいない。服装もきちんとした「私服」って感じのカーディガンとスカートに身を包んでいる。いちいち他人に見えない状態で話しかけられたりするのも疲れるのだ。

 髪の色? 染めてるってことで。そんな事を言ったら、私だって紛らわしいんだし。

「ウチってさー。影薄いのかなー」

「そんな真っ赤な髪して何を言う」

「うー。星だって金髪でも影薄いじゃんかー」

「……。……ともかく、エルトは影が薄い訳じゃないから」

「ホントかー?」

「ほんとほんと」

 少なくとも、エルトに「影が薄い」という表現は、それこそ影をひそめるように無縁の話だろう。そう思いつつ私が生返事を返すと、エルトは「ひひっ」と笑って、

「んじゃ、いいやー」

 と気楽そうに笑った。

「よく考えたら、ウチには星がいるもんなー」

「う、うん……ありがとね」

 とりあえずそう返事をする。エルトは満足そうにうんうん、と頷いて、

「そうだよなー。ウチがいくら影が薄くても、星の守護天使っていう肩書きは変わんねーもんなー」

「あはは、任せたからね」

「おーうっ」

 相変わらず自信満々なのは良い事だ。私にはまだまだ、手の届かないようなところにいるんだろうなぁ。私は自分に自信を持つって、全然、出来ないから。

 そういう点で見ると、エルトは私にとっての目標なのかもしれない。正直、羨ましい。

「……ん?」

 と、よくよく思い返してみる。目の前には相変わらずのそこそこ大きめのスーパー。

 なぜだろうか、今までの暮らしがとんでもなく空虚なものに思えてきた。

「ん……ん……?」

「? どした、星?」

 エルトが心配そうな表情で私の顔を覗き込むように見る。なおも私は、喉に魚の骨が刺さったような感覚を覚えていた。

 何か違う。

 いや、そりゃいろいろ違うけど。居候が3人もいるし、うち2人は人間じゃないし。そうじゃなくて、もっとこう――根本的に何か違う。

「なんだろ」

「?」

 ぼうっと呟くと、やいのやいのと言い合いをしていたヒバリが「ん?」とこちらに意識を向ける気配。

「従妹さん、どうかしたっすか?」

「ああ、ううん……なんでもない」

「む~……従妹さん、悩みを抱え込むのは良くないっすよ。年寄りの冷や水っす」

「こーらこらこら。よりによってなんつーこと言ってんだお前」

 ぱしぃん、と兄さんが横に手刀を振り切るようにヒバリにツッコミ一閃。「わぶっ」と変な声を上げながらヒバリは振り返りざまに、

「な、何するっすか!」

「こっちの台詞だ! 仮にも俺の従妹に何言ってくれてんだお前。失礼にもほどがあんだろ」

「ことわざとはそういう物っす!」

「きちんと使えてねーお前に言われても説得力皆無だよ」

 ……あーあー。

「どうしてこうこの2人はすぐにケンカ始めるかな……」

「仲悪ぃなー」

「ね」

 のんびりとこんな会話をしている横で、やいのやいのの言い争い。

 あれだよね。2人とも変に子供っぽいからいけないのか。小さい子がわーきゃー言い争っているのを想像してみると今の私の視点が分かると思う。

 もういっそ2人を無視して店の中に入っちゃおうかな。そう思考を巡らせて実行に移そうとした時、

「あれ?」

 と、私は声を上げた。

 私達が立っている広場のような歩道から100mほど離れた、北側に開いた出入口。そこに入っていく、1人の女の子が目にとまった。

 肩までかかるくらいの黒髪をヘアピンで簡単にまとめたその容姿に、私はちょっとした見覚えがあった。

「ねぇ、エルト」

「んー?」

 私はエルトに声をかけ、「あの人」と彼女を指さした。エルトは「ん~」と片目を閉じ、遠くを眺めるように手をおでこにあててそれを見て、


「あー。昴じゃんか」


「そうだよね。偶然」

 昴はゆったりと微笑みをたたえて、建物の中に入っていく。

「何してんだー?」

「さぁ……買い物とか?」

 私達が昴に注意を向けていると、ふとヒバリが背後からそれを見て、

「ん、どうしたっすか?」

「うん、ちょっと知り合いがいてさ」

「知り合いっすか?」

 ヒバリは意外そうに目を見開く。様子に気付いたのか、兄さんも話に興味を示した。

「星の友達か?」

「友達……うーん、友達……?」

 一度、話をしただけだ。はたしてそれを友達というのだろうか。……そう言えば、学校の廊下ですれ違った事も一度も無い。

 すると、話を聞いた兄さんは面白そうに笑って、

「買い物ついでに、後でもつけてみればどうだ?」

「うぇえ……いいよ、面倒臭いし」

 私だってそんな事されたらいい気分はしないだろう。というかしない。人間は、自分がやられて嫌な事を他人にしてはいけないのだ。

 とはいえ、私の隣にいる好奇心たっぷりな女の子はそもそも人間じゃない訳で……。

「よっしゃー。んじゃ、行ってみよーぜー」

「わわわぁっ。ちょ、ちょっと……」

 エルトは私の腕をひっつかんで、ぐいぐいと引っ張っていく。すごい力だ。

「いやー、エルトはにぎやかでいい子だなぁ」

「む。氷室さん、自分じゃ不満っすか」

「そうは言ってねーだろ」

 後ろから聞こえてくる2人の話し合いを聞き流しながら、買い物改め、秋雨昴・追跡ツアーの開始。

「え、エルトぉ。昴の場所分かるの? もう中に入って少し経つけど……」

「んあー。大丈夫だって、なんとなくわかっから」

「大丈夫かなぁ……」

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