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1…拾った女の子は、非日常式爆弾でした。-Part9

 その人影は、私から10メートルほど離れたところ……駐車場の真ん中でぽつーん、と佇んでいた。

「……?」

 少し不審に思って、意味もなく近くの車の陰に隠れながらその人影を注視してみた。そこで気付いたけれど、その人影は明らかに普通には見えなかった。

 まず髪の色だ。夜の黒に真っ向から抗うかのような赤。これでもか、といいたげな真っ赤な髪を膝のあたりまで伸ばし、夜風にゆらゆらと揺れている。まるで何かが煌々と燃えているようにも見えた。

 うっすらと見える横顔はやや幼い。背の高さは、近くに止まっている白いバンと同じくらい。150センチくらいだろうか。スカートをはいているあたりから察するに女の子なのだろう。あるいは女装している変態とか。

 そして、手のひらに何か紙きれのようなものを持っていて、じっとそれを見ている。

「…………」

 どうしよう。

 この場合、どう対処すればよい物なのか。素直に声をかけるべきかな? しかし万が一のことを考えると、ここはスルーしておいた方が良い気がする。あいにく、私には格闘技とか護身術とかの心得はない。中学の時はテニスやったりしてたけど、それもここで役立てる機会はないだろう。

 ……と、不意に人影がこちらを向いた。やばい気付かれてますか!? と思ったらそうでもないらしい。特に何に視線を固定するでもなく、きょろきょろと周りを見回している。

 その時に見えた顔は、

「……わぁ」

 と、思わず声を漏らしてしまうほど綺麗だった。人のものとは思えない……とは言いすぎかもしれないけど、大きな黒い瞳とか、整った目鼻立ちとか、非の打ちどころがない。あと余計なことを言うと、顔を見る限りでは女の子で間違いないようだ。

 さて……私はどうすればいいのかな。いっそ明らかに年下っぽいあの女の子に声をかけてあげるべきだろうか。

 しかし三条星、本日で16歳とはいえ、知らない人に声をかけるのはやや抵抗感がある。桐也の言うとおり、人見知りなのは自覚している。

 うう……本当にどうすればいいんだろう。そんな事をこそこそと考えていると、

「はぁー……みつかんねーなー」

 と、彼女が苛立ったように声を上げた。

 みつかんない……と聞こえた。聞き間違いでない限り、彼女は人ないし物を探しているんだろう。でも何を?

 偵察者のように聞き耳を立てながら、私はこそこそと隠れ続ける。

「ちくしょー、全っ然、分っかんねーよー」

 くしゃくしゃと頭を掻きながら、白く綺麗な左手に持った紙きれに視線を向け、困ったような表情を浮かべている。

 ど、どうしよう……なんだか彼女は困っているっぽい。ここは高校生として、年長者として、声をかけてあげるべきなんだろうか。

 いや、なんだか厄介なことがありそうだぞ。と私の第2脳内人格が告げている。今日は疲れたでしょ? さっさと部屋に戻って休んじゃおうよ。

 それもどうかと思うけど、確かに今日は疲れている。いろいろあって。よし決定。今日は部屋に戻っちゃおうか。

 彼女は紙切れに意識を向けている。よし今のうちに、と私は運動神経を総動員し、あくまで静かにマンションの入り口へと移動する。……と、

「おろ?」

 と、私の口から声が出た。

 ちなみにここで状況を説明すると、私は車の陰に隠れている間はアスファルトに片膝をついていたのですが……今日はわけあってコンクリの床に正座しておりまして。足がしびれちゃっているのも、しょうがないでしょ?

 つまり私は、立ち上がった拍子にバランスを崩して、ばったーん、と地面に倒れ込んでしまった。

「ぎゃっ!」

 そんな妙な声を上げながら、私は地面にうつぶせになったまま思った。恥ずかしい。そして痛い。16歳になって、平らな地面で転ぶなんて……人生の折り返しは19歳っていうけど、私はもう折り返してしまっているのだろうか。

 そんな事を考えながらふらふらよたよたと立ち上がり、

「つつつ……ドジだなあ。結弦に知られたら、丸一日笑われ続けるだろうなあ……」

 と余計なことを考えてしまったが故に、更に恥ずかしくなった。あと泣きたくなった。

「お、おい……大丈夫か?」

 横からかけられる優しい声に、私はなるべくいつも通りの声で答えた。

「う、うん大丈夫……今日で16だし、このくらいで凹んでられないし」

 そっかー、と笑うその影に私もアハハ、と愛想笑いをかける。

 ……ん? と、ここで違和感に気付いた。

 確か、私の周りに人はいなかったはず。この時間じゃあ、通りかかる人も少ないだろう。いたとしたら、私が監視していた女の子が1人だけ……?

