1…拾った女の子は、非日常式爆弾でした。-Part/α3
初め、私は目の前の光景に感動を覚えた。
「うわぉ……これはスゴいね」
頭を天井に強打したラミラミは、高く、高くジャンプしたまま、空中にふよふよと浮かんでいる。
「ふみゅー、結弦んには今、私がるっきんなう、出来ておられますさかいかね?」
やはり結構痛いらしい頭をさすりながら、半分涙目でこちらを見るラミラミ。
私はそのいじらしい……こほん、かわいらしい姿になぜかどきどきしながら、
「見えてるよ?」
と答える。今の質問は何となく、「結弦さんには今の私が見えるのかな?」という意味だと考えたからだ。Looking nowの部分で判断した。
私が答えると、ラミラミは少しだけ目じりに涙を浮かべながらえっへん、と言いたげに薄い胸を張った。
「私は天使であるがゆえんたまけりすすに、このような芸風も獲得されているのだよー」
「おおー! 天使は宙に浮いていられるんだね! かっこいー!」
いやはははっ、どーもどーも、とラミラミは照れもしない、ベテラン芸人が大観衆の拍手にそうするように片手で返事をした。……どうでもいいけど、本当に発音しづらい名前だ。実感できない人、らみらみ、って10回行ってみよう。10秒以内に。
さってなりー、とラミラミはくるん、と空中で一回転。短いスカートが翻り、あやうく下着が見えそうに……と、思ったけど、さすがにそうはならなかった。ちょっと残念。
「結弦ん、敵に素のままで、ぷれぜんと、をせんど、するのだよー」
「プレゼント? 私に?」
「その一方通行だよぉ」
その通り、と言いたいのか。考えた途端に、ラミラミはえいやっさー、とこちらに何かを投げた。綺麗なスリークォーターのフォームから投げられたそれは、ふわぁとゆっくりこちらへ飛んでくる。これには自分の意思とかそういった類はないらしく、重力と人類の力学に従って私のところへ飛んできた。それを両手でキャッチ。
「……何、これ?」
「ふっふふっふふーんのふーんふふふふふーん」
彼女から渡されたそれは、金色の細いブレスレットにようなものだった。
金属質に輝いているけれど、プラスチックかなんかなのか、恐ろしく軽い。きれいな円形をしていて、その円周上に一か所、黄色いマークがついていた。小さくてよく見えないけど、注視してみるとそこにはローマ数字で「ⅩⅤⅡ」と刻まれていた。
「じゅうなな……なんだろ、これ」
「みゃにょー。結弦ん、それをはめるのが得策に存ぜけるよー」
「?」
試しに右手にはめてみる。うーん、やっぱりブレスレットだ。
「綺麗だなあ……ありがとね、らみ……らみら、み?」
「はれ?」
「ううー、呼びづらい。ね、これから簡単に呼んでいいかい? ラミぃ、でどうかな」
「らみぃ、らみぃ? きゃははっ」
私はとにかく呼びづらい彼女の名前を、ラミぃ、と略して呼ぶことにした。まあ向こうからして「結弦ん」と若干舌っ足らずな呼び方をしているので、おあいこさま、という感じだろう。
「らみぃ、ほひゅーん。結弦んや、その『腕輪』は特に別れるものにあらせるんだよ。大きく切ってくんなさりー」
「はあ……これにも何か、裏があるのかい? ラミぃや」
きゃはははっ、とくすぐったそうにラミぃは笑う。どうやらこの呼び方をされるのがうれしいみたいだ。
「ふっふーん、じゃあラミぃが教えに教えて賜ろうではあらすとーる、だよぉ」
「フレイムヘイ……はっ、こほん。で、何があるんだい?」
「うむう、結弦んにはコレを使役に使ってもらうんださかい」
コレ? 何だろう、と思ったときだった。
ラミぃが右手を少しだけ横に出す。人と握手するときくらいの手の間合い。すると、
ぽっ、と、黄色っぽい光が、ラミぃの手のひらの先に浮かんだ。
「おおっ?」
その光は野球の硬式ボールくらいの大きさで、浮かんだまま静止している。なんだアレは、と疑問を覚えた矢先だった。
バシュン! という擬音が鳴った……ような気がした。
一瞬で、その黄色い光は、ラミぃの身長を優に超す、棒状に変化していた。
そして、ぱしぃん、と光がはじけ、その光は姿を現した。
長い金属質の棒。長さはだいたい180センチくらいだろうか、その先端部分に30センチほどの、流線形の銀光りする金属のような板があり、その根元には簡素な装飾が施された、黄色い鍔がある。
槍。
それも、陸上で使うような槍じゃなく、三国無双で趙雲が使うような、あからさまな戦闘用の槍。
「にっひひー」
