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1…一期二会?-Part/γ2

「はぁ……?」

 俺の疑るような視線を感じたのだろうか、槍介は困ったように笑い、

「疑う気持ちはわかるけど、俺も仕事だからさ。頼むよ」

「仕事……?」

 そう、と槍介はうなずき、

「ちょっと、大っぴらに人には言えないんだけどね――簡単に言うなら、万屋さ」

「よろずや?」

 変わらずに笑みを浮かべたまま、槍介は続ける。

「料金を貰って、出来る範囲で何でもやる自営業。今回はその仕事の一環で、君に用があるんだ」

「……はぁ」

 良く分からないが――どっちにしろ、ここにいるのは俺に用があるかららしい。いざとなればアリィの力を借りて、最低限の保身くらいはできるだろう。

「分かりました。上がってください」

 俺がそう言うと、槍介は「ありがと」と礼を述べ、軽く頭を下げて見せる。

 そうして足を俺の家の玄関に踏みいれようとしたところで、

「待ってください」

 俺は言い放った。槍介はぴた、と機械じみた動作で足を止め、

「なにかな」

「1つ、教えてください」

 俺は槍介の傍らにぽつねん、と佇む少女を見て、

「その子は誰ですか?」

「ああ、こいつ?」

 ぽんぽん、と少女は頭を叩かれ、「うむぅ」と声を上げる。

「ご主人、こいつとは何事」

「いいじゃねぇかよ。ホラ、自己紹介しな」

 少女は小さい背で目一杯に俺を不気味な瞳で見上げ、

「はじめまして。私は、セフィラ=ディ=ヒアラ、といいます」

「セフィラ、ディ、ヒアラ?」

「はい。こんななりですが、気軽にセフィと呼んでくれれば」

 禍々しい外見に反して礼儀正しく、セフィと呼んでもらいたいらしい少女は頭を下げる。

 俺もつられるように頭を下げる。

「はは、セフィ。上出来だな」

 槍介が満足そうに微笑み、俺に語りかける。

「ま、セフィは俺の仕事仲間みたいなもんだ。よろしくな」

「仲間ではないです」

 セフィはぴしり、と言い放った。


「私はご主人の守護天使ですから」


  ○


 とりあえず、槍介とセフィを家に上げた俺は、2人に出すためのお茶を用意していた。

 滅多に人の来ない――来ても星か結弦くらいだ――俺の家は、わざわざ客人をもてなすための用意などしておらず、簡単にお茶程度しか出す事が出来ない。

「これからは用意をしとかないとな」

「……ねぇ、桐也」

 一緒に用意をしていたアリィが、声をひそめて俺に話しかける。

「なんだ?」

「あのひとたち、なにしに来たのかな?」

 そう言う表情は半分疑問、半分疑いの色になっており、要するに好意的な感触を持っていないことがうかがえる。

 俺はアリィに諭すように、

「気にするなよ。別に俺を殺そうとしてる訳じゃないだろうが」

「でも……」

「お前なぁ……」

 俺は溜息をついて、

「少しは人見知りを直せよ。悪い癖だぞ」

「う……だって、桐也にもしものことがあったら……」

「……心配すんなって」

 俺はアリィの頭をくしゃくしゃと撫で、

「いざという時は、お前に任せるよ」

「……うん」

 最後に少しだけアリィが微笑むのを見て、俺はひとまず安心した。


「お待たせしました」

「ああ、ごめんね。わざわざ」

 俺とアリィがお茶を出しに戻ると、スーツの上を纏めて膝の上に置いていた槍介と、その傍らで真っ黒い右手をにぎにぎとしていたセフィが待っていた。

 俺達は2人の前に安物の煎茶を出し、向かい側の座布団に正座した。かくいう俺達の分の煎茶もあり、夏の炎天下の中、向かい合って熱い煎茶をすすり合う。

「……ところでさ」

 口を開いたのは、意外にもアリィだった。その瞳は真っ直ぐにセフィを射抜いている。

「セフィ、だっけ?」

「はい」

「その手とか、目とか……どうしたの? びょうき?」

「ああ、これですか?」

 セフィは右手を見せびらかすようにこちらに見せ、

「これは私の聖装です」

「せいそう?」

 アリィが不思議そうに首をかしげる。セフィはにこにこと幼い顔立ちのままで笑い、

「私の番号は『ⅩⅤ(悪魔)』なんですが。名前の通り、体の中に悪魔の力が」

「なるほど……」

「その影響から、こういう風に影響が出てくるんですよ」

 セフィはその真っ黒い右手で、禍々しい赤い目を指さした。

「そっか、悪魔のちからかぁ……」

「なぁ、天使同士で盛り上がってるところ悪いんだけどさ」

