1…拾った女の子は、非日常式爆弾でした。-Part1
そういえば、どうしてこんな非日常に巻き込まれてるんだっけ?
今日の朝食は食パンをこんがりと焼いてバターを塗って、いわゆるトーストと言うやつだ。あまり時間を取れない1人暮らしの高校生の朝にとっては、結構お世話になっているメニューでもある。
テレビのサッカーのニュースを見ながら、トーストを食べる。
「んー、んー。やっぱり星の料理って、美味いよなー、うんっ」
「食パン焼くだけに、料理の腕は左右しないでしょ……」
適当に返事しながらテレビを見る。……あ、イングランド負けたんだ……うっわ、すっごい点差じゃん。
「なー星ーっ。今日も『がっこー』に行くのかー?」
ふと、正面でパンをほおばっている我が守護天使様……エルトがそんな事を聞いてきた。
「そりゃ学生だしね。行かないといけないよ」
「はーっ、ご苦労だよなー。毎日毎日『ベンキョー』なんかして、楽しいのかよー?」
「楽しくはないけど……」
「そんなことしてる暇があったら、もっと役に立つことしろよなー」
イラっ、ときた。何さまだろう、この天使様は。私だって好きで役に立たない勉強してるわけじゃないやい。
はあ……とため息をつきながら、私はテーブルを立った。自分の分の食器を片付け、とりあえず洗い始める。
「んー、美味かった。ごちそーさまーっ」
と、私を追いかけるようにエルトも食事を終え、手を合わせる代わりと言わんばかりに、胸の前で十字を切る。……どうでもいいんだけど、この娘はよくこうやって十字を切っている。キリスト教かなんかの天使なんだろうか。
そしてそのまま、床に足をつけないまま、ふわふわり、ふわふわる、と私が名前を読んだらそれだけで宙に浮かびそうな……いや、実際浮かんでるんだけど。浮かんだまま、つい~っと食器を持って移動してくる。
「今日も美味かったぜー、星っ」
「そうだねー」
適当に返事をする。隣ではエルトが「だからテキトーに返事すんなー!」とか起こっているような声がするような気がするけど、なんだか気にしない。
もう、こんな生活が1週間だ。
はあ……どうして、こんなことになってるんだっけ?
私は朝の支度をしながら、ぼんやりと考えてみる。
そう……あれは1週間前、私の人生で16回目の七夕で、この世に生れて16年目の記念日のことだった。
私の名前は星。
これには2つ意味があるらしい。
1つは、七夕生まれだということ。
もう1つは、七夕にあやかって、織姫様のような素敵な出会いに満ちた人生になること。
らしい。ちなみにつけたのは母さんだそうだ。
運命だ、って感じるほどの大きな出会いはまだないけれど……この誕生日でよかったな、って思うことはある。
2人の親友と出会えたことだ。
教室に入ると、もう大分見慣れた教室が目に入る。まるで大学みたいな弓型の大きな机が棚田みたいにズラーッと並んでいる。おかげで、教科書置いたりするスペースに困ったりすることはない。
私が自分の席に座ると、隣から明るい声をかけられた。
「星、おはよー」
「ああ、おはよー」
この時は私もそこそこ健康的な生活をしていたので、割と明るく挨拶を返した。
そんな彼女の名前は、水嶋結弦。
茶髪に少し青みがかった目。どこいでもいる社交的なタイプの女の子で、とある縁から私とは結構親しくしてもらっている。
「ところで、お誕生日おめでとー」
結弦はにこにこと笑いながら、私にそんな事を言ってきた。私もそれに対して、
「ありがと。そっちもね、おめでとー」
「えへへぇ、ありがとー」
そう言ってまた笑い、再び話を切り出した。
「桐也君は? 今日は一緒じゃないんだね」
「ん、そういえばそうだね」
「はあ、駄目だねー星は。そんな事じゃすぐに別れ話切り出されちゃうよー?」
意地悪くそんな事を言う結弦に、私は返す。
「さも付き合ってるみたいに言わないでよ」
「え、違うの?」
「違うよ」
ふ~ん……と結弦は驚嘆したようにきょとん、という瞳をする。いっつも違うって言ってるのに、どうして毎回毎回聞いてくるかな。まあ、もう慣れたことだけど。
そんな事を3秒くらいで考えていると、
「あ、ほら。来たよー」
と、結弦の声がした。
「おっはよ、桐也君ー」
「よーっす」
と、単調に返したその影が、もう1人の私の親友だ。
名前は、榊桐也。私の幼馴染で、これまたとある縁で、かれこれ10年以上の腐れ縁になる。
青黒い髪に、切れ長の目。いつも落ち着いているというか、無感情と言うか、内面的に少し変わったところはあるけれど、しばらく付き合ってみると(恋愛云々じゃなくね)イザというときに頼りになる奴だ。
桐也がカバンを置いてこちらに来ると、結弦が明るい声を私にしたように桐也にもかける。
「誕生日、おめでとー」
「ああ、そっちも」
「えへへー。まあ、女としては、これ以上年食いたくないなー、って思っちゃうね、星」
「……まあね」
軽くため息。女の子の宿命として、若さは保たねばいけない。
「その点、桐也はいいなあ。そういうの気にしなくて良くてさ」
「どーやったって年は食うもんだろ? 抗うだけ人生の無駄遣いってやつだ」
「う……まあ事実だけど、女の子にはその限られた人生をパーッと華やかに過ごしたいっていう本能的な願望がね……」
結弦がいうと、桐也は1つ嘆息して、
「まあ、そりゃそうだが。結弦のいう『パーッと華やか』の度合いにもよるんじゃねえの?」
「うーん、具体的にかあ……」
む~、と結弦はしばし考え込み、やがてパッとひらめいたように、
「何か非日常に出会うとか!」
「たとえば?」
思わず口をついた私の疑問に、結弦は「よくぞ聞いてくれました!」と言って、
「なんかと戦うとか!」
「なんか?」
「こう、どこかの悪の組織に所属して、メイドとして働きながら神○教会と戦ったり……」
「どこの澱の神々だ」
桐也がぴしっ、と突っ込むと、結弦は「じゃあ……」と人差し指をたて、
「空間隔離都市で、魔王になるために闘ったり……」
「パートナーはどうする?」
「んー、なんかとびっきり強いのが良いな。魔王クラスの」
「魔王になるために魔王を従えるのか? 本末転倒だろ」
「う……じゃあじゃあ、天使みたいの」
「マリア○レセルはそこまで暇じゃないだろ。それにコスプレ天使だぞ?」
「そこがいいんじゃん」
「まあそうだけど」
「……あのさ、さっきから何言ってるの?」
私が言うと、2人は『ですよねー』みたいに顔を見合わせて、
「ま、リア充の星にはついてこれない話題かもね」
「リア充って言うな」
「ああ、星はリアルも充実してないもんな。空虚な人生」
「うう……うるさいやい。平和が一番だもん。そう望むのはいけないことですかねぇ、結弦さん、桐也さん」
「悪くねーよ。ただ、つまんねー人生だなって言いたいだけだ。な、結弦」
「うんうん」
「むー!」
と、毎日こんな他愛もない会話をしている私たち。
そんな私、結弦、桐也の3人には、ある共通点がある。
それは3人とも、まったく同一の生年月日を持っているということだ。