かわいい小鳥
エルンストは椅子を引きずり廊下を歩いていた。目的の窓の前に椅子を置き、靴を脱いでよいしょと椅子に乗る。子供らしいぷっくりとした手を窓ガラスに押し当てて、窓の外を覗き込んだ。
(今日もいる!)
窓から見える庭木の枝に二羽のかわいい小鳥。ちゅぴちゅぴと鳴きながら仲良く寄り添う姿はつがいのよう。さえずる小鳥の声に、使用人から『外に小鳥がおりますよ』と教えられてから、エルンストは毎日小鳥を眺めるのを楽しみにしていた。
(このままあそこに巣をつくってくれるだろうか)
そうしたら、卵を温める姿も、雛が孵って育つ姿も見られるかもしれない。わくわくと目を輝かせエルンストが小鳥を眺めていると、突然コオンと大きな音が鳴った。驚いた小鳥が慌てて飛び立つ。カアン、コオンという大きな音が響き続ける。何が、と目を見開くエルンストの前で、メキメキと音を鳴らし木が傾いでいった。
「うわ、うわああ!!」
叫ぶエルンストの元に使用人が駆けつける。窓の外にも人が集まって、にわかに騒がしくなった。庭から、「お嬢様!!!」という使用人の絶叫が聞こえた。
§
(しまった、まさかエルンストが大切に思っていた木だったとは……)
シルフィアは大いに反省していた。弟を大泣きさせてしまったのだ。ちょっと秘密基地が作ってみたいと思い立っただけで、弟を傷つけるつもりはなかった。シモンの説教を受けたことよりも、両親に叱られたことよりも、シルフィアには弟の涙がよほどこたえていた。
物置小屋から斧を引っ張り出し、担いで歩いているときに、『手ごろな太さだな』とあの木が目についただけだったのだ。他の木でもよかったのに。いや、シルフィアは父から「シルフィア、いいかい、木材は購入するものなんだよ」と言い聞かされたのだが。……どうも弟が泣きながら言うことには、毎朝鳥がとまっていたらしい。
「そうだ!!」
いいことを思いついた、とシルフィアは目を輝かせる。つまり弟は鳥が見たかったのだ。近くで見られたらさぞ喜ぶだろう!
準備はそう難しいものではない。必要なのは自生した細い木と、土を掘る道具。後は糸と小枝くらいのもののはず。裏庭の厩舎奥ならば、何箇所かくらい適した場所があるはずだ。シルフィアは自作の書付けを取り出しにんまりと笑みを浮かべる。――物置小屋には鍵が取り付けられてしまったが、あれくらいなら針金とピンでちょちょいのちょいだ。シルフィアは意気揚々と庭に向かった。
§
数日後、エルンストはすっかり気持ちを切り替えて、使用人と共に厩舎に向かっていた。小鳥の巣作りが見られなかったのは残念だけど、そもそもあそこに巣を作ると決まっていたわけではない。元々どこかに飛んでいってしまう可能性もあっただろう。
それに比べて馬はいい。乗れるし、触れるし、大きいし、走る姿はかっこいいし、何より逃げない。うちで飼っているから。
「エルンストー!!」
足取りを弾ませ歩いていると、ふいにシルフィアの声が聞こえる。どこから、とエルンストが辺りを見回すと、茂みの向こうに姉の顔が見えた。
「エルンストー! 鳥だぞー!!」
「うわ、うわああああ!!!!」
エルンストは絶叫した。茂みをかき分け笑顔で駆け寄ってくるのはシルフィア。羽をばたつかせる音と、ケエー! ケエー! という怒りに満ちた鳴き声。シルフィアは大きめの鳥の足をむんずと掴んでいて、鳥が暴れるのも何のその、満面の笑みでエルンストに近寄ってくる。
「さあ! 存分に見るといい!!」
「わあああ!! わあああああ!!!」
突きつけられた暴れるでかめの鳥にエルンストは悲鳴を上げた。鳥は必死に暴れけたたましい鳴き声を上げる。使用人も「お嬢様!!」と叫び声を上げた。
「うまいこと生け捕りにできたんだ! さあ、何が見たい!」
顔か? くちばしか? 羽の付け根か? とシルフィアは笑顔で鳥を差し出す。屋敷の方から、血相を変えたシモンが走ってくる姿が見えた。
エルンストはまた泣いて、シルフィアは再び説教を受けた。滾々と言い聞かされながらシルフィアはうなだれる。
何故だ、よかれと思ったのに、と。
FAをいただいてうれしくて、姉上の番外編を書きました(*´艸`*)
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