第六話 いざこざ
俺とサーラさんは門の関所へ向かう。
巨大な石造りの門がそびえ立つ、水の都の玄関口。
関所前は、馬車の車輪が軋む音や、行商人が上げる威勢のいい声、そして旅人たちの熱気で溢れかえっていた。
俺たちもこの列に並ぶことに。
「あ、そういえばこの関所では身分書がいるんだよね」
身分証…高校生なら学生証か?どっちにしろ今は持っていない。
今俺が持っているのは…、スマホに千円札が入った財布ぐらいか。
「へ、自分身分証なんて持ってないですよ…?」
「だよね。なので!カケル君は私の親戚ということにします!」
「え?」
思わぬ作戦に間抜けな声が出てしまった。
「その〜無茶すぎません?全く似てないし…」
「まぁ、そんなこともあるよ!だいじょぶだいじょぶ」
「はぁ…」
「そういうわけで、カケル君の名前は、今日からカケル=ルミエールね!」
まぁそうなりますよね。
「分かりましたよ、サーラさんに任せます」
「よろしい」
こうして半ば投げやり感はあるが、今までもどうにかなっていたのでなるようにはなるでしょう。
しばらくして俺たちに検問の順番が回ってきた。
「はい大丈夫です。次の方──ってサーラ第三団長?!お帰りになさったのですね!」
予想外の反応にビビる俺。
そういえばこの人、ここでは地位高いんだもんな。団長だし。
「うんそうだよ〜」
「サーラ第三団長ならわざわざ列に並ばなくても大丈夫ですよ?」
「いやぁ、今回はちょっと連れがいてね」
サーラさんが俺に視線を送る。
それに合わせて俺は軽くお辞儀をする。
「この方は?」
「私の親戚のカケル=ルミエールだよ。ちょっと身分証を忘れちゃったから後で作るし入っていい?」
「あぁ…そうでしたか。了解です!通って大丈夫ですよ」
「ありがと〜」
こうして案外すんなりと都市に入ることができてしまった。
まぁこれもサーラさんの顔パスのおかげである。
だが…こんなザルすぎる警備で大丈夫なのだろうか?
もう少し厳しくしたほうがいいと思うが…俺の知ったことではないのでいいとするか。
「よし!入れたことだし家に向かうよ。あ!言い忘れてたけど、私の妹のアイリスも家にいるから仲良くしてね」
「えっと…妹さんには許可いらないんですか?」
「大丈夫!あの子優しいから…あっ、いやなんでもない!行きましょ−!」
何か誤魔化した感じがあったけど…大丈夫かな…。
それにしてもサーラさんの妹か。
この人と毎日暮らしてるとなると苦労してそうだな…。仲良くしたいものだ、同志として。
そうして数十分歩いてサーラさんの家についた。
「ただいま〜愛しのアイリス〜」
サーラさんが声をかけると奥からバタバタと足音が近づいてきた。
そうしてサーラさんの妹と相対する。
「はいはい、お帰りって…その男誰?!!」
(まぁそうなるよね)
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その後サーラさんがその場を取り繕い、リビングで話し合うことに。
「い、異世界人???を、私たちの家で匿う??」
そう驚くのは、サーラさんの妹である『アイリス=ルミエール』だ。
やはり、サーラさんの容姿から予想はついていたが超絶美少女である。
髪はサーラさんと同じ太陽のように鮮やかな橙色のロング。
吸い込まれそうなほど澄んだアクアブルーの瞳。
背丈は俺より少し小さくて、年下か同い年ぐらいだろう。
ただ…デカイ。何がとは言わんが、とにかく主張が激しい。
サーラさんも相当だが、それよりもデカそうだ、けしからん。
ってそんなこと考えている場合じゃないな。
俺は話し合いに思考をもどす。
「はい、信じてはもらえないと思うけど、前の世界で死んだと思ったらこの世界にいて、その時にサーラさんに助けてもらったんです」
「ふーーん」
疑いの目、というより嫌悪の目で俺を見てくる。
完全に信じていない様子だ。
「はぁ、お姉ちゃんもしっかりしてよ。異世界人?なんているわけないじゃん。どうせ詐欺師かなんかよ」
「最初私もそう思ったんだけどね?三日ぐらい一緒に冒険したけど嘘ではなさそうなの」
「そういう手口かなんかでしょ?信用に値しないわ」
サーラさんの初めの言葉には心外だが、アイリスさんの主張は正論だ。
急に「異世界から来ました」っていう見知らぬ男を信用しろなど無理に決まっている。
「で、君はどうなの?証拠とかあるの?異世界から来たっていう」
アイリスさんが俺を威圧するように問う。
やはり証拠か。異世界から来たという証拠…証拠…とその時、検問前の記憶を思い出す。
あるじゃないか!現代が産んだ人間の知恵と技術の結晶『スマホ』が!
おそらくこの世界感としては中世から近代。スマホのような先端技術があるとは思えない。
俺は二人の前にスマホを置く。
「何これ!黒い板?」
サーラさんが興味津々でスマホを触る。
「…でこれがなんなの?今の所ただの板のようだけど」
それに比べてアイリスさんは冷静だ。
…どっちが姉かわかんないな、これ。
「まぁ、見ててください。サーラさん、何でもいいのでポーズお願いします」
「えっと、これでいい?」
サーラさんは困惑しながらもダブルピースで構える。
俺はスマホを起動させ、カメラモードに切り替え、サーラさんに画角を合わせて2、3枚撮った。
聞き慣れない機械音なのか、二人ともギョッとした表情を浮かべている。
写真だけだとこの世界にもありそうなので、リビングをぐるっと動画で撮影した。
「よし、撮れました。こっちが写真で、これが動画です」
俺は今撮ったものを二人に見せる。
「わー!すごい、私が綺麗に写ってる!」
「画像が動いてる…?どんな技術?魔法?」
反応は上々だな。
「これが俺の世界で作られたスマホっていう機械です。どうでしょうか?」
サーラさんはおそらく大丈夫そうだが、アイリスさんの表情は固い。
「…っそ、分かった。あなたが異世界人ってことは認めるわ。神素力のの揺らぎも一切ないのに、こんな精密に像を写し出すなんてこの世界の理じゃないもの。ただ!あなた自身を信用したわけじゃないから」
俺を圧するようにそう言ってアイリスさんはリビングを出て二階へと行ってしまった。
「口調が強くてごめんね?カケル君。あの子もそうゆうお年頃なの。反抗期ってやつかな」
「いや大丈夫です。アイリスさんの反応の方が正しいですし」
逆にこの人の方がおかしいとまで言える。詐欺とかに騙されやすそうで心配だ。
「信用を勝ち取るしかないか…」
こうして、少しいざこざがあったが、異世界で衣食住を確保することができた。
俺の『水の都』での生活が今始まったのだった。




