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第十一話 始原ノ青

光も音の無い、暗黒の世界。

俺は闇に包まれるような感覚に陥る。


突然、視界には一本の光が、天井の見えない空間から漏れる。

時間が経過するごとに、その光の数は増えていき────


俺は目を覚ました。


「…」


俺はおそらくだが、意識を失っていたらしい。

そして、後頭部にある違和感に気づく。


薄い生地越しに伝わる体温と、ふわりと鼻をくすぐる彼女特有の甘い香り。

視線を天井に向けると、太陽のように輝く、橙色の髪の美少女の顔が俺の目に焼き付く。それに何よりも、豊満なアレが視界の半分を占拠していた。


膝枕だ──


「あ、起きた?大丈夫、?」


朝の陽光のような優しい声が俺の耳に響く。


「いや…、美少女に膝枕は最高だな──、ってイタッ!?」


俺の額に、アイリスの強烈なデコピンが炸裂する。


「バッカじゃないの!心配して損したっ」


「そりゃ…可愛い女の子に膝枕されるなんて、世の中の男子全員の夢ですから」


「あっそ!夢が叶ってよかったわね!そんな冗談言えるならもう起きなさいよ」


アイリスが耳を真っ赤にして照れていた。


「でもなんで急にこんなこと、?」


「…なんか、カケルを治療したお医者さんが、こうすれば早く良くなるって言ってて……、もう起きて!」


とんだヤブ医者だな、と思う反面、俺は心の中でその医者にガッツポーズを掲げる。

いつか会って感謝せねば。


「いや、もう少しだけ、堪能させてもら──えっ」


俺は横に寝返りを打ったその時、目線の先の青髪の美青年と目が合う。

目の前の青年は、鮮明な青の軍服を身に纏い、立ち襟のジャケットは彼の細い体に隙なくフィットし、どこか厳格な騎士のような、独特の威厳を放っていた。


アイリスも今、彼に気づいたのか、顔まで真っ赤にして狼狽する。


「ごめん、いちゃいちゃの邪魔だったかな?それならお暇させて──」


「「大丈夫です!!!」」


俺は飛び上がるように起き上がり、寝ていたソファーに座る。

アイリスもいつの間にか姿勢を正していた。


「…どこから、見てい、て?」


俺は恐る恐る青年に問いかける。


「全部じゃないよ?君が目を覚ましたぐらいかな」


「いや全部!!?」


誰か、誰か、俺を殺してくれ…。

アイリスも青年と顔を合わすことができず俯いたまま。

俺とアイリスは、恥ずかしさで黙ることしかできなかった。







その後、青年が場が落ちつかせ、俺が意識を失った後の状況説明を受けていた。


「あぁ、なるほど。あなたが俺を助けて?」


「そう、カケル君の腹の負傷部は回復してるけど、数日は痛むかな」


俺は服を上げて、腹を確認すると包帯でぐるぐる巻きにされていた。

触ってみると、言われた通り、ひりつく様な痛みが走る。


「助けていただきありがとうございます。それと…今更ですが、あなたは…」


「あなたって、トレヴィ様に失礼でしょ?」


「トレヴィ…って、今日言ってた『始原ノ青』っていう…?」


確か、トレヴィ=アクアリス、だったはず。

って、この国の王様じゃねーか!


俺は驚きのあまり目を丸くする。

この、見た感じ俺と歳が変わらなそうな美少年が、神様??


「そう。はぁ…その顔は今気づいたのね、」


「だって…もっと神様って、こう、仙人みたいなイメージが…」


俺たちの会話にトレヴィ様が俺の反応に小さく笑う。


「はは、よく子供たちに言われるよ、神様ぽくないって」


「いや、本当にすいません、。高貴なお方の前で、先ほどの醜態を見せてしまって…」


「全然いいよ、男女仲睦まじいのはいいことだ。…それじゃ、本題に入ってもいいかな?」


「本題、?」


「あぁ、先ほどの広場での騒動について──」


俺はトレヴィ様から、俺が意識を失った後の話をしてくれた。


その話によると、トレヴィ様が到着したのち、すぐに騎士団が来て下っ端二人を確保。その後、アイリスに敗れたルイは騎士団に反抗し、また暴れたそうだが、トレヴィ様が直々にルイと対戦し、あっけなく勝利したという。


