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1…拾った女の子は、非日常式爆弾でした。-Part/γ1

 ふと、立ち止まって周りを見回す。

 何もない。何も見えない。頼りない光を放つ街灯が点々と並んでいるが、それ以外は完全に真っ黒な闇。そんな中、私は立ち止まった。

 どこからか視線を感じる。

 誰かが、私を見ている気がする。しかし、気配は感じられない。

「何だ……?」

 訝しみながら、私は目を軽く閉じて、気配を感じ取ろうとする。

「……」

 そのまま5秒ほど。気配は感じられない。ということは、私の気のせいなのだろうか。

「まあ、私のような美人が独り歩きいるのだからな。神経質になって当然か」

 どこか残念そうな色を少しだけ混ぜ、私は呟いた。


 私は、原河御琴。

 つい今日、17歳になったばかりだ。今日は本当に面白いことが多くて、いちいち語るのも面倒なくらいだ。最高の誕生日になった気がする。

 だが、強いて1つ上げるとするなら――結弦が連れてきた、2人の後輩たちだ。

 女子の方は、三条といったか。白人のハーフだと言っていた、金髪で青い目で、白く細い体が特徴的な奴だった。背も高い方だろう、結構な美少女だったな。私ほどじゃあないが。

 もう1人の男子の方、榊といったな。切れ長の目をしていて、落ち着いた雰囲気をしていた。何となくだが、話の合いそうな奴だったな。あと、まあ……私の知り合いに、よく似ている。

「退屈がなくなりそうだな。いい気分だ」

 と呟いて、私は夜の道を1人で歩いていた。

 本来なら、私は電車で学校へ通っているのだが、今日は別だった。なぜかは知らないが、歩いて帰りたい気分だった。何度か歩いた道ではあるが、こういう気分、こういう真っ暗な状況で歩くと、まったく知らない道のように思えてくる。

 そんな得体の知れない感慨に浸っていると、不意に携帯が通話着信を伝えていた。画面から見知った番号を確認すると、私はそれを耳に当てる。

「桐葉か? どうした」

『う~、ここがどこだかわからないにゃー』

「また迷子か? いい加減に道を覚えたらどうだ」

 むーっ! と電話越しに憤慨する桐葉の声を聞いて、私は少し笑ってしまう。

 学校を出てからは少し同じ道を歩いたが、すぐに別々の道に分かれてしまったため、今はお互いに1人で歩いているのだろう。

 しかしまあ、桐葉には困った性分があった。

 強烈な方向音痴だ。もともと体の弱かった桐葉は、中学まで病院が家のような生活を送っていた。そのためか外に出ることが殆んどなく、結果としてこのありさまと言うわけだ。

 私はそんな親友に呆れつつ、返事をした。

「やれやれ、やっぱり1人にするんじゃなかったな。仕方ないやつだ」

『ううー、人の悪いところにケチ付けるもんじゃないにゃ』

「仕方ないだろう、事実だろうが」

『うるさいにゃー、私よりも胸小さいくせにーっ!』

 どー、ん。擬音が聞こえた。

「…………お前なあ……それ、言うなよ………………」

『にゃ、にゃあ。悪かったにゃ、謝るからそんな泣きそうな声出さないでー』

「……まあ、いい。もうなんか慣れた。慣れたさ。ああ、どうしてだろうな。どうして私の摂取した栄養分は、女として最も大事なところに行かないのか……」

『まあまあ、女は胸じゃないにゃ』

 電話越しに優しい声をかける桐葉に、私は黙って耳を傾けた。

『人は中身が大切だ、って、あの時私に言ってくれたのは、御琴りんじゃないのかにゃー?』

 と、私の言葉をそのまま返してくる桐葉に、私は自然と笑みを浮かべながら、

「……そうだったな」

 と返していた。桐葉はいひひっ、と笑って、

『と、とにかく、私は頑張って帰るから、御琴りんもいろいろ頑張るにゃ』

「お、おう。頑張れよ桐葉」

『にゃーん。じゃあ、切るにゃ』

 ぶつっ。と音がして、電話は無音になる。

「……結局、どうやって帰るつもりなんだろうな、あいつは」

 何をしに電話をかけてきたんだか。まあ、なんだかんだでうまくいくのは、桐葉の専売特許だ。今回もなんとかなるだろう。

「さて、私も帰るか」

 背伸びをしてそんなことを言い、私は目的の方向へと視線を向け、


 目の前に人がいることに、今になって気付いた。


「……?」

 私が驚いたのは一瞬だった。その後、しばらくその人影を観察してみた。

 学生のような女だ。服装は黒のセーラー服。黄色いスカーフを胸の前で結び、スカートも真っ黒だ。私と同じような真っ直ぐな黒髪を背中に垂らし、やや幼い顔立ちには全く表情が浮かんでいない。完全なる無表情だ。

 そして、何より異様だったのは――

 スカートの前で合わせている、服とは対照的な白い両手に、巨大な鎌を握っていたことだ。

 銀光りする持ち手は2mほど。それの半分くらいの大きな刃が暗闇の中で不気味に街灯の光を反射している。

 そして、その漆黒の瞳で、私を真っ直ぐに射抜いている。何をするでもない、その巨大な鎌で斬りかかってくるでもない。本当に何もない無表情で、ただ、見ているだけ。

「誰だ、お前は」

 私は自然を間合いを取りつつ、その女に言葉をぶつけた。

「私には誰かに恨まれるような覚えはないが。通り魔だったら他を当たれ。私を狙いたくなる気持ちはわからんでもないが」

「……」

 人影は何も告げない。表情も変えず、瞬きすらしない。本当に人間なのか、と疑いたくなるほどの機械的な表情だった。

 すると、唐突にその影が言葉を発した。

「あなたの名前は?」

 その不気味な見た目に反して、風鈴のようなか細い声だった。か細く、そして涼しげに。漆黒の瞳は、何かを伝えたがっている訳じゃないだろう。ただ、こちらの反応を待っている。

 私はその誘いに、乗ってやることにした。

「私は、御琴だ。原河御琴」

「あなたが、みこと?」

 初めて相手の表情に変化があった。純粋に驚いたような顔。瞳は少し大きく見開かれ、視線もやや上に移っている。

 ……何だこいつは、と警戒心を張り巡らしつつ、私は答える。

「そうだ。何か用か?」

 そう言うと、その人影はふう、と注意しないと聞こえない声で息を吐いた。心なしか、ホッとしたように見えた。

「ずっと、あなたを探してた」

「私を?」

 こくり、と小さくうなずいた。

「何のためにだ? 私には百合趣味はないが」

「あなたを守るため」

 淡々、と。やはり機械的に返事をする。

「お前は、誰だ?」

 私はそんな調子の相手に本格的に警戒心を現しつつ、もう一度質問を繰り返した。

 すると、その人影は、淡々とこう答えた。

「イロウ」

「いろう……それが名前か」

 こくり、とうなずく。

「その鎌は何だ?」

「私のチャームポイント」

 ガシャン、と重厚な音とともに、重たげな鎌を胸の前まで持ち上げてそう言った。

「何で私を探していた?」

「あなたを守るため」

 と、今度ははっきりと真剣な表情になって、イロウ、というらしい女は言った。


「私は、御琴の守護天使だから」

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