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1…拾った女の子は、非日常式爆弾でした。-Part/γ2

「ほう……中々、面白い事を言うな」

 あくまで無表情を貫きながら、天使だと自己紹介をしたイロウに、私は思わず笑いそうになった。

 何故かって? 別に、天使がいないと思っている訳ではない。むしろ今は信じてやろうと思う。なんせ、あれほど多くの流れ星を見たら、そういう夢も見たくなる。加えて今日は七夕、そして私の誕生日だ。

 だが、目の前のそいつは、とてもじゃないが天使には見えない。羽が生えている訳でも、頭の輪(ヘイロー)が見える訳でもない。そして何より、その巨大な鎌だ。まるで死神の持っているような、シンプルな、だからこそ分かりやすい恐怖を振りまいている。

「天使、ということは」

 私は嘲るようにイロウに問いかける。

「お前は人間ではないのだな?」

 こくり、と小さくうなずく。

「では、証拠を見せてもらおうか。天使であるという証拠をな」

「……」

 しばし迷うように黙り込んだ後、イロウはその巨大な鎌を右手だけでやすやすと操り、がん、がん、と刃の先で地面を叩いた。音のした方に視線を向け、私は全て納得した。

「ま、確かに人間が宙に浮いたりはしないな」

 イロウは黒い革靴の足を地面につけず、ふわふわと宙に浮いている状態だ。

「背中からワイヤーかなんかで、天から吊ってもらっているのか?」

「?」

 少し困ったような表情になって、私の冗談に首をかしげるイロウ。

 はは、と私は笑って彼女に言った。

「しかし、お前は面白いやつだ。私の守護天使と言ったな」

 こくり、うなずく。

「なら、とりあえず家に来たらどうだ? こんな夜中に、立ち話もなんだろう。最も――お前は地面に立っている訳じゃあないが」

 こくり、とうなずいて、歩きだした私の横を浮遊しながらついてくる。

 手には鎌を携えながら。

「……しかし物騒な得物だな。使いやすいのか? そんな形で」

「慣れと愛が大事」

 こくり、とうなずきながら、天使はそう言った。


  ○


 海沿いから大分離れた内陸部に、私の家はある。

 私のいる原河家は、しばらく前の代から小さめの旅館を営んでいる。

 なんでも昔、このあたりを平定した『御三家』と言われる3つの大名のうちの1つがこの原河家らしく、武士としての役目を終えた3代目あたりが始めたのだとか。規模は大きくないが、200年近く続いているらしい。何度か経営的にも物理的にも潰れかけたらしいが、そのたびに修繕していき、現在に至る。

 ここの一人娘である私も、いずれは家業を継ぐことになる。就職難の中、仕事が約束されているのは楽でいい。

「……」

 そんな家の前の門で、イロウは黙って旅館の外観を眺めていた。まるで懐かしい物を見るような瞳だった。

 私はイロウを連れ、客用の正面玄関を裏手に回り、従業員用の裏口から家に入る。

「帰りましたー」

 と、私は木製の玄関扉を閉めて言った。その気はなくとも名家なので、一応は敬語を使っている。

 すると、奥から藍色の鮮やかな着物に身を包んだ女性が出てきた。

「御琴、おかえりなさい。遅かったじゃない」

「はあ。すいません」

 と、私が頭を下げると、女性はあはは、と笑って見せ、

「いいのよ。御琴も高校生だもの。17歳おめでとう」

「ありがとうございます」

 彼女の名前は、原河真琴(はらかわまこと)。言うまでもない、私の母親だ。今ではこの旅館の女将をしている。現在は35歳だが、そうは見えない若い外見をしている。さすがは私の母親と言うべきか、その遺伝子はしっかりと娘に受け継がれている。