あの気を失う前に見た青髪の青年は、トレヴィ様だったってわけか。


「…あ、そういえば、あのガリは大丈夫ですか??」


あの時、細型が俺の『多重岩弾マルチ・ロック・バスター』をモロに食らっていたはず。


「大丈夫だってさ。あぁ見えてあの下っ端二人、お貴族の護衛らしくて案外頑丈だったそうよ」


俺の問いに、アイリスが焦る俺を落ち着かせるように、ゆっくりと説明する。


「よかったぁ…、けどそう思うと、俺って案外戦闘センスあるのかも」


「案外っていうか…なんで戦闘経験がほとんどないカケルが戦えてるのがおかしいよ?」


「褒め言葉として貰っとくね?でも、本当に凄いのはルイに勝ったアイリスだよ。あの『瞬間移動テレポート』だっけ?俺には到底敵わない」


突然真面目な口調で褒めるカケルに、アイリスの口元が緩む。


「ま、まぁ、最後は勘だったけどね。ルイの瞬間移動テレポートには欠点があったの。移動先の神素力が微かに揺れることと、こっちは推測だったけど、『クールタイム』があること。戦いの間に瞬間移動テレポートを連続で使ってなかったから」


「と言っても、相当危ない賭けだったと思うけど?彼がもし連続で使えていたら、アイリスは丸腰にカウンターをもらってたよ」


そこにトレヴィ様の見解が入る。

ちなみに俺はその場面を見ていないので、よく分かってない。

ただ分かっている風にうんうんと相槌をするだけだ。


「そうですね、けどカケルが危なかったですし、背に腹は変えられなくて」


「へ〜心配してくれたの?あのツンケンした態度のアイリスがっってイタイ!!」


「うるさいっ!もう、朝のよそよそしい男はどこに…」


怒号とともに、俺はアイリスに頭をしばかれた。


「というわけで、状況説明は終わり、ここからは…」


トレヴィ様の声が一段低くなった瞬間、室内の温度が数度下がったかのような錯覚に陥った。柔和だった彼の瞳は、獲物を値踏みするような鋭さを帯び、逃げ場のない圧迫感が俺の肩にのしかかる。


これが、神の覇気…。


「君たちへの、この件に対する処罰の有無についてだ」


トレヴィ様の言葉が、静まり返った部屋に重く響く。

優しい青年としての仮面が剥がれ落ち、そこには一国を統べる『神』としての冷徹な眼差しがあった。


隣で顔を強張らせているアイリスを庇うように立ち上がり、一歩前へ踏み出した。


「全責任は俺にあります。ルイを殴り飛ばしたのも俺です」


「待って…?!」


俺は立ちあがろうとするアイリスを腕で制止する。


「アイリスに非はありません。俺が全ての処罰を受けます」


二ヶ月後、アイリスには入団試験がある。

この大騒動、今アイリスが処罰をくらえば試験に参加する権利を失うかもしれない。


それだけはダメだ。

おそらく、アイリスはこの試験のために死ぬほど努力してきたはずだ。

さっきの戦いを見ていたらわかる。

正直俺は今年受けれなくてもいい、そもそも受かる可能性は低いからだ。


俺は射抜くようなトレヴィ様の視線から目を逸らさず、ただ真っ直ぐに願いを込めた。心臓の鼓動が耳元でうるさく打ち鳴らされ、一秒が永遠のように長く感じられる。


だが、張り詰めた糸を切るように、トレヴィ様の口元がふわりと緩んだ。


「……なーんて、そんなに構えなくていいよ。二人とも無罪。ルイが先に手を出したっていう目撃証言が山ほどあるしね」


「「え…」」


俺たちの口から、緊張感の欠片もない声が漏れた。


「カケル君は、君が言った通りいい子だね、サーラ」


「でしょ〜!私は嘘はつかないからね」


ドアの前に立つのは、壁に寄りかかったサーラさんだった。


「えっと…」


急激な話の変化にたじろぐ俺。


「カケル君のことについて、サーラから聞いてたんだ。君が異世界人っていうことをね」


「は、はぁ…」


すると、歩み寄ってきたサーラさんが俺たちの頭を撫でる。


「いやぁ、強くなったねぇ、妹に弟よ」


「やめてよ、お姉ちゃん!」


「俺って、そうか、サーラさんの弟設定になるのか…」


アイリスは怒って手を振り落とし、俺はため息が漏れる。


「せっかく褒めてるのにひどいな。反抗期って難し」


こうして騒動は一件落着となった。





カケルとアイリスが退出し、サーラとトレヴィだけが残される。


「…君の言ってた通り、間者の可能性は低そうだけど、タイミングがタイミングだから怪しく見えるな」


「まぁ、それは私も同感ですけど、私の弟だから疑わないでください!」


サーラの意味不明な理由に苦笑するトレヴィ。


「サーラ、明日にこの件について密議を行う、いいな?」


「りょうかいですっ」


トレヴィの話が終わり、サーラが部屋から退出しようとするが、トレヴィが引き止める。


「サーラ、監視は頼んだよ」


「はいはい、分かってますよ〜」


ドアの閉まる音が静寂な部屋に響く。


「『メタレイア』の戦争準備に、異世界人の来訪…ね」


静まり返った部屋で一人、思案にふける。

次回第十二話『騒動の後』です!

お楽しみに~

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