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1…拾った女の子は、非日常式爆弾でした。-Part Next

 魔窟。

 今の状況を表現するなら、それが最も正しいだろう。

 7月8日。ひょんなことから、自分の守護天使だと名乗る女の子・エルトと出会った私、三条星は高校生である。何が言いたいかというと、学校に来なければいけないということだ。

 なので、普通の人には見えない、というふよふよと浮かぶエルトを連れて今日も学校に来て、授業を終え、親友の結弦に誘われてまた昨日の旧生徒会室、という所まで来たわけだ。

「落ち込むなよ星。ありのままを受け入れろって」

「……うん、拒絶してるわけじゃないんだけどね。ゴメン、さすがに無理」

「食わず嫌いはいかんぞ、三条。私なんか見ろ、あまりの驚愕に頬が引きつってうまく表情が作れん。美人が台無しだ」

「そーですねー」

 適当に周囲の言葉を流しつつ、私は改めて部屋を見回した。

 というか、見回す余裕なんかあるかい。人が12人もこの部屋にいるんだから。

 しかも、そのうち半分――6人は、人間じゃなくて、どの子も可愛い女の子で、宙に浮かんでいる。

「なんだろう、この状況……」

「まーまー星。いいじゃん、これはこれで楽しいしさ。賑やかなのはいいことさ」

「結弦りんの言うとおりなのにゃ。もっと明るくいくのにゃー」

「う~」

 思わずうなってしまう。そして、見たくもない状況を見ては、どうしようもない台詞。


「なんだろう、コレ……」


 見つめる先には――

 浮かびながら談笑する、6人の女の子たちの姿があった。


  ○


「へーっ、やっぱ天使ってウチだけじゃなかったんだなー。仲間が増えて嬉しいぜっ」

「うむむーむむー。私も嬉しき奉らんとする気の分け目なのだよー」

「そうだよなー、あたしだって嬉しいもんな。なあ、エルトって言ったっけ? お前、何番だっけか?」

「ん、ウチか? ウチは7番だぜー」

「7番かあ……『戦車』だったよな。ぴったりだと思うぜよ!」

「へへー。なあ、そっちの3人も話に加われよー」

「……あんまり騒がしいの、すきじゃないなあ、ボク」

「私も」

「わ、私もあんまり……迷惑だったら、加わりたいですけど……」

「加わったほうが良いじゃんかー。せっかくこうして仲間に出会えたんだしさー」

「そ、そうでしょうか……?」

「のうのう、その通りになりたもうことなにからにー。人間と天使には、わずかたたたたたんーな壁をどどーん、はうえばぁー、天使同志にあらせて、それは無きに無きなのだよーっ!」

