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1…拾った女の子は、非日常式爆弾でした。-Part3

 そんじゃ、2時に集合ねーと言って結弦と桐也は教室をいったん出て行った。大方、2人とも昼食を摂りに行くのだろう。私はそれを見送って、自分で作ったお弁当を広げ、ひょいぱく食べながら物思いにふけってみる。

 結弦が集合場所に指定したのは、旧校舎にあるらしい、昔使われていたという旧生徒会室だ。旧校舎には各実習室があるけれど、そんな部屋があるとは知らなかった。

 というか、その場所を知らない。旧校舎にはめったなことでは行かない(行ったとしてせいぜい1階の理科室とか)ので、ますます予想がつかない。そんなところに毎日いるという先輩とは、一体どんな人なのだろう。

 ふと時計を見る。現在時刻は午後1時3分。教室にいるのは私だけだ。他の人は、部活に行っているか、補習室にいるか、帰ってしまっているかだろう。

「……」

 がらーん、という擬音がみえる教室で、私は気付いてしまった。何が悲しくてこんな広い教室でたった1人、手作りのお弁当を自分で食べなければいかんのか。

 気付いてしまったが故にとんでもなく虚しい気分になり、食が進まない進まない。

「はあ……私って、やっぱりさびしい人間なのかな」

 誰もいないのに誰にも聞こえない声でそう呟き食べ終わったお弁当を片付けていると、ガララーッ、と教室の扉が開いた。入ってきたのは白衣を着た、背の高い男の人だった。

「……ん? 三条さん、1人でなにしてるの?」

「栄養の摂取です」

「そっか。いいなあ、僕も早く食べたいなー、ご飯」

 そう言ってのんびりと教卓に座る男の人。

 彼の名前は、吉瀬海吏(きせかいり)。私たちのクラスの担任の先生だ。白衣を着ているから分かりやすいけど、担当教科は理科。歳は24で、優しいというかおっとりというか、雰囲気のつかみづらい先生だ。

「吉瀬」とかいて「きせ」と読むのは珍しいけれど、「きちせ」よりは呼びやすいでしょ? と先生は言っている。そんな感じで割と教師らしくない。「勉強なんて、将来役に立たないよ」が口癖。

 それでもフレンドリーな人なので、生徒には人気がある。

「そうそう、三条さん。今日誕生日だっけ? おめでとう」

「え? ありがとうございます。……でも、何で覚えててくれたんですか?」

「名前が『星』でしょ? 何か覚えやすくてさ」

「は、はぁ……」

 清流みたいに通った声で先生がいうと、私はなんとなくため息が出た。

 お弁当をカバンにしまい、私はふと訪ねてみることにした。

「先生、旧生徒会室ってどこだか分ります?」

「旧生徒会室? ああ、あの旧校舎の4階のね。何か用事でもあるの?」

「ちょっと結弦達と待ち合わせをしてて……なんかそこに行けって言われたんですけど、場所が分からなかったので」

「ふーん。そうなんだ」

 私が一通りの説明をすると、先生はにこにこと微笑しながら、

「ついて行っていいかな? 案内のついでに」

「はぁ……私はいいと思いますけど」

 そう言って、私達は教室を出た。


「そっか、三条さんは1人暮らしだったっけ。だから自分でお弁当作ってるんだね」

「まあ、趣味半分だから楽しいですけどね」

 そんな会話をしながら、私は先生の後をついていく。真っ白い白衣が窓から入り込む日の光を照り返して、少しまぶしい。

「どうしていつも白衣なんですか?」

「ん、これかい? 化学教師だからね」

 なんだか理由になっていないことをにこやかにいう先生。やっぱりどこかずれている人だ。

「今の時期なんかは特にいいよ? こんなのでも風通しはいいから、夏場でも長袖で大丈夫だしね」

「はあ……でも、毎日ですよね。何着食らい持ってるんですか?」

「んー、10着くらいかな。毎日洗ってるけど、特にひどい汚れなんかは取れないときが多くてね、苦労してるよ」

「へえー……そういうところはきっちりしてるんですね。意外」

「あれ、僕ってそんなに服の汚れも気にしないようなルーズな人間に見えるのかな?」

「まあ、見えなくはないです」

「ちょっと残念」

 そう言って先生が肩をすくめると、奥に2つの人影が見えた。うちの学校の制服の、白(女子用。赤いネクタイ、赤いスカート)と黒(男子用。青いネクタイ。女子とちょうど対になるカラーリング)のブレザーが見えた。結弦と桐也だ。

 私たちの姿を見るなり、結弦がぶんぶんと左手を振る。

「お、来たね星ー。あれ、先生も? どうしてですか?」

「案内のついでにね。ちょっとご一緒させてもらったよ」

「構わないよね?」

 心配ついでに尋ねると、結弦はあっはっは、と笑い、

「だいじょうぶだいじょうぶ。先輩は、そういうの全っ然、気にしないから」

「ふーん……どんな人なのかな?」

「見ればわかるよっ」

 うきうきと結弦が笑い、ドアをガチャリ、と開けた。

「先輩、来ましたよー。客人、3人です」


 中には2人の生徒がいた。どちらも女の人だ。

 1人はまっすぐな長い黒髪をしていて、長方形のテーブルの上座のパイプ椅子にゆったりと腰をかけ、腕を組んだまま目を閉じている。座ったままでも、女の人の割に背が大きいことが分かる。だいたい170㎝弱はあるだろう。それでいて、妙な存在感……というか、オーラをまとっていた。

 もう1人は入り口の近くに座っていた、さっきの人と対照的に背の低い人だった。栗色のショートヘアに、真っ赤なリボンを後頭部で蝶結びにして、机に置いている紙の束に何かを書き込んでいる。とても幼い顔立ちの中に、何か鋭い真剣なまなざしを感じた。

 そんな2人にどう声をかければいいか、私が考えていると、

「紹介するね」

 と結弦が促した。

「先輩、どうぞです」

 そういうと、上座の女の人がゆっくりと目を開いた。俗に言う吊り目というやつで、その中に赤っぽい眼光が光っている。その瞳が、まっすぐに私を射抜いていた。

「……ぁの、」

「お前か。結弦の友人とやらは」

 と、言葉を先回りされた。曖昧にうなずくと、彼女は少しだけ笑みをたたえた。

 そして、ハッキリと、自分の名を告げた。

「私は、原河御琴(はらかわみこと)。よろしくな、後輩共」


 こうして、私たちは出会ったのです。

 もし、ここで6人が出会っていなかったら、と思うと……複雑な気持ち。

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