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1…拾った女の子は、非日常式爆弾でした。-Part4

「どうした? 私は名乗った。貴様らも名乗れ」

 原河さんと言うらしい黒髪の女の人は、勝気な瞳をまっすぐに向けて私達に刀の切っ先を向けるように言い放った。それでいて顔には微笑が浮かんでおり、それがこの人のオーラを形作っているのかもしれない、と思った。

 と、そんな時に、背の小さいほうの女の人が顔を上げ、

「まあまあ御琴りん、そうきつくしないのにゃ。この子たちも驚いてるし」

 見た目通りの子供っぽい声で言った。原河さんはびっくりしたように、

「別にきつく当たっているつもりはないがな」

「にゃ。御琴りんの価値観は常人と大分ずれているんだから、いい加減に世の中を学ぶのにゃ」

「それに、私にはそいつらが驚いているようには見えないんだがな」

 そうだろう? とでも言いたげに私を見る原河さんに、私は曖昧にうなずいた。

 ちらっと横目で周囲を見ると、結弦は「やっぱりかー」とつぶやいて苦笑していたし、桐也は相変わらずの無表情だし、吉瀬先生はそんな私たちの様子をにこにこと眺めていた。

 とりあえず何か話した方がいいのかなと思って私が口を開きかけると、

「ああそうそう、まだ私の自己紹介がまだだったにゃー」

 と、背の低いほうの女の人が笑顔でそう言って、間髪いれずに言葉を紡ぐ。

「私は桐葉。白鳥桐葉(しらとりきりは)にゃ。よろしくにー」

「は、はぁ……」

 何というか、いろいろと強烈な人たちだった。インパクトが強い。

 さあさあ遠慮せずに、という桐葉さんの言葉で、私たちは各々自己紹介をささっと済ませた。特に言うこともなく、名だけ名乗っているという感じだ。

「ああ、それと1つ聞きたいんだが。三条、だったか」

 と、原河さんが口を開く。

「その髪は染めているのか? だとしたら随分な時代遅れだが」

 私の髪を指さして遠慮のかけらも無しに言った。

「ああ、私も気になってたな、星の髪の色」

「私も気になるにゃー」

「そういや、そうだよね。今まであんまり気にしたことなかったから」

 周りからやいのやいのの言葉攻め。唯一黙っているのは桐也だけだ。私の事情について知っている数少ない人だからだろう。

 しかし、このままやいのやいのやいのやいの言われるのはあんまりいい気分ではないので、とりあえずこの騒ぎを収めようと周囲を制す。

「あーはい、説明しますから。ちょっと聞いてください」


 私には人と違うところがある。一言で言うと外見だ。

 私は生まれつき金髪で、青い瞳をしている。別に遺伝子の異常とかではなく、もちろん染めたりカラーコンタクトとかをつけたりしているわけでもない。

 ではなぜか。これは単純で、私はイギリス人の父さんと日本人の母さんの間に生まれたハーフだからだ。

 顔立ちは日本人の物でも、髪の色や瞳の色、白っぽい肌は、父さんの白人の血を強く引いているのが原因らしい。小さい頃はいろいろ言われたし、中学の時の頭髪検査ではしょっちゅう引っかかっていたような記憶があるけど、生まれつきだから仕方ないし、それにももう慣れた。

 まあ……結弦や桐也と上手くやっていけているのには、こういった私の身体的特徴にあれこれ言わないのが1つの要因かもしれないな、と説明しながら思った。

 

「そうかそうか……ハーフか。それは失礼したな」

 説明を聞き終えると、原河さんはそう言った。が、口元には面白い物を見たような笑みが浮かんでいる。全然失礼そうじゃなかった。

 私たちは手近にあったパイプ椅子に座りながら、旧生徒会室を観察してみた。

 こげ茶色で囲まれた室内には、長方形のテーブルが1つと、隅の方にあるパイプ椅子、勉強机、白い大きな棚と、割とシンプルな室内だった。それなりに広い部屋で、大きな窓から入り込む日の光がより一層の開放感を演出していた。

 何というか、素敵な場所だな、と言うのは私でも分かる。でも……

「何で、こんなところにいるんですか?」

 というのが私の素直な疑問だった。

 原河さんは、一瞬だけ面食らったような表情になると、今までとは違った優しそうな笑みを浮かべ、

「家にいてもすることがない。かと言って部活動なんかも、なかなかやる気にはなれなくてな。こういう場所で、やりたいことをするのが一番楽しい」

「やりたいこと?」

「ああ、そうだ」

 その言葉を機に、桐葉さんが続ける。

「ここは4階だから部活動の声なんかもあまり聞こえないし、勉強とか雑務とかをやるにはうってつけなのにゃー」

「雑務?」

「あー説明してなかったっけ」

 結弦が照れたように笑って、

「桐葉先輩、これでも生徒会長なんだよ?」

「へぇ……」

「ま、この学校では生徒会ってそれなりに大変だし、雑務……生徒からの要望とか、行事予定の整理とか、いろいろ多いからにゃ。そういう面倒な作業をするには、こういう『半端な場所』が一番なのにゃ」

「半端な場所、ねえ」

 1人座らないで腕を組んで壁にもたれかかっていた吉瀬先生が部屋を見回しながら、

「確かに、いろいろ出来そうな部屋ではあるね。よくこんな場所見つけたね」

「ああ、とある知り合いからな」

 目上の先生相手にも敬語を使わない原河さんは本当にすごい人だと思う。

「いろいろなものが放置されていたぞ。将棋盤からオセロ、チェス、麻雀牌なんかも残っている。以前この部屋を使っていた奴らの思考が知れるな」

「さぞ楽しかったんだろうね」

 なぜか波長を合わせる先生と原河さん。先生は敬語を使われなくても、まったく気にしていない様子だった。まあそういうところ「敬語なんて使っても使わなくてもいっしょだって」とかいってしまうんだろう。ひょっとして私の周りにいるのは変な人ばっかなんじゃなかろうか、とか少し不安になる。

「それよりも結弦ー」

 そんな事を考えていたら、今まで黙っていた桐也が声を上げた。

「なに?」

「どうしてこの先輩方を紹介したんだ? なにか理由があってか?」

「んー、まあね。ちょっとした運命の巡り合わせってやつ」

「うんめい?」

 少し上ずった声が私の喉から出た。

 運命、とは大きく出たもんだ。前にも言ったけれど、私は運命とか、そういった類は全く信じていない。それは結弦も知ってると思うけど、それでもこうして言いだすということは、何かあるんだろう。

「で、何? 思わせぶりな言い方してさ」

「んー、ここにいる先生を除く5人にはさ。ちょっとした共通点があるんだよね」

「???」

 私、結弦、桐也、原河さん、桐葉さん。

 この5人に共通すること……?

 そう考えていると、結弦は何気ない、といった感じでさらっといった。


「ここにいる5人さ。みんな、今日が誕生日なんだよね。同じ誕生日の人が5人もいるって、ちょっと素敵なもの感じない?」


 その一言で、私の価値観は、少しだけ揺らいだ。

 そんなとき、私の視界の端で、話題から1人ポツーン、と外れている先生は困り顔で笑っていたけど、それはまた別の話。

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