表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/96

プロローグ「あのひのゆめ」-Part/-2

 夢を見た。

 昔の夢だ。

 毎日見ている夢ではない――その夢の、続きのような夢だった。


 そこには、いつもの夢で見ているのとは違う、少し背が伸びた……様な気がする『私』と、あの時に出会った彼がいた。

 場所はいつもの夢と同じ、あの縁側だ。

 いつもの夢と違う点は、もう1つあった。

『私』が、泣いていないということだった。

『私』は彼と並んで縁側に座り、楽しそうに笑いあっていた。


  ○


『私』と彼は、穏やかに日差しが降り注ぐ中、縁側で花札をして遊んでいた。

 彼は山から札をめくり、急に笑顔になった。

「よっしゃ。また俺の勝ちなー」

「あ、ぅぅ……」

 対する『私』は少しいじけたような表情になって、彼を見た。

「少しはてかげんしたらどうだ……」

「最初にてかげんするなって言ったの、お前だろうが」

 彼は困ったように笑い、懐から4つ折りにされた白い紙を取り出した。それを広げ、サインペンで○をつけた。

「これで、俺が9回勝ったってことだな」

 彼は少し意地悪そうに笑い、

「あと1回勝ったら、俺の言うことなんでも1つ聞くんだったよなー?」

「むぅ……」

『私』は苦い表情で彼を見ていたが――不意に、思いついたような顔になっていった。

「どうしてお前は、そんなに花札が強いんだ?」

「ん?」

 ……今思えば負け惜しみのような言葉だな。私らしくも無い。

 しかし彼はあははっ、と面白そうに笑い、こう言った。

「そうだな――お前にどうしても聞いてほしい事があるから、かな」

「……なに、するつもりだ」

 どういう心理が働いたのだろうか、『私』は両手で自分の体をガードするような態勢に入った。

「私の体をサトウキビみたいにしぼり込んでも、何も出ないぞ」

「何だよそれ」

 彼は一瞬訝しむような表情をして、それから私を優しそうな瞳で見つめて言った。


「俺はさ。もう一回、お前の頭を撫でてみたいな」


「私の……頭?」

「そ。頭」

 彼が言った不思議な言葉に、『私』はきょとんとしていた。

 彼は笑顔のまま続けた。

「一度、さ――俺がお前の頭叩いたら、すこぶる怒っただろ?」

「頭を叩かれたんだ。暴行罪だろ。怒って済ませてやったのに何か不満か」

「そうじゃなくてさ……お前『私の頭に勝手に触るな!』って言ってたじゃんか」

 げんなり、といった感じで、彼は言った。

『私』はそんな彼の様子を見て、

「人の頭に勝手に触るのは、無礼にあたるだろうが」

 と言った。

「怒って何が悪いんだ」

「まあ、それは謝るってば。ごめん」

 友人の誘いを断るように両手を顔の前で合わせ、彼はそう謝罪の言葉を述べた。

「だからさ、勝手に触ったり叩いたりするんじゃなくて――きちんと勝負に勝ったうえで、それをしたい訳だ」

「断る」

「おま……」

『私』はついっ、とそっぽを向き、不機嫌そうな表情で言った。

「たとえ勝負でも、嫌なものは嫌なんだ」

「勝負の意味ないじゃんか……」

「うっさい」

『私』は子供っぽく言い捨てた。いや、この時は実際に子供なんだが。6~7歳位だったか?

 そんな『私』の様子に、彼ははぁ、と溜息をついて、

「じゃあお前は、俺に勝ったら何をさせたいんだ?」

「ん? 私か?」

 ややげんなり、と彼が尋ねると、『私』は彼から少しだけ視線をそらして、

「そうだな……わ、私は……」

『私』はやたらと瞬きをして、顔も少し紅潮していた。

 ……昔の私ながら、なかなかに無様な姿だな。今の私は、こんな顔をするのだろうか?