「?」

 私は改めてまじまじとその影を見ると、


 さっきまで遠巻きに監視していた女の子が、目の前にいた。


「ていうか、なにもないところで転ぶなんて、バカだよなー。いひひっ」

 心の底から面白そうに笑うその人影は、真っ赤な髪に黒く大きな瞳、整った目鼻立ち。服装は紺色のブレザーに赤いネクタイという、おおよそ学生みたいな感じだった。締め方がゆるいのか、白いのどがはっきりと露出していて、紺色の服の中でとても印象的だった。

「……ぁの、どうも」

「ん? ああ、よー」

 笑顔のままで片手を上げて私の挨拶に答える彼女。

 ……えと、これはチャンス? 私の第1脳内人格が告げている。いいきっかけじゃん、いっそ話を切り出してみたら?

 うん、この場合はそれが良い気がする。

「あ、あのさ」

 私は立ち上がって制服についた汚れをぱんぱんと払いながら立ち上がる。同時に女の子も立ち上がって、

「なんだよ?」

 さわやかに笑いながら尋ね返す。なんだか話しやすい感じの子だな、と判断して、話を切り出すことに。

「さっきから、あなたのことを見てたんだけどね? なんだか困ってたみたいだけど……その、どうしたのかなーって」

「ん? ああー、それがなー」

 やけにフランクな口調で愚痴をこぼすように女の子は語る。

「ウチさー、人探ししてんだよ」

「はぁ」

「でもさー、全然手がかりがなくてよー。困ってんだよな」

 また白い紙をもって言葉通りの困った表情を浮かべる。

「なあ、手伝ってくれよ」

「はぁ?」

 初対面の人に何を言ってるんだろう、と思いながらも、

「ウチ、本気で困ってんだ。なあ、頼むよー」

 と本気で懇願する女の子を見ると、断る気にはなれず。

「そ……そう。私でよければ、力になるよ?」

 と、勢いで返事をしてしまった。

 瞬間、女の子はぱあっと顔を明るくして、

「あ、あんがとなっ! ウチ、本気で助かるぜーっ!」

 白い指のくっついた綺麗な両手で私の両手を握って、大きな瞳を輝かせた。

 やれやれ……と私は苦笑する。子供の面倒をみるというのはあまり経験がないけれど、悪くないかもしれない。女の子だし、母性本能というやつだろうか。

 ありがとありがとと何度も言う女の子をなだめてから、

「それで、その探してる人って、なんて言う人?」

 と尋ねてみた。これを知らないことには、何も始まらない。

「んー、えっと……」

 女の子はさっきまで持っていた紙切れに再び目を走らせる。その紙には探している人の情報が書いていあるのだろうか。

「名前は? なんていうの?」

 私がダメ押しのように尋ねると、その女の子は言った。


「さんじょう……せい? って読むのかな」


「……ん?」

 一瞬、聞き間違いかと思った。しかし、女の子もまたダメ押しのように、

「なあ、三条星、だって。知らねーか?」

 と、純粋な瞳で訪ねてくる。

「えと……」

 私は一瞬、判断に困った。

 断じていい、私はこの娘とは完全に初対面だ。探されるようないわれはない。ひょっとすると怪しい人なんじゃないか、という疑問を持ってもいいと思う。むしろ持たなきゃだめだろう、この物騒な世の中。

「なあ、知らねーか? 頼むよ、教えてくれよー」

「……あ、あのさ」

 少しばかりの疑念を持って、私は2つ目の質問をした。

「あなたは、どうしてその人を探しているの?」

「どうしてって、」

 なんでそんなこと聞いてくんだよ、と言わんばかりに女の子は言った。

「そいつを守るためだよ」

「まもるって……」

 意味が分からない。守る? 何から? 母さんがボディーガードでも雇ってくれたんでしょうか。いや……だからってこの私より明らかに年下の、腕も足も細い、おにんぎょうさんみたいな女の子を?

 泉のようにとめどない疑問に私は何をトチ狂ったか、

「三条星は、私だよ?」

 と答えてしまった。何をやってるんだ、と後悔したのは7秒後。

 しかし、そんな私の心境とは裏腹に、

「あ、お前かー! そっかー、やっぱりなーっ」

 と、どこまでも無邪気に笑う。

「初めましてだな、星」

 いきなり呼び捨てされた。私はその透き通った声で我に返り、

「あのさ、あなたは誰? どこから来たの?」

 そう尋ねると、待ってましたと言わんばかりに彼女は答えた。


「ウチの名前は、エルトってんだー。わけあってさ、星を守れって天界から落ちてきたんだよ。ウチは星の『守護天使』なんだぜーっ。すげーだろー」


「……守護、天使ぃ?」

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