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2…拾い上げた爆弾には、スイッチもタイマーもありません。-Part3

「……話を聞く限り、結構変わった人だね」

 私が率直に感想を述べると、結弦は「そりゃそうだよー」と笑った。

「だって、御琴先輩が仲良くしてた人だよ?」

「すげえしっくりくる理由だな」

「でしょー?」

 私も一瞬、ああ、分かりやす――と思ったけど、そこまで原河さんは変な人なのだろうか。確かにいろいろとアレな人だけど、美人だし。

「原河さんって、中学の時はどんな人だったのかな」

 何気なしに呟くと、結弦はんー、と一瞬考え込んで、

「私が知り合った時には、もうあんな感じだったかな」

「ふーん。結構、告白とか絶えなかったんじゃない? 男の子からさ」

「そりゃあねー。なんせ、美人だしね」

 ただね、と結弦は前置きし、

「想像つくだろうけど、全部断ってたらしいよ」

「だろうなー。あの人、恋愛とかに興味なさそうだもんな。『時間の無駄だ』とか言って」

「そうそう、そうなんだよねー」

 うんうん、と何度もうなずきながら、結弦は言った。

「まあ、実際には『私に釣り合う男はそんなにいない。お前はその器ではない』とか言ってたらしいけどね」

「らしいなあ……」

 容易に想像できた。きっと中学の頃からあんな風に威風堂々、という感じで、自信にあふれたオーラを醸し出していたのだろう。

「でも、いざ想像するとなると、結弦さんは想像できないね。御琴先輩に釣り合う男の人がどんな人なのかーとか、もし御琴先輩が結婚とかしたら……とか、無いよねー」

「ないない」

「私も、想像できないなあー」

「でしょー? あははっ」

 そうして、しばし私達は笑っていた。まっさかー、とか言いながら、原河さんに彼氏が出来るとしたらどんな人かなー、とか。意外と優しい人とかじゃない? と結弦が言っては、ないない、と桐也と私で否定する。

 要するに、全く想像がつかなかった。

 私も、まだ知り合って1週間かそこらだけど、何故かあの人の持つ「威圧感」というのはしっかりと身に刻まれている。それにあらがえる男の人というのは、ものすんごく希少種だと思った。

 そんな折、携帯の振動音が教室に鳴り響く。

「あ、結弦さんのだね。だれからかな?」

 私達の近くで、その差出人を確認した。

 そう、近くで。

 うっかりしたら、横からそれが見えてしまうほどには近かった。


『差出人:御琴先輩』


「……何者なんだろうな、あの人は」

 桐也がぼそっと、しかし緊迫感のある声で呟く。

「んー? どうしたんだよ、星ー?」

 そんな妙な緊迫感を察してか、しばらく別々に話をしていた。天使3人も集まってくる。それを気配で確かめて、

「タイミング良すぎだね」

 私がボソッと呟くと、結弦は冷や汗をだらだらだらだらとかき始め、

「ま……まあ、単なる世間話とかじゃない?」

 自分をごまかすようにそう言って、ぴっ、とボタンを押した。

 文面が表示される。


『悪い噂なら、せめて私のシックスセンスの働く範囲外でやれ。関東とかでな』


「なーなー。星、しっくすせんすってなんだー?」

 エルトは事情を知らないばっかりに、そんな事を爛漫と聞いてくる。

「ねえさんねえさんねえさーん? 何をされてそこまでだうにんぐ、てんしょん、なのであらせられましてあるー?」

「ね、ねえみんな? ちょっとこわいけど……」

『……』

 私達は、ひたすらに押し黙っていた。今が7月真っ只中と忘れてしまうくらい、冷たい風に囲まれているような気がした。

 文面は下の方にしばらく続き、こう書かれていた。


『P.S. 男になら困っていない。じきに会える。その時になったら紹介してやるから、明日は覚悟しておけよ』


「アリィ、明日は戦場だ。超電磁砲とかなんでもいいから用意してくれ」

「うん、わかったよ。桐也がいうなら」

「あの人はでっかい鎌をふるって、魔女どころか神様狩りまでやってしまいそうで怖い」

 桐也が物騒な事を、割と本気のテンションで呟いていた。桐也のこの表情は、中3の時に本気で怒っているのを見たとき以来だ。

 対する私と結弦は、何も言葉を発せずにいた。

 かしゃん、と結弦の震える両手から、携帯が落ちる。

「ど……どうしよう。私、このままで人生を終えるなんて嫌だ……」

「結弦ん? 結弦ん結弦ん結弦ん? 何がおこりたまわるのかねー?」

「ラミぃ……ああ、短い間だけでも君に会えて幸せだったよ、結弦さんは。今日は帰ってから、一緒にお風呂入ってあげるからね」

「ほんとうに!? にゃーっ、ばんざいー!」

 いやっはーっ、とはしゃぎながら喜ぶラミラミ、ずーん、と沈み込みながら「ふふふ……どうせ今日だけの命なら、ヒトとしての理性を捨ててでも……ふふふ」とダークに笑う結弦。

