表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/96

2…一日二秋?-Part/α1

「あれ」

 7月31日。従兄弟とその守護天使との生活にもすっかり慣れた朝。

 私は朝食の片付けを終えて冷蔵庫を何気なく覗き込みながら、なんだか情けないような声を上げた。

「にいさーん」

「んー?」

 私が呼ぶと、兄さんは食器を洗う手を止め、私と同じように冷蔵庫を覗き込む。

 兄さんは世間話でもするような口調で、

「どうかしたか?」

 と尋ねる。

 私は冷蔵庫の扉を大きく開き、その中を指さして、

「食べ物が無くなってる」

「ありゃ。今朝ので切らしたってことか?」

 うん、と私は頷く。

「そろそろ切らすかなぁ……とは思ってたんだけど」

「やっぱ人数が増えたからだよなぁ」

「だね。今までの癖で、ついつい2人分の量で計算しちゃってたよ」

 私が苦笑すると、兄さんは「おいおい」と呆れるように、

「俺達って、そんなに存在感がないってことかよ」

「ありすぎて逆に気付かないんじゃないかな」

「おおぅ」

 大げさにそんな風に言って、

「しばらく会わないうちに、言うようになったなぁ、星」

「うん、まぁ、私も周囲に感化されるくらいはするってことだよ」

「俺の従妹の周りにはそんな人達しかいないんかい」

 節約節約、と兄さんは冷蔵庫の扉をぱたむ、と閉めながら、

「ま、星は退屈しないでやってるみたいだなぁ」

「まぁね。特に16歳になってからは」

 私はキッチンから顔を出し、リビングでくつろぐ2人の女の子に目をやった。

 1人は真っ赤な長髪で、ソファに座ってTVに視線を向けている。

 もう1人は緑の短髪に赤い長いハチマキを巻いて、客人だというのに絨毯にごろーん、と寝転がって雑誌を眺めている。

「あー」

 長髪の女の子・エルトが先にうだーっと上半身をそらしながら、

「暇だなー」

 すると、短髪の女の子・ヒバリが「んー」と口を開かずに声を出し、

「そっすねー。身体がなまるってもんっす。天使だけに羽を伸ばしたい気分っす」

「伸ばし切ってるじゃねぇか」

 隣で兄さんが小さくツッコミを入れる。こんなときでもツッコミを忘れないのが兄さんらしい。

 それを聞いたのだろうか、ヒバリは「むー」と女の子らしく頬を膨らませ、

「氷室さんも従妹さんも、細かい事を気にしすぎっす。人生は目分量がちょうどいいっす」

「人間でもない癖に人生を語られても……」

「料理で目分量はベテランの特権だしな」

 さすが、というべきか。従兄妹同士、ツッコミ属性は変わらないらしい。しかしヒバリはますます気に食わないらしく、「うみゃー!」と桐葉さんみたいな声を上げ、

「だったら暇つぶしをさせてほしいっす! 断固として要求するっす!」

「ヒバリ……お前は星の手伝いで来てるんだろうが。暇も何もあるかい」

「だって自分がいない方が絶対にはかどってるから、邪魔だと考えて自分は第一線から身を引いてるんす。苦肉の策って奴っすよ」

「むしろ俺はお前と料理した方が絶対ぇはかどるよ……星は星で上手だけど」

「う、やっぱり1人料理に慣れちゃってるからかなぁ」

「はは、まぁ仕方ないよ、それは。得意分野の差だからな」

 兄さんはひとしきり笑った後、「もとい」と話を仕切り直す。

「そう言う訳で、ヒバリも何か手伝いをしなさい」

「うぇえ~……良いじゃないっすか。エルトさんだって何もやってないっす。人間万事にして、塞翁が馬っすよ」

「ヒバリは人間じゃないだろうが」

「天界ジョークっすよ」

 ツッコミとボケの応酬。なんだろう、兄さんとヒバリは似ているような気がしてきた。

 すると、ついさっき名指しで怠惰な生活を指摘されたエルトは「むー」とTVのニューズ番組から視線を外し、黒い瞳でこちらを睨むように見た。

「ウチはちゃんと手伝いしてるぜー。なぁ、星」