 俺は間に割って入った。どうしても聞いておきたいところがあった。

「悪魔って何だ?」

「悪魔っていうのは」

 アリィが説明する。

「ようするに、わるい天使のこと」

「?」

「ボクたちみたいに、守護天使になれるような天使じゃなく――」

「人間をそそのかして、悪の道へ誘惑する存在」

 セフィが後をついで言った。

「私の身体には、そう言った悪魔の魂が封印されているんです。だからこそ、タロットの『ⅩⅤ(悪魔)』を神様から授かった」

「なるほど……」

 俺は素直にうなずいた。

 天使がいるなら、悪魔もいる。天使は人間を守る存在だが、悪魔は人間を悪い道へそそのかす存在――

 やはりいつの時代でも、天使と悪魔は相容れないようだ。

「でも、なんだってセフィは、身体に悪魔を封じてるんだ?」

 俺が尋ねると、セフィは何気なしに、

「そういう体質なんです」

「体質……」

「この聖装だって、元はただの籠手だったんですが。こんな風に妙な爪になってしまい」

 にぎにぎ、と再び動かす右手。

 その動き自体は人間の手そのものなのだが――ここまで黒い、大きな爪になると、逆に自然な動きが不自然だ。

「まぁ、セフィはこんな子だよ」

 横からセフィの頭をぽんぽん、と撫でる槍介。セフィはそれにくすぐったそうに笑いながら、

「ご主人、浮気はいけませんよ?」

「浮気ってお前」

 笑いあう2人。傍から見れば、仲の良い兄妹のようにも見える。

 俺はそれを見てデジャヴを感じながら、

「それで」

 と、話を戻した。2人は一転してこちらに向き直る。

「あなた方の話――と、言うのは?」

「……ああ」

 槍介はふ、と悲しげな表情になり、

「2つあるんだけどね。……まず、君の事から話そうか」

「?」

 意味深な言葉に俺が首をかしげると、槍介は傍らに置いてあった鞄から何枚かの白い紙が束ねられた書類を取り出し、テーブルの上に置いた。黒い文字はパソコンでプリントアウトされたものらしく、丁寧な楷書体がそこに踊っていた。

「これに詳しい事は書いてあるけど、まず説明するよ」

 槍介は、そこで深く呼吸をして――

 一息に告げた。


「……ご両親が、亡くなられたよ」


「……?」

 俺の心には疑問符が浮かんでいる。そんな俺の心を察したように、槍介は続けた。

「君のご両親は、確か10年ほど前に失踪してるんだったよね?」

「はぁ。まあ」

「まずそこから話は始まるんだけど」

 そこで彼は再び姿勢を正し、

「あの後、2人はどこかの建設会社に勤めていてね。現場監督の作業で働いていたらしい。その現場で――」

「鉄骨の下敷きにでもなったんですか?」

「……そんなトコ」

 最後に軽く視線をそらしながら、槍介は告げた。

「……」

 俺の隣では、アリィが静かにうつむいている。

 その正面のセフィは、まるで他人事ですと言わんばかりにお茶をすすっている。

「俺は、そこの重役の方に依頼されてね。この事を、君に伝えるのが仕事の1つ」

 そう言いながら、槍介はごそごそ、と鞄の中を漁り、やがて茶色い封筒を1つ取り出した。

 今朝も見たような、同じような大きさの茶封筒。それを白い書類の上に丁寧に置き、

「これは、死亡保険を振り込んだ銀行の明細」

「いくらくらいですかね?」

「俺たちの給料を引かせてもらったからね。500万ってトコ」

 十分だ。

 俺はその明細に目を通す。確かに俺の番号に、500万円ほどが振り込まれている。

「確かに」

 俺は軽く頭を下げ、封筒と書類をテーブルの上から俺の横に移動させた。

 槍介は意外そうな表情で、

「ところで、遺灰とかは?」

「いりません。邪魔なんで」

「そっか」

 素っ気なく返事をし、槍介は話を切り替えた。

「もう1つ。これは仕事とは直接は関係ないんだけどね」

「はぁ」

 槍介はふう、と息を吐いて、煎茶を口に含んでから話し始めた。

「実はね、探してるひとがいるんだ」

「?」

「それを君に尋ねたくてね」

「友人は少ない方ですけど」

「気にしないで」

 笑いながら彼は言った。

「きっと君の知ってるひとだからさ」

「……?」

 誰だ? まさか星ではあるまいし。あいつは人に探されることなんか、殆んどないだろうに。

 俺が次の言葉を予想していると、槍介は予想以上に早いネタバレをしてくれた。


「ハラカワさんって、この辺にいないかな?」

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