 ちなみに、父はいない。早くに他界したそうだ。最も、顔も覚えていないので、特に不自由に思ったことはないのだが。

「ご飯は? どうしたのかしら」

 お母様(そう呼ぶのがこの家では普通だ)がそういうと、私は答えた。

「食べてきました」

「分かったわ。じゃあ早めに部屋に戻っちゃいなさい? 今日はお客さん多いからね」

 そう言い残すと、そそくさと奥の方へ小走りに去って行った。

「さて、いよいよもってお前に関してはスルーを決め込んだな」

 私は玄関に立ったまま、隣にずっといたイロウに話しかける。

「まあ、こんな奴じゃあ、スルーされても仕方ないな」

 なんせセーラー服と大きな鎌、おまけに人間じゃない。普通の人間なら関わりたくないに決まっている。私は関わってみたいが。

「これは、お母様は気付いていてスルーしたのか?」

 そう私が疑問を述べると、イロウはふるふる、と首を振った。

「天使は、普通の人には見えない」

「なるほど、では私は普通じゃない訳だ」

 こくり、イロウがうなずくと、私は思わず吹き出してしまった。

 まあいいだろう。普通、退屈というのは嫌いだ。せっかく限られたこの人生、やりたい放題が一番いいのだ。

 私はそんな事を考えながら、次の目的を果たすことにした。

「とりあえず私の部屋に行くぞ。ついてこい」


 私の部屋は、厳密には部屋とは違う。

 屋敷の奥の方にある2つある蔵のうち、使われていない1つを間借りしているのだ。そこそこ広いうえに静かで風通しも良いので、快適な環境だ。

 そんな部屋、絨毯の敷かれた床に座布団を置き、卓袱台に天使と対面に座りながら向かい合う。

 一見すると何ともシュールな光景だが、イロウの傍らで横になっている巨大な鎌がシュールを通り越して非現実的な空気を漂わしている。

 イロウは茶をすすりながら、実に当たり前のように佇んでいる。私はそんな様子を眺めながら、

「とりあえず、具体的に何をするのが仕事なんだ?」

 と、率直な疑問をぶつけてみた。イロウは湯呑みをコト、と置き、セーラー服のポケットから何かを取り出し、卓袱台の上に置いた。

 それは何か、金属のようなプレスレットだった。金色をしている。試しに手にとってみると、存外軽い。そして一か所、「ⅩⅢ」と書かれた黒い文字があった。

「……なんだこれは?」

「『漆黒』の腕輪」

「腕輪か。何やら思わせぶりだが、はめると何か特殊能力に目覚めたりするわけか?」

 言いながらも、私はそれを左の手首にはめていた。ポケットから取り出したにしては、ひんやりとしていたのがちょっとした驚きだった。

 イロウはもう一度ずずっ、と茶をすすり、傍らの鎌を座ったまま直立させ、刃を天井に掲げる。

「コレを、御琴にも使ってもらう」

「なぜだ? 理由もなく凶器を持つような女じゃないぞ、私は」

「自己保身」

 イロウは淡々と述べた。

「天使でも、限界はある。自分で守る分は、自分で守れ、といわれた」

「誰にだ?」

「神様に」

 無表情からは、感情を読めない。しかし、間髪いれずに答えているあたり、嘘や冗談ではないのだろう。

 確かに、言われてみれば納得だ。天使がいるなら、神だっていてもおかしくはないだろう。

「それで」

 私はもう1つ質問を投げた。

「その死神のような鎌は、どうやって使うんだ?」

 と、そう言った時だった。

 びくり、とイロウの方が震えた。長い黒髪が波打つ。

「?」

 今までにはなかった反応だ。見ればイロウは、うつむき加減に唇を強く噛んでいる。深い漆黒の瞳に、涙がたまっているようにも見える。

「……じゃない」

「ん?」

 何を泣きそうになっているのだろう、と思っていると、イロウは何かを呟いた。

「死神、じゃない……」

 そう言って声を出すこともなく、ぽろぽろと涙を流し始めてしまった。

 ……なんだ? 何かまずいことを言ったか、私は?

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