第五話『神素流燿法』
俺は前と変わらず『サーラ式特別特訓 』という言い換えれば魔獣退治をさせられていた。
そして戦っていくうちにこの能力『変幻自在』について分かったことがある。
1:生成するだけでなくモノを操作できるようで、これが『物質操作』の権能なんだろう。そこらへんの砂や石とかも動かせるし汎用性は高い。
2:この『物質操作』は“無機物“しか操作できないようだ。
試しにサーラさんを持ち上げようとしたのだが、残念ながら持ち上げることはできなかった。
サーラさんがただ重いだけかもしれないので、足元にある可憐な一輪の花に意識を向けてみたがびくともしなかった。おそらく、この権能は鼓動を持たない『無機物』にしか干渉できないらしい。
「は〜疲れた…」
俺は試行錯誤し、サーラさんに援護してもらいなんとか魔獣を倒せていた。
そして少し休憩を取ることに。
「いい感じだね!本当に戦闘未経験とは思えないよ」
「そうですか?まだ俺の倒す手段『怒りの鉄槌』しかないですよ」
「攻撃はそうだけど防御面では正直そこらへんの冒険者と遜色ないよ?…本当に君異世界人?」
サーラさんは昨日と同じようにジト目で疑いの目を向ける。
その目の奥には少し笑みも隠れていて、俺をからかっているに違いない。
「まだ疑ってるんですか…?正真正銘ただの高校三年生ですよ」
「ははは、嘘嘘冗談だよ。君が嘘ついてるとは見えないし」
サーラさんはイタズラっぽく笑い俺の頭をポンポン叩く。
完全に子供扱いである。
そういえばこの人何歳なんだろうか?年上なのは確定だけど、女性に歳を聞くにはどの世界でもタブーそうなので控えておく。
多分、精神年齢は俺の方が高いと思うけどね!
「あ〜そういえば、教えてあげないといけないことあった!」
「なんですか?」
嫌なことじゃなければいいが…。
「戦闘において基本的技術である『神素流燿法』について教えてあげよう」
「基本技術があるなら先に教えてくださいよ!」
「ごめん!忘れてたっ」
ウインクをしていて謝罪の念は全くなさそう。
この人だからしゃあないかと諦め、ため息を吐く。
「それでなんですか?『神素流燿法』てのは」
「なんか呆れてない?!」
「いえ」
「そーかなぁ…まぁいいか。これはね、『神素力』を色々な『能力上昇』へと転用させる、いわば自身のパワーアップだよ」
『能力上昇』!!ってあのゲームとかのバフだよな?
それこそ早く教えて欲しかった。さっきまでの苦労を返してほしい。
「それで…どうすれば?」
「それじゃ見ててね。一番簡単な『物理攻撃上昇』をやってみるよ」
そう言うと、サーラさんが前方にある木の前で手を力強く握る。
「体の中にある神素力をこの拳に流すの。そしてイメージするの、あの木を殴り倒せる自分を──」
サーラさんの拳が木に触れた、と思った次の瞬間。
――ズドォォォンッ!!