「うん、まぁ……洗濯物たたんだりとかね」

「うげ。そうなんすか?」

 ヒバリは驚愕したようにエルトに視線を向ける。エルトはその視線がさも心地よいかのように「へっへーん」と胸を張っていた。

「ウチだって、星の手伝いくらいするんだぜー」

「うう……だって暇なんす。しょうがないんすよ」

 ヒバリはいじいじとそんな事をぶつぶつ呟いている。

 兄さんはヒバリのもとに歩み寄って、頭にぽん、と手を置き、

「心配すんなって。今日は4人で買い物にでも行くからさ」

「か、買い物っすか?」

 ヒバリは困ったような表情を浮かべている。

 私は確かに良いアイデアだと思った。買い出しにもいけるし、みんなの暇つぶしにもなるし。割といいタイミングかもしれない。

「星、いいよな?」

 兄さんはどこか自信を持った声で私に問いかけてくる。私も迷わずに、

「そうだね。気分転換にもなるし、買い出しもできるし」

「決まりだな」

 そう言って立ち上がる兄さん。こういうところはやっぱり子供っぽいなぁ、と思う。見た目は大人っぽいのに。

「星ー。どうかしたのかー?」

 ソファの上から、エルトがのんびりと声を上げる。

「ん。今日はどこかに買い物に行くから」

「かいものー?」

「そ。だからエルトも準備して」

「んー」

 エルトは分かっているのかいないのか、そんな適当な返事をして私の部屋に入って行った。

「ホラ、ヒバリも準備しな」

「はいはいっすぅー」

 兄さんがせかすと、ヒバリもやれやれ、といった感じで返事をした。

 私は思う。天使というのは、みんな面倒臭がりなのだろうか。三条家に目を向けると、そんな気がしてならない。

 クライやヒエンはきびきびっとして、しっかり者って感じなのにね。


  ○


 街で一番大きなお店があるのは、街で一番大きな駅の向かいだ。

 地上8階、地下2階の大型ショッピングモールで、だいたいの物はそこに行けばそろう。駅から近いという事もあって、休日は人でごった返している。

 しかし。

 私達が買おうとしているのは、あくまで食料だ。自宅から徒歩10分程度のスーパーで事足りる。

「とりあえずそこに行こうか」

「だなー」

 私の提案に兄さんは頷きながら、アパートの駐輪場に停めてあったバイクにキーを差し込んでいた。いつからあったんだろう。

「兄さん、まさか東京からバイクで来たの?」

「ん? ああ。結構楽しかったぞ。なぁヒバリ」

「楽しかったっすねー」

 見れば、ヒバリも兄さんから投げ渡されたヘルメットを頭にかぶり、慣れてますと言わんばかりに「よっ」と後部座席に飛び乗った。

「従妹さんも乗るっすか?」

「いや……2人乗りで限界でしょ。……というか、私達はどうやって移動するの?」

 兄さんは上機嫌でバイクのエンジンを温めているが、あくまで2人乗りだ。私達はどうやって移動しようというのだろうか。もちろん、私にも、恐らくエルトにもバイクに追いつけるような移動手段はない。

 兄さんは「あ、」という表情を見せ、

「忘れてた……バイクで4人乗りなんか出来ねぇしなー。どうしようか」

「……歩いていこうよ」

 私が言うと、兄さんは「しゃーねぇな」と苦笑しながらバイクを降りる。しかし、

「うぇえー。ウチもそれ、乗ってみてぇよー」

 ここでも好奇心旺盛なエルトは、兄さんのバイクに興味津々の様子。

「歩いていくなんてやだぜー。面倒くせぇし」

「じゃぁ留守番してたら?」

「う……」

 留守番はいやらしい。私は溜息をつきながら、

「だから、歩いていこうよ。ちょうど退屈しのぎにはなるでしょ?」

「うー……しゃ、しゃーねーなー」

 頭をがしがし、と掻きながら、それでもエルトは納得してくれた。

 私はそれを見てうん、と頷き、

「じゃ、行こうかー」

『おー』

 暇つぶしの旅が始まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