 凄く対照的だった。私はイマイチ緊迫感を感じられなくとも……本能的に、感じていたことがあった。

 コ・ロ・サ・レ・ル。

 そんなダークな雰囲気のまま――下校時刻を迎えてしまった。


  ○


 夕食を食べ終え、お互いにシャワーを浴びて、一日の終わり。相変わらず私の布団にもぐりこんですやすやと寝息を立てているエルトのなんでもない表情が、今はとても頼もしかった。

 私は布団で横になったまま、向かい合い形で眠っているエルトの細い体に両手を回し、きゅっ、と軽く抱きしめた。彼女の頭頂部に顎をあてて、ふと呟く。


「何でこんなにシリアスな空気になってるんだろう?」


 よくよく考えてみると、だ。

 ただ原河さんがぴったりなタイミングで、メールを送ってきただけの話じゃん。

 それに、私にはこの守護天使様が付いていらっしゃる。有事の際には、エルトが身をていしてでも守ってくれるだろう。

 そう考えたら、安心じゃん。

 私はなんだかほっとして――いや、まあ、何となく予想していたことではあったんだけど。とにかく肩の力が抜けた。私は少しだけ強い力で、エルトを自分に引き寄せた。

 エルトの身体は、細くて色白で、そしてどんな抱き枕も敵わないでしょう、と言わんとせんほど、こうして抱いてみると気持ちが良い。まるで、ふわふわの布に包まれて眠っているようだ。きっと雲に質量があって、その中で眠ったら、こんな感じになるんじゃないか、という位。

 よし、さっぱり問題も解決したことだし、今日は寝ようか。

 私は眠り続けるエルトを起こさない程度の声で、おやすみ、と言って目を閉じた。

 今日はなんだか、良い夢が見られそうだった。


  ○


 翌日。

「なあ三条。お前は私に彼氏が出来たら、どう思う?」

 朝、登校途中にばったり出くわした原河さんに、挨拶もなしに開口一番、そんな事を聞かれた。口元は笑っているけれど、目は笑っていない。むしろギラギラ、と妙な怪しい光を放っている。背後に消え入るように浮かぶイロウの姿が、より一層不気味に見えるほどには。

 とりあえず、私は問いに答えるため、正直な言葉を言った。

「驚きます」

「率直で結構だな。まあこんな私だ、そんな事を想像しろという方が酷だ」

 原河さんはそこでややさびしげに笑って、

「男を毛嫌いしている訳ではない。だが、私はまだ男を作るわけにはいかない」

「はぁ……?」

 御琴、と背後からイロウがためらうように言葉を発した。

「いいの?」

「まあ、話したところで興味のない事だろうしな。また気が向いたら話してやるさ」

「えー、何だよケチー。話しかけたんだから、最後まで話せよなー」

 エルトがとっても不満げな表情でそんな事を言うが、原河さんはそれを完全にスルーして見せ、

「じゃあ、また昼間にでも会おうか」

 と言い残し、背中を見せて堂々と校舎に消えていった。

 ほら、やっぱり。原河さんは、私達の人生を終わらせようとなんてしていないじゃない。

 結弦と桐也も心配性だなあ、そんな事を思いつつ、私は校舎へと歩き出した。

 

 その後、校舎の扉に鍵がかかっているのを発見したその時まで、今日が土曜日だとは気付かなかった。


「なんて人なんだろう……」

 その場に膝をついて、がっくりとうなだれる。

 ここまで周到に心理トラップを仕掛けておくとは、ほとほと凄い人だ。

「星……してやられたなー」

「気付いてたんなら、最初から教えてよ~」

「ええー? だって星なら、そんくらい気付いてると思ったからさー」

 まあ、それはそうなんだけど。

 と、ここで考えた。

 昨日のメールの文面を思い出してみる。確か……

『明日は覚悟しておけよ』

 と閉じられていた。


 明日?


 つまり、今日のことだ。メールが送られてきたのは、昨日だから。

 ということは――

 結弦と桐也は、原河さんのこのトラップを見破って、私をはめていた?

「……」

 二重の絶望が私を襲う。

「星ー。ウチ、腹減ったー。早く帰って、なんか作ってくれよっ」

「あ……うん、そだね……」

 自分はほとほと知恵が働かないなあ、と痛感させられた週末だった。

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