1…拾った女の子は、非日常式爆弾でした。-Part2
そんなこんなで授業が終わり、放課後になった。
とはいっても、夕方じゃない。
私たちが通う白桜学園は、毎日正午にに授業が終わる。午後からは部活をやりたい人は部活をやるし、勉強したい人……もしくはしないといけない人は残って先生の授業を受けられるし、帰りたい人は帰れる(その分、宿題は他の人より多い)。ちなみに3年制だ。
なんでも「やりたいことやらせる学校」と言うのが持ち味らしく、アルバイトなども全く制限しておらず、行事などに関しても先生たちは殆んど口を出さない。締め付けがゆるい分、自分でやることきちんとやったら3年で終わらせてあげますよーという学校なんだそうだ。
「って、先輩が言ってたよー」
その旨を話した結弦がにこやかに語る。
「先輩?」
「うん、私の中学の時の先輩。今、この学校の2年生なの」
へえー、と私の口から声が漏れる。
「どんな人?」
「んー、何だろう。かっこいい人」
「え? 女の人でしょ?」
「うん、そだよ……って、何でわかったんだい、星?」
「いや、結弦に男の人の知り合いなんていないんじゃないかなーって」
「ほう……星、お前には俺が男に見えないのか。そうかそうか。傷ついた」
と、桐也がやはり全く無表情で淡々と負の感情を述べる。
「いや、桐也はあれでしょ。もうわざわざ言わなくても知り合いの部類に入るんじゃないかな―って」
「ふーん」
「表面上だけでいいからもっと興味を示そうよ」
どーでもよさげに「ふーん」と口を動かさずに発音した桐也に、私は呆れ半分にそういった。
「それより星や……結弦さんに男の人の知り合いがいないって、やや失礼じゃないかなあ、ねえ」
どーん、と結弦が言う。「結弦さん」というのは結弦がたまに使う一人称だ。
私は再び呆れ半分で、
「結弦ってそういうの興味なさそうだし」
「ふん、リア充の星には分からないだろうね。お幸せに」
「何よそれ……」
と、言いつつも。心中で、若干デリカシーに欠けてたかな、とやや反省。なんだかんだ言っても、結弦も女の子なんだなあ、と実感。
「ま、私もそこまで興味あるわけじゃないけどね、三次元に」
「私の反省を返せ」
「でもね、たまーに思うよ? 彼氏の1人2人作って、青春したいなーって」
「2人作るんだ……」
「でも、高望みは厳禁なのさ。リアルにはそんな都合のいい男の人はいないし、だからこそ私とか私とか私とかはリアルで彼氏がいないんであって」
「そ、そうなんだ……」
「その点、結弦さんは星がうらやましいよー。いざとなったら相手に困っても桐也君と結ばれればいいんだもーん」
「やめてよ、そういうの。桐也は私の恋愛対象から外れてんの。ねえ桐也」
「ん、まあ。よくわかんねーけど」
やはりどーでもよさげに答える桐也。
なんかんだで長い腐れ縁になる桐也は、すでに「異性」というカテゴリーを通り越して「家族」という認識だ。特に中学に入ってお互いに一人暮らしになってからは、よりそういう意識が高まったように思う。
だから、桐也と付き合うとかは、既に話題に上がった時点で除外されている。「家族以上、恋人未満」という感じだ。
「で、話を戻すけど」
という結弦の声で、私は再び意識を復活させる。
「その先輩たちね、毎日ある部屋にいるんだって。せっかくだし、これから会ってみない?」
「ええ……」
「なに、星。不満?」
「いや、そういうんじゃないけど……」
やはり顔の分からない先輩に会う、というのは、私にとってはちょっとした壁だ。
「昔から星は人見知りだからな。おかげで今はリアルの友達が2人ときた」
「う……まあそうだけど。わたしは今のままで十分だもん」
「はぁ~、さみしい人生だこと。ねえ桐也君」
「気にしてやるなって。こういうやつなんだ」
「いいかい2人とも。よく聞いてほしいんだ。私にもね、怒っていい一線って、あると思うわけ。どう思う?」
「だって事実だしなあ。それに対して怒られても、リアクションしづらいわ」
「中途半端な女だねえ、星。リア充でもなく、二次元に足を入れているわけでもなく」
「ううううううううううううううううううう!」
困った。反論が出来ない。やはり私は……私は、中途半端なのかな……。
「というわけで、賛成1、棄権2で、移動教室に決定ー」
「いえー」
結弦の声と、桐也の平坦な合いの手が聞こえる。
かくして私は、うやむやのうちに、結弦の言う「先輩達」にあ会う羽目になったのです。