ラミぃは相変わらずの笑みを浮かべながら、ぱし、とその槍を右手にとる。うんうん、と満足そうにうなずいてから、
「これが私の『聖装』なのであらせられる」
「せ、せいそう?」
私はなぜか恐怖よりも驚きを覚えながら尋ね返す。
「これに存在したりける槍におかれ、結弦んを守りしに守り、ばとる、の手の段としたりけるのだよー」
「ちょ……ぶ、物騒なものを持ってたら警察に……」
「ほぬー、大きく丈夫に育ったのだよ。私はただの人の間には、るっきん、不可能にあらずあらず」
「……?」
「なればおーけー、たるのさ。警察? とやらに捕らえられたる自分を信じること、まったくと言えばないのだよ」
よくわからないが、
「とりあえず大丈夫なんだね?」
「おりゃー」
「そ、そっか……と、とりあえず、そんな物騒なものはあんまり振り回しちゃいけないよラミぃ。ね?」
「うえええー!」
「そこで思い切りガッカリしちゃだめでしょ。ダメなもんはダメ」
「ううー、のう、したのだからにー。くすん」
何がそんなに悲しいのか、ラミぃはへたり、と絨毯の敷かれた床に座り込んで、おいおいと泣きだし始めた。からん、と手から離れた槍が軽い音を立てて床に転がり、そのままスウ……と消えてしまった。
「ふええ~ん……ぐすん、ひっく……」
「ああ……な、泣かないでラミぃ。泣かないでよぅ」
私はそんな様子に黙ってはいられず、ラミぃの近くへ移動して、とりあえず頭をなでてやった。
「ご、ごめんねラミぃ。私を守るためには、この槍が大切なんだよね?」
「う、うう~……」
「ああ、もう、大丈夫。大丈夫だから。ね?」
何が大丈夫なんだろう、とは思いつつも、私はラミぃをなだめようと、ぎゅっ、と彼女を抱きしめてあげた。見た目よりも、もっとか細い体は、しかしとても温かかった。
「よしよし……私が一緒だから、泣きやんで?」
「うう、ひっく……うむ……」
ぽろぽろと、碧色の瞳から透明な涙を流しつつ、ラミぃはうなずいてくれた。大丈夫かな、と思い、私は彼女を自分の体から引き離した……ところで気付いた。
「ん?」
ラミぃの両腕が、いつの間にか私の首の後ろに回っている。まさか首を絞めて……と思ったけど、違うみたいだ。どうも、両手は私の肩甲骨の間あたりで合わさっているらしい、私の首をはさみこむように、きれいな手首が2つ。
ふと前に視線を向けると、ラミぃの顔がとても近いところにあった。一瞬だけびっくりして心臓が止まりそうになったけど、そのあとは違う意味で心臓がどきどきした。
なんせ、作りものみたいに綺麗に整った顔立ちをしている。そんな女の子の顔が、約数センチ手前にある。同性とはいえ、これはどきどきする。仕方ない。
「ん、ラミぃ……?」
ラミぃはとてもほっとしたような、驚いたような、複雑な表情をしている。
そして、大きな瞳をゆっくり、ゆっくりと細めて――そこで気付いた。この子が何をしようとしているのか。
「ちょ、ちょっと……!?」
と口にしたときには、もう言葉が出なかった。
ラミぃの唇が、私のそれに優しく重ねられたからだ。
「……んっ、んん……」
ラミぃは瞳を完全に閉じ切っている。
……断じて言おう。水嶋結弦、15年の人生でキスなんて1度もしたことがない。その貴重なファーストキスを……天使に、それも女の子に奪われてしまっている状態だ。
だけど、不思議と抵抗はしなかった。
ラミぃの唇はとても温かくて、柔らかくて、まるで睡眠薬でも塗っているんじゃないかと言うくらいに、私から理性を奪っていった。
私も、気がつけば瞳を閉じて、意識がとけていく感覚に身を任せていた。
○
7月8日。
どうしてだろうか、昨日は何があったかよく覚えていない。気付いたら制服のままで絨毯の上で眠っていた。おかげで体中、あちこち痛い。
「結弦ん、朝にあらせたまれー」
「ん……?」
そんな、無邪気で明るいラミぃの声がする。高い声なので、耳によく通る。
「ああ、おはよラミぃ……」
「んっふふー」
「?」
なぜだか、妙に上機嫌だなぁ……いや、まだ会って1日経ってないし、元からこんなんだったような気がするけど。
私は背伸びをしながら、ラミぃの、
「お腹が空腹にあらせられるよー。何かをめーきんぐ、して欲する!」
「……ああ、カップ麺作るから待ってて」
こうして、私は超ハイテンション天使・ラミぃとの生活を始めたわけだ。
……ていうか、本当に何も分からない。昨日、ラミぃがでっかい槍を持っていたあたりからのことが思いだせない。何があったのかな?