「うーん、ラミラミの言ってることはよくわかんねーけど、とにかくそういうことなんだよっ」

「は、はぁ……」

「……クライは押しがよわいなあ。このままじゃ、なんだか危なっかしいなあ」

「私も、そう思う」

「あ、イロウも? ボクも、ちゃんと自分のきもちを大事にしたほうが、いいと思うんだよなー」

「(こくこく)」

「あ、あの。なんだかごめんなさい……私、人見知りが激しくって……」

「あたしらは人じゃないぜよ?」

「そういう問題じゃないです!」

「えー。天使なんだから、その辺に誇り持とうぜー」

「そうそう! そっちの死神みたいなのも、そんな物騒な鎌しまって、ウチらと話ししようぜー!」

「な……し、死神じゃない……私、天使……」

「しかししかしかしかしかしかしー。そんな得る物をー、ぶーらぶらさげてたらー、勘違いもびこーず、なのだよー」

「……………………」

「あ、あの……なんだか、凄く、落ち込んでますけど……」

「え、まじか?」

「イロウ? だ、だいじょうぶだよ。ボクは、ちゃんとわかってるから……」


  ○


 とまあ、こんな感じだ。

「賑やかだねえ」

 窓際で吉瀬先生がそんな事を呟いた。呑気でいいこと。

 しかし結弦がそんな先生に同調してか、

「ホントですよねー。私達もこんなふうになりたいなあ、賑やかな感じにさ。ね?」

「いや、ね? って俺に言われても困るけどな。俺はあんなテンションにはなれない」

 いつも通りの無表情で、桐也がしれっと結弦の言葉を受け流す。結弦は結弦で、「そうだよねー」と妙に上機嫌にニコニコと笑いながら、

「じゃあ、星なら――」

「…………」

「ごめん、結弦さんが悪かったから、そんな目で見ないで。そんな冷たい目で見ないでぇ!」

「分かれば良いの。私だって、あんなはっちゃけた人種にはなれないよ?」

 しゅん、とわざわざ口に出しながら、結弦は分かりやすく落ち込む。そんな様子を見て、原河さんがははは、と笑った。

「まあ、なにはともあれ、面白いからいいじゃないか」

「いや、でも……」

「なんだ三条。不満か?」

「いや、そういうわけでは……」

「なら、いいじゃないか」

「世の中は結果だけじゃないですよ? 過程があってこその結果です」

「む、なかなか深い事を言うな。この辺の口八丁は、桐葉に任せるか」

 飄々とそう言って両手を上げると、桐葉さんに視線を送った。対する桐葉さんは待ってました、と言わんばかりの表情で頷く。

 そして私に向き直って、

「結局、世の中で通用するのは結果だけにゃ」

「はっきり言いましたね!」

「だって、テストでいい点取れなくって『それでも頑張りました』じゃあ通用しないにゃ」

「う……まあ、そうですけど」

「わあー、さすが桐葉先輩、言うことが上手いなあ」

 結弦の言葉に、桐葉さんは当然だにゃ、とふんぞり返る。

 一言言いたい。気楽でいいなあ、と。私もなぜだかごく自然にエルトの事を受け入れているけれど、それでも理屈として納得している訳ではない。そりゃ女の子だもん、理屈を知ろうとして何が悪い。

 そんあ風に少しやさぐれていると、隣から桐也が椅子ごとこちらに近づいてきて、小声で話しかけてきた。

「あんまりクサクサすんな。今は、この状況で楽しむことを考えろって」

「そりゃそうだけど」

「理屈がどうのこうのって悩んでアリィたちの素性が分かるかよ。そういうことだ」

「……むー、分かるような、分からないような」

 なんだか微妙に的外れな桐也の発言に、私は首をかしげる。

 すると、不意に桐也が目を細めて、談笑する6人の天使を見て言った。

「……なんかさ。あの天使、って奴らは、お前に似てる気がするんだよなー」

「……また私が普通じゃないって言ってる?」

「そうじゃなく。何となくこう……何かしらが似てる。目とか顔立ちとか、性格とか」

「?」

 奇妙な事を呟く幼馴染に違和感を覚えつつ、私は再び首をかしげた。

「でもさあー」

 と、後ろから結弦のやや大きめの声がして、私はほぼ反射的に振り返った。

「なんだか、わくわくするよね。天使と一緒に暮してます、なんて前例もないし……」

「そうだね。僕もまあ、楽しみではあるなあ。いろいろ新しい事尽くしでね」

 先生までさわやかにそう言ってのける。気付いている人は少ないだろうが、これは全部旧生徒会室と言う、普通の教室よりもちょっと狭いくらいの部屋の、半分のスペースで繰り広げられている会話だ。非常に窮屈なのだ。

 それはさておき、原河さんがうんうん、と言いたげに2人の言葉にうなずいて、

「何かがありそうだな」

「その通りにゃ。なんだかヒエンとは、他人の気がしないからにゃー」

「ああー、分かりますそれ。私もラミぃとは、なんだか姉妹みたいな感じがして……」

「俺も、かな。妹……ともちょっと違うけど、他人では無いなー、アリィは」

 そんな言葉を口ぐちに聞きつ、私もふと考えて……。……。……考えて……。

 ……今日の結論。



「難しい事は、分かんないから考えない」



「星……時にお前、とんでもない事を言うな」

「だって、私は普通に生きたいんだもん。普通の人生に、天使なんていない。だから考えない。こういうのは、有能な親友たちと、有能な先輩に任せて――私は、今まで通り暮らせればいい。家族と一緒に」