「その……私は、そうだな……」

「……そこまで悩むほどの事か?」

 彼は挙動不審な『私』を見て、心配するように『私』を見た。

 すると『私』は「い、いいや!」と誤魔化すように言って、

「べ、別に大丈夫だから……だから、そうだな……そ、そうだ!」

『私』は何かをひらめいて、それを彼に言った。


「お前が、その……私においしい物の1つでも食わせてくれればいい!」


「おいしいもの?」

「そうだ。おいしい物だ。お前、料理作れただろ? だから――」

「何だ、そんな事かよ」

 あっははは、と彼は大層笑った。

「そんな事なら、わざわざ勝負なんかしなくても、直接言ってくれりゃよかったのに」

「だ、だってホラ、お前はわざわざ来てくれてるんだし……迷惑掛けられないから……」

『私』の顔はもう真っ赤になっていた。視線はあちらこちらを彷徨い、あぅあぅ、と言葉にならない言葉を口から発し続けている。

 そんな『私』の様子をどう思ったか――彼は静かに笑って、

「じゃ、まずはもう1回やるか」

 どむ、と山札を床板に叩きつけるように置いた。


「俺においしいもの、作ってほしかったら、まずは勝たないとな」


『私』は彼の様子を見て、元気にうなずいた。

 顔からは赤い色がなくなっており、代わりと言わんばかりに挑戦的な笑みが浮かんでいた。


  ○


 私はまた、あの白い空間にいた。

 目の前には、ちまん、と座布団に正座をしている『私』がいた。かしこまった態度で座っているが、視線は専ら下に向いていて、こちらを見ようともしない。

 私は何も敷かれていない、白い床に正座した。まるで空中に座っているような、不思議な感覚になった。

「あの頃は楽しかったね」

『私』が口を開いた。私はすぐに返事をした。

 そうだな、楽しかった。

「将棋も教わったよね」

 ああ、あれはまあ――ルールを覚えるのに苦労したな。

「麻雀だって教わったし」

 1割も理解できなかったけどな。今では覚えているが。

「いつもいつも、遊んでくれてたよね」

 そうだな。他に何もしていないのか、と思うくらいに、私と一緒にいてくれたな。

「結局、料理、作ってくれなかったね」

 負けたからな。頭は死ぬ気でガードして、諦めさせたが。

「あの時の彼、凄く悔しがってたよね」

 まあ、約束を破って諦めさせたからな。悪いと思っている。

「頭、なでてあげさせた方が良かったんじゃない?」

 今ではそう思っている。お前と違って、歳をとったからな。

「大人ぶらないでよ。伸びたのは身長だけでしょ?」

 笑うなよ。だが、お前よりは美人になっているだろうな。

「彼、会ったらきっとびっくりするだろうね」

 ああ、会ったらな。

「……まだ、怖い? 彼に会うのは」

 少しな。まだ少しは思っている。

「彼が、あなたの事、嫌いだって?」

 ……何も言わずに、突然だったからな。奴が消えたのは。

 一言くらい欲しかった。

 引っ越すなら住所くらい、教えて欲しかったな。

 目の前の『私』はうつむいたままで、表情までは窺い知れない。

 だが――

「そうだね」と短く返した声は、震えていた。


  ○


 目を覚ました時、私は布団を頭からかぶって横になっていた。

「……」

 私は少しだけ頭を覚醒させる時間をとると、そのまま両腕で曲げた足を抱え、安座をするような態勢になった。

「……怖い、か」

 顎を曲げた膝に当て、私は再び目を閉じた。

 私にも怖いものがあったのかと、少しだけ驚愕の気持ちを孕ませながら――

 心の中が、悲しみの青で染まっていくのが、痛いほど分かった。

行間に入るプロローグです。

えー……なんだか訳分からないと思います。

登場人物位は大方の方が察してくださっているでしょうが――

内容に関しては「?」と思っている方が多いかと。


特殊な書き方なので、やや混乱するかもしれませんが、頑張って纏められるように頑張ります。

次の話からは、ついにあの人が登場です……?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