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第八話 トラブル発生

「はぁ、はぁ、危ねぇ」


膝に手をつき、肩で息をする。

俺たちは急いで会場に向かい、説明会の開始時刻までにギリギリ間に合った。


「カケルって案外足速いのね」


「ん?あぁ元々陸上部だったので」


「な、なるほど?」


そうか、この世界には部活という概念がないのか。そもそも高校とか大学はあるのだろうか。


それにしても、着いた広場は圧巻の広さで、そこにそびえ立つ宮殿もまぁご立派なこと。

純白の壁に、深海のような濃紺の屋根、所々に散りばめられた黄金の飾り。

ベルサイユ宮殿にどこぞなく似通っている。


「すごい宮殿だな。やっぱ王様とかが住んでるの?」


「王様…というか、『始原ノ青』のトレヴィ=アクアリス様の住まいね。ってお姉ちゃんから聞いてないの…?」


「うん、全然?」


「はぁ、まったく、あの人は…。『始原ノ青』っていうのは――」


アイリスが教えてくれたのはこの世界の神様的存在についてだ。


――始原ノ四大神

『始原ノ青』『始原ノ赤』『始原ノ緑』『始原ノ金』と呼ばれる四神のことらしい。

この順番に、水・火・風・地の四属性を司っているとか。


「なるほど…、でこの国はその『始原ノ青』のアクアリスさん?が治めてるって訳か」


「まぁ簡単に言えばそういうこと。この『水の都(アクアリス)』が『不動の要塞』と呼ばれるのはアクアリス様のおかげなの」


「なるほどね〜。ん!これ美味しいな」


「って何食べてるのよ」


「これ?なんか屋台で売ってたタコスみたいなやつ」


実はサーラさんからこの世界のお金、小遣いを貰っていたので買えたのだ。

ただ、看板に書いてある文字は読めなかったので正式名称は分からなかった。

ていうか、なんで文字は読めないのに言葉通じてるのだろうか?


「タコスじゃなくてハコスよ、それは」


「名前のパチモン感すごいな、ハコス」


味はしっかり美味い。

見た目もタコスだが味もほぼタコスだ。


「まぁとりあえず広場の中心にいこうよ」


俺は広場の方向に歩き出す。

すると――


「痛っ!」


横から歩いてきた人とぶつかってしまい、俺は尻もちをつく。


「あ、俺のハコスー!!」


ぶつかった衝撃で俺のハコスは無様にも地面に散らばっていた。

クソ、異世界で初めて買った記念すべき食糧なのに!


「なんだお前。見ない顔だな」


頭上から降ってきたのは、氷のように冷淡な声だった。

俺は上を見上げると、そこには非の打ち所がない金髪の美青年が立っていた。白の汚れひとつない純白のドレスシャツに、漆黒のクロスタイを品よく結んでいる。


そして金髪の後ろには従者のような男が二人。

一人はぽっちゃり型、もう一人は痩せ型の変な組み合わせの二人である。


「ごめんなさい、ぶつかってしまって」


俺は立ち上がり軽く謝罪する。

ただ、少し嫌な予感がする。絡まれるとかそんな感じの――


「おいおい、『ごめんなさい』だ?この方をご存知ないのか?」


後ろのぽっちゃり型の男が威圧するような口調で俺を詰める。

ただ、誰かと言われても異世界人の俺には分からん。


「ルイ=サルバート…」


アイリスが嫌そうな表情で口にする単語。

おそらくコイツの名前なのだろう。


「何?アイリスの知り合い?」


「知り合いだけど…会いたくない相手。性格が腐ってんのよ、コイツ」


「マジかよ…」


アイリスにそれほど言わせるほどの奴って…。


「何をコソコソとしてるんだ?『英雄のなりぞこない』のアイリス=ルミエール」


「その言い方やめてって言ってるよね?ルイ」


突然揉める二人に動揺する俺。

『英雄のなりぞこない』?ってどういう…


「本当の事だろ?英雄の妹のくせに私にも勝てない――」


「やめてって言ってるでしょ!」


アイリスがこの金髪、ルイの右腕を強引に掴む。

その時――


「…ッッ!」


ルイが残った左腕でアイリスの顔面を殴ったのだ。

その衝撃でアイリスは後ろへ倒れ込む。


「はぁ、貴様と同じ『神世代』と括られるのは実に不愉快──ってお前はなんだ」


俺は無意識にルイの左腕を掴んでいた。


「…俺にはお前が言ってる『神世代』や『英雄』の何ちゃら?ってのはわからない。ただ、お前がアイリスのことを侮辱してることはわかんだよ!さっきの殴ったことといいお前が先に謝れ」