 珍しく一気にしゃべった私に、誰もが、シン……と静まり返る。天使たちも、おしゃべりをやめた。

 そして、みんなでこっちを見ている。

「……え、と。あの、私が何か……?」

 思わず、どぎまぎしてしまう。たとえ自分が何一つやってないとしても、こういう空気になると何かしたんじゃないかという気にさせる。人間とは、周囲に影響されやすいのだ。

 すると、原河さんがゆったりと腕を組んだまま、こちらを見て、

「三条。お前、キスしたことあるか?」

「何をいきなり……ないですよ」

「そうか。私もない。だから、今日は帰れ」

「すいません、意味が分からないのは、私だけでしょうか?」

 珍しく微笑をたたえるでもなく、無表情にそう言うと、原河さんはその表情を保ったまま、

「冗談だ、冗談。まあ三条はキスくらいしたことあって隠してるんだろうが」

「だから無いですって……なんでそこまで私にキス歴をせがんでるんですか」

「いつでもここに来いよ」

 不意に、声が柔らかくなった。


「いつでもここに来て、暇つぶしでもなんでもしろ」


 文脈も何もない会話文だったけど、その言葉は、何故か心によく響いた。

 全員が無言。何をしゃべるでもなく、無言。

 そして、原河さんはそんな自分以外の11人の様子を眺め、満足そうにうんうんと頷いた後、

「帰る」

 と短く言い残して、

「帰るぞイロウ。途中でなんか食っていくぞ」

 鎌を持った、原河さんにそっくりな天使・イロウにそう告げた。イロウはこくり、と無言でうなずくと、無骨な鎌を構えたまま、ふわ~っと消えそうな感じで浮かんでついていく。

「なんだか……よく、分かんないや」

 私はそう呟くと、何故かエルトがいひひっ、と笑い、

「なー星。ウチだって、分かんないこと、たぁくさんあるんだぜ」

「うん」

「でも、何でもかんでも知ってたら――知らないことがなかったら、つまんねーじゃんか」

 無邪気な声を孕ませ、そんな事を言う。

「だから、わかんねーならわかんねーでいいんじゃねーかな!」

「そんな大天使みたいな……」

 結弦が妙な事を言っていたけど気にしない。いつものこと、いつものこと。

 すると、エルトの後ろに浮かんでいた吉瀬先生の守護天使、眼鏡をかけたクライという天使が、

「分かります!」

 と、大きな声で言った。

「全部分かってたら、勉強の意味がありません!」

「おお、クライがなんだかいい事を言っている」

 先生がそう言うと、クライは照れたように一瞬うつむいてから、

「勉強は、物を知るためにしますけど、先に何もしないで全部知ってたらつまんないです!」

「学生の模範であるべき言葉だな」

 桐也がしれっと言う。ちなみに桐也。器用な割に成績はあんまり良くなかったりする。やるやらない、というか興味がないらしい。

 もとい、そんなクライの剣幕に先生もさすがに気圧されたようで、

「まあまあクライ、落ち着いて。家に帰ったら新しい問題集やらせてあげるから」

「は、はい!」

 やっぱり落ち着かないままそう元気に返事をした。

 なんと言うか……個性的というか。

 まだ3人くらい台詞が少ないままなのに、もう私の精神力は限界みたいだ。

「ゴメン、桐也。私少し寝るから、帰る時に起こして」

「分かった。学校で寝るなんて、星は真面目だな。そこまで勉強したいか」

「起こせ」

「分かったから。分かったっつの」

 まったく……と溜息をつきつつ、

「星、まだ太陽が出てるのに寝ちまうのかよー? もったいねーなー」

 というエルトの声を聞きながら、私は机に突っ伏して眠りについた。



 ……とまあ、最初に出会ったときからぐだぐだだった私たちだけど。

 さすがに私1人の脳じゃ、12人いっぺんに行動を分析するなんて高度な情報処理は、無理なわけで。天使がどんな会話をしてたかーとかは、みんなの創造に任せます。

 これは、そんな私達と天使が織りなす、出会いと日常と、その他もろもろの物語。

 というわけで長かった第1話が終了です。いやー、長かった。

 さて、この作品には「天使」「聖装」など思わせぶりなワードが多いですが、ぶっちゃけた話、戦闘シーンと呼べるものはほとんどありません。

 また、登場人物がやけに多いので、こういう集合した場面での描写はやや荒っぽいです。

 その他、いろいろと未熟な筆者の初投稿作品です。

 こんなぐだぐだな天使たちと、人間たちの日常(?)を少しでも楽しんで読んでいただけたら、と思っています。



 ……ちなみに構想では、もう結構なところまで進んでます。

 もちろん登場キャラも無駄に増えていきます。たとえるなら、とあるシリーズの登場人物の中の「出番が消える人」がいないくらいの勢いです。大丈夫かな、筆者が一番心配です……^^;

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