1…拾った女の子は、非日常式爆弾でした。-Part/β1
変な奴、という言葉を少しだけ掘り下げてみる。
ついさっき星に言われたことだ。
まあ、自分でもそういう自覚はある。確かに、人と比べれば俺の性格とか価値観とかは、少し違っているような気はする。だからと言って直すつもりもないんだが。
「……つーか、人に注意するよりも自分が普通になれっての」
夜空に言い捨ててみる。
「少なくとも、お前よかは普通だっつの」
榊桐也。それが俺の名前だ。今日で16歳になる。
今はそれなりに平凡な生活を送っているつもりだ。今日は結弦の誘いで、原河先輩という人と、白鳥先輩と言う人と、担任の吉瀬先生と一緒に6人で夕食をとっていた。
その最中に、大量の流れ星を見た。
流星群、というのだろうか。俺は星とは違って、天体なんかに詳しくはない。せいぜい、ニュースなんかで見て、珍しいなーとか思っていたくらいだ。
今さっき見てきた光景は、本当に神秘的というか幻想的というか……そこまで洒落た人格ではないとは思っているが、そう形容するのが最も的を射ていると思えた。
しばらく忘れられない誕生日、と結弦は言った。
そういえば、と俺は思う。
今までで印象に残っている誕生日なんか、全くと言っていいほど無いような気がする。それが今日になって、ようやく強烈な印象を俺の脳に刻みつけた誕生日だった。
何かがある。
俺はそんな感情になりながら、夜の帰り道を1人で歩いた。
できれば、あんまり損にならないことが起きてほしい、と、ファンタジックなことを考えながらシビアに分析している自分に、少しだけ突っ込みを入れたくなった。
○
星のマンションから歩いて3分もかからないところに、俺の家はある。5階建てのアパートの最上階の部屋だ。高台にあるということもあって、この町の夜景をざっと見渡せる。家賃が安い分、エレベーターなんてものとは無縁だ。今日も長い階段を上り、自分の部屋へ向かう。
「はぁ……今日は割と疲れたな」
今日は早めに寝ておくか、と考えながら、5階へ続く階段を登り終える。更にその一番奥にある俺の部屋へと足を引きずって面倒くせえなー……と、思っていた時だった。
白い通路に、寂しげな白い電灯。その通路の一番奥、俺の部屋の扉の前に、何かが置いてある。
「……なんだありゃ」
ここからではやや遠い。俺は小走りにその正体を確かめようと近づいた。
それは、小さな女の子だった。
髪は水色で、背中まで真っ直ぐ垂れている。白いセーラー服に、やはり水色のスカーフを胸の前で結んでいる。スカートはくるぶしくらいまであり、靴もはかずに裸足のままだった。目はぴったりと閉じられ、すうすうと小さな呼吸音とともに小さな方が上下する。眠っているのだろうか、身体をL字に折り曲げて、背中は俺の部屋の入口の扉にもたれさせている。
12歳くらいかな、と思った。おそらく身長は140センチ前後、と言ったところだろう。
それはさておきだ。これは何だ?
一言で表そう。邪魔だ。これがこのまま扉をふさいでいると、俺は部屋に入れないのだ。
かと言って寝ている女の子を勝手に抱えて移動させるのもどうかと思う。下手に騒ぎを起こしたら、バイトをクビになりかねない。
俺はまずその子の目を覚まそうとしゃがみこみ、頬をぺちぺちと手のひらでたたいてみた。
「おい、おーい」
「……んん……?」
規則的な呼吸音がやみ、ゆっくりと目を開いていく。その瞳も、昼間の空のように澄んだ水色だった。カラコンだろうか? 俺の幼馴染は白人の青い目を持っているが、それでもここまで明るい色彩じゃない。
やがてその子は目を完全に開ききり、ぱしぱし、と何度か瞬きをして、
「だれ?」
と言った。こっちの台詞だ、と俺は呟いて、
「そこをどいてくれ」
「……え?」
「だから、そこをどいてくれ。家に入れないんだ」
「ん……ああ、ここ?」
くるり、と背後を振りかえり、自分が扉にもたれていたことに気付いたのか、ゆっくりと立ち上がった。俺もそれに合わせて立ち上がる。
「ゴメンね。邪魔してたみたい」
「ああ、構わねーけど。……ところでさ」
「ん、どうしたの?」
その澄んだ瞳でこちらを見上げる女の子に対し、俺は気になっていたことを尋ねてみた。
「何してたんだ? なんか理由がないと、こんなとこをうろついたりしねえよな」
なんせ、最上階の端っこだ。友人の家とか、自分の家が分からなくなったとかならまだ分かる。ここはそういうふうに探しまわってたとしたら、真っ先に選択肢から除外される部屋だ。
それを尋ねると、女の子はああ、と見た目に会わない大人びた微笑をたたえ、
「人をさがしてたんだ」
「ふーん」
「それで、その人のすんでるとこがここだって……あれ?」
と、何かに気づいたようにハッとした表情を浮かべ、
「じゃあ、キミが榊桐也?」
と尋ね返してきた。
ああ、と素直にうなずくと、その子はぱあっ、と明るい笑みを浮かべて、
「やっと見つけたぁ」
「……?」
「あのね、ボクはキミを探してたんだ。えと……桐也、でいい?」
いきなり妙なことを言い出した。俺を探してる? 何の縁があって……。
とりあえず話を聞こうと俺は頷き、彼女の話を聞いてみることにした。
「ボクの名前は、アリィっていうんだ」
「ありぃ?」
「愛称だけどね。ほんとうはアルルスタっていうんだけど、長いでしょ? だから、アリィってよんでほしいな」
「そっか……じゃあ、アリィ」
「なに、桐也?」
無邪気に、しかし大人びた表情で笑いながら俺を見上げてくる。
俺はなにかデジャブを感じながら、彼女に素直に聞いてみた。
「お前は、どうして俺を探しているんだ? 初対面だよな?」
「うん、そうだよ」
ますます分からん。初対面でどうして俺を探しまわる? 生き別れの兄妹かなんかなのか? まさかとは思うが。
しかし、アリィは俺の想像を超えた返答をしたのだ。
「ボク、桐也をまもるために来たんだ。桐也の、守護天使なんだよ」
珍しく、言葉がしばらく出てこないという状態に陥った。