「…!」


アイリスが驚いた様子で俺を伺う。

俺自身、なぜこんなにも腹が立っているのか分からなかった。

俺は自分で言うのもアレだが、本気で怒ることは少ないと思う。


「はぁ?なぜ私がお前みたいな庶民ごときに謝罪する必要があるんだ?」


ルイは嘲笑いながら地面に落ちたハコスを踏み潰す。

その行動が俺の怒りの上限を超えてしまった。


──『物理攻撃上昇II』


「ガァッ…?!」


俺の怒りの拳がルイの顔面にクリーンヒットする。

その威力はルイが数十メートルも吹き飛ばされるぐらいで、俺も少しやりすぎたなと、殴ってから正気に戻る。


広場の周囲にいた人たちも騒動に気づいたのか周りの声が大きくなる。


「「ルイ様?!」」


「ちょっとカケル?!」


従者二人は慌ててルイのもとへ、倒れていたアイリスは心配そうに俺のところまでやってきた。


「大丈夫か?殴られたところ」


「うん…私は治癒魔法使えるから」


その言葉の通り、先ほど殴られた頬にはあざ一つついていなかった。


「ならよかった。せっかくの美人が台無しになるところだった、あのクソ野郎のせいで」


「は…?ちょっ、何言って…」


アイリスが頬赤らめて俺を睨む。

照れる姿も睨む姿も超絶可愛いいのだが、今はアイツに集中しなければならない。


「貴様貴様貴様ーーーー!!下賎な下民のくせにこの私の顔に泥を塗りやがって!!!」


ルイの目に血が走り、額には青筋をたて、本気で怒っている様子。

俺の渾身の一撃を喰らわしたはずだが、顔には傷ひとつ付いていなかった。

アイリスと同様に治癒魔法か、それとも効いてないのか…


「まずったな…」


このルイというやつのオーラ、おそらくだが前に戦った魔獣よりも数倍強い…!


俺はふと自分の足を確認すると、俺の足が小刻みに震えていることに気づく。

俺の体は本能的にルイに畏怖していた。


そしてルイの方へ視線を向けた、その瞬間だった。


──キンッッ!!


鼓膜を貫く鋭い高音が響き、眼前には火花が散る。

ルイの剣とアイリスの剣が交わったためだ。


「なっ……!?」


瞬き一つ。その一瞬で、ルイは俺の視界から「消えていた」。

踏み込みも、予備動作も何もない。気がつけば、ルイの剣が俺の喉元へと突き出され、それをアイリスの白銀の刃が間一髪で弾き飛ばしていた。


「カケル!アイツの能力は『瞬間移動テレポート』よ」


ルイの不意の攻撃を弾いたアイリスが俺の横に滑り込む。


「『瞬間移動テレポート』…、出鱈目な能力だな…」


「私がルイを抑えるけど、あの下っ端二人の相手を…」


「俺に任せてくれ、アイツなら俺でも倒せる、はず!今までに戦ってきた魔獣に比べたら屁よ」


「カケルっていつの間に魔獣と戦ってるの…」


「あんたのお姉ちゃんに叩き込まれたんだ、よ!」


俺の前に下っ端二人組が長剣で襲いかかってきたので、俺はサーラさんから借りた剣で弾き返す。


「それじゃそっちはカケルに任せる!けど絶対殺しちゃダメだよ!!」


…そういうところにアイリスの優しさが出てるよね。


「了解!」


「おいおい、よそ見してる場合か?」


ルイが『瞬間移動テレポート』で間合いを詰める。


「うるさい!」


ルイとアイリスの戦闘も本格的に始まった。


「さてと…」


俺は震える脚を両腕で何回も叩きつける。


「おいおい、足震えてやがるよ、こいつ」


「ははっ、さっきのやる気はどうした?ただの蛮勇か?」


下っ端の扇動に俺は受け流すように嘲笑う。


「ただの武者震いだよ」


「チッ、ただのやせ我慢のくせに!」


こうして、大広場での大乱闘が始まるのだった。





次回第九話『宮殿広場大騒動①』です!

お楽しみに〜

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