鼓膜を震わせる爆鳴。抉れるなんて生易しいものじゃない。殴られた箇所から上の幹が、まるで大砲で撃ち抜かれたかのように、数十メートル先まで消し飛んでいた。
「……あ、これ、人間が食らったら消滅するやつだ」
俺は静かに、この人を絶対に怒らせないことを魂に刻んだ。
「どう?分かった?」
「は、はい…」
こうして『神素流燿法』の練習が始まったのだが…、思ったよりも難しい。
まずまず体の中の神素力を特定の場所に流すなんてできないのですが。
それにイメージって・・・。
ただ、こればっかりは練習あるのみらしい────
そして2日後──
俺の視線の先にいるのは漆黒の毛並みを持つ巨大な熊。この異世界にきて初めて出会った魔獣、そして殺されかけた苦い思い出のある魔獣だ。名前はその凶悪の黒爪から『黒鋼の剛爪』と呼ばれてるとかなんとか。
いわばリベンジ戦である。
「フレフレ!カケル!押せ押せカケルー!」
背後から聞こえる、緊張感のかけらもないチアリーディング。もう俺はこの人に慣れてしまったのか苛立ちも感じなくなってしまった。
サーラさんから借りた鞘があることを確認する。
「はぁ、さてと。練習の成果見せるとしますか!」
こうしてリベンジ戦は始まった。
「ガァァァァァッ!!」
『黒鋼の剛爪』の咆哮で開始の狼煙が上がる。
ただその咆哮は空気を伝い凶悪非道な衝撃波となって俺へ襲う。
「構築」
衝撃波を防ぐように縦横二メートルの石壁を構築。そして脚に神素力を流し込む。
──『跳躍力上昇I』
俺は黒鋼の剛爪の全長を悠々と超える高さまで跳躍する。
そして黒鋼の剛爪の頭上から重力に身を任せて渾身の一撃を叩きつける。
──『物理攻撃上昇I』
ギギギギギッッ
鋼と鋼がぶつかり合い、鼓膜を震わせる金属音と共に、火花が視界を白く染める。
「そうだよな…」
ただ剣の技量も、この魔獣を勝る力もない俺は魔獣に虫を払うかのように吹き飛ばされた。
衝撃を逃がすように地面を転がり、砂まみれにながらもすぐさま姿勢を立て直した。
次は自分からと言わんばかりに魔獣が俺に猛スピードで接近する。
「『物質操作』」
俺は周囲の砂・石・枝、葉を魔獣の進行方向に集約させる。
集まった砂石は小さな竜巻となって魔獣を襲う。
ただこれはただの攻撃ではない。
目的は牽制、『目くらまし』である。
効果は絶大で、魔獣も思わず立ち止まる。
――『移動速度上昇Ⅱ』
俺はクラウチングに似た前傾姿勢から一気に加速する。
ちなみにサーラさんに唯一褒められたのはこの『移動速度上昇』だ。
『 能力上昇』に上手い下手があるのかは不明だが、これだけは上手い部類らしい。
恐らくだが、俺は元々陸上部だったので、それが関与してるんじゃないかと推測している。
そうして、加速したまま仰向けの滑り込み姿勢で剣を構える。
この鋼鉄のように頑丈な皮膚を断ち切るイメージを!!
――『物理攻撃上昇Ⅱ』
(よしっ)
俺の刃は魔獣の両足をなんとか断ち切ることに成功する。
魔獣は巨体支えていた脚を失い、轟音を立てて地に倒れ込んだ。
後は俺の得意技である。
身動きできなくなった魔獣の空には黒い影。
「『怒りの鉄槌 』!」
「ガッッ…!」
ドォォォォンッ
絶叫は、降り注ぐ巨岩が立てる地響きの下へと無慈悲に埋もれた。
「どうですかサーラさん!俺もやれば出来るんですよ」
俺はサーラさんに自信満々の笑みで親指を立てる。
が、それは慢心だったらしい。
「…ァガァアアア!!」
背後から死んだはずの魔獣の雄叫び。
「は?死んでない――」
両足、右腕もなく、全身から出血をして動けるはずもない魔獣が、残った左腕の爪で俺を襲う。
(防御が間に合わない…!)
不意の攻撃に思考が真っ白になってしまった。
そのとき――
「焔閃斬」
横から太陽のように輝く斬撃が飛び、魔獣の左腕を切断する。
「ガッ?!」
「これで終わりだよ」
一閃。
鋼のように硬いはずの首が呆気なく宙を舞った。
「ふー、詰めが甘いね〜カケル君は」
「いてっ?!」
サーラさんが俺の額にデコピンをする。
「最後まで油断しないこと!分かった?」
「はい…」
これにはぐぅの音も出ない俺であった。
・
・
・
数時間後――
俺たちは森を抜け、小高い丘に到着した。
「カケル君、着いたよ」
そこには、陽光を反射して白銀に輝く高壁。街の中に流れる数多の水路も輝いて美しい。堅牢にして優美な城塞都市が姿を見せた。
「これが水の都…」
三日目にしてようやく、俺は目的地に着くことができたのだった。
次回第六話『いざこざ』です!
お楽しみに〜




