1…拾った女の子は、非日常式爆弾でした。-Part/α2
「ちょ、ちょっと待とうか」
混乱する頭で興奮を隠しながら、私はラミラミに両手を向けて、
「て、天使ぃ? 天使って、あの……空から落ちてきて、マスターの楽しめる事をなんなりと……っていう、あの天使かい?」
「うんみゃー。そうにあらせる言い訳とはでぃふぁれんす、なのだよー」
それとはちょっと違う、ということだろうか。
「先に申された通り、私は結弦んの守護天使に存在しけるのだよ。なれば、結弦んを守護におおせるのが、私の指された命にあらせるのだよー、お分かりかね、しんでれら?」
「シンデレラって……と、とにかく」
いろいろと破綻している日本語を、言葉の断片からなんとか解読しつつ私は言ってみる。
「結弦さんを、守ってくれるのかい?」
「いえす、あーい、きゃんと!」
きゃはははっ、と笑って空に両手を広げながら「そうです、私はできませーん!」と叫んだ。なんだこの子は。
「さればー、結弦んのことをー、守りに守りて、きゃははははっ」
「?」
なんだろう、本当に何が言いたいんだろう。全く分からないけど、なんだか面白い子だなあ、とは思った。
「まあ……とりあえず、上がってよ。外じゃ近所迷惑だし……ね?」
「うむぅー。よきにはからいにあらせるに、さてぃすふぁくしょん、だよぉー」
「うう、私達の満足はこれからだ!」
ヤケクソ気味にノッてみたら、ラミラミはきゃははっ結弦ん面白きたまわりー、と笑っていた。
うむう……天使か。変な子だなあ。
○
おなかが空腹にあらすとーる、だよーとおっしゃるラミラミに、私はとりあえず今日のあまりとして吉瀬先生に貰ってきたカップ麺を作って食べさせてあげた。本当は明日の朝ご飯にしようと思ってたんだけど、まあ仕方ない。と可愛い女の子に負けて栄養分を差し出してあげた。
「んむう~、未だに食べちゃでんぢゃー、なのかい結弦ん?」
「だって、まだ4分経ってないでしょ? 後少しじゃん」
「にゅわーん」
不機嫌そうに不思議な声をだしたラミラミは、ぐでーっとテーブルに突っ伏した。
――でも天使って……?
いちおー、常識をわきまえているつもりの結弦さんは思う。
天使、とラミラミは言った。どんな話し方だったかは複雑すぎて覚えていないけど、あなたの守護天使です、という旨の話をしていたはずだ。
「で、守護天使ってなんなんだい?」
「ほにゅーん?」
「ほにゅにゅ、ほにゃー……はっ、そうじゃなくて」
思わずノッてしまった。気を取り直して続けることに。
「守護天使、なんだよね?」
「うむうむ、そのとおりー」
「何から守護してくれるのかな? ひょっとして、何か悪魔との天界戦争に巻き込まれるとか?」
「うんにゃー、あい、どん、のー、なのからにー」
分からないらしい。可能性は0じゃないってことか……ドキドキ。
「さりとて、私は神様なるお人よりも、結弦んの天使において守護たまわれー、とすぴーきんぐ、されたおんりー、なのだよー」
「ふうん……何やら怪しいね」
いろいろと複雑な事情があるようだ。さすがは天使、だてに天使じゃないね。
と、ちーん、と大きめの音がした。あらかじめセットしておいた、タイマーの音だ。
「ラミラミ、カップ麺出来たよ」
「!」
がばぁ、と突っ伏していた体を起き上がらせ、準備しておいた割り箸をパキィン! と思い切り割った。見事なくらい綺麗に両断されていた。
「いただきまーす!」
と、綺麗な日本語で叫んだラミラミは、ずるずると醤油ラーメンを勢いよく啜り始めた。
うーん、美味きに美味し、この世の理におおせるねーと言いながら麺とスープを同時に細い体に注ぎ込んでいく。よっぽどお腹が空いていたんだろう。カップ麺と言うのは、天使にも好評なようだ。
ものの1分でラーメンを空にし、にゃーっ! と桐葉先輩みたいに叫んで、
「ごちそうさまーっ!」
とジャンプした。それは高く、天井に頭をぶつけるんじゃないかと言うくらいだった。
というか、ぶつけた。
ゴン! と除夜の鐘みたいに音がして、108の煩悩の1つ「ハシャギー(でたらめ)」を消し去ったラミラミは、
「うにゅ~……」
と、ぶっつけた頭のてっぺんを両手でさすっていた。
「脳天直撃、あべれーじひっと、なのだよー」
「……まあ、そこまでジャンプ(?)したらぶつけるよね……」
私は納得した。この子はどうやら、天使かどうかはさておき……人間じゃないみたいだ。
だって、人間は宙に浮かんだまま、静止できないもんね。