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声で割れる帝国—帝都蜂起から琉球独立へ—  作者: ろーむ
第一章 帝都蜂起

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軽井沢の綻び

二〇一五年八月十五日 午後六時〇〇分 軽井沢指揮所


「NHK、確保。偽放送停止。工作員、服毒——」


報告を聞き終えた伊地知警務庁長官は、指先で机を二度叩いた。

怒っているのではない。思考を整えている音だ。


海軍中将・佐々木康成は、地図の上で赤い線を引き直した。


「通信は戻る。——だが偽放送が一度でも流れた以上、帝都の部隊は“命令系統”を疑う」


内閣総理が言った。


「疑うのは軍だけではない。警察もだ。官僚もだ。……国民もだ。だからこそ、正規の勅令放送を早急に——」


伊地知が遮った。


「総理。正規放送は今夜やる。だが“言葉”だけでは足りない。帝都に秩序の像を立てる必要がある。——統制だ」


「統制という言葉は危険だ」


総理が眉を寄せる。

内閣は政治の顔を守りたい。

警務庁は秩序の顔を守りたい。

海軍は勝利の顔を守りたい。


三つの顔が、一つの机でぶつかり始めている。


佐々木中将が、少しだけ声を低くした。


「伊地知長官。帝都での拘束・検問は分かる。だが行き過ぎれば、皇衛派は“殉教”を作る。殉教は反乱の燃料だ」


伊地知は冷たく答えた。


「殉教より、内乱の拡大の方が燃える。——中将、統一戦線の件、あなた方は軽く見ている」


「軽くは見ていない」


「なら、見ている“方向”が違う。統一戦線は帝都を割るために来たんじゃない。帝都を割って、“別の場所”を取るために来た」


その言葉に、部屋の空気が一瞬止まった。


総理が問う。


「別の場所?」


伊地知は、机上の新しい報告書を指先で押し出した。

紙の上には短い文が並ぶ。


――「南西方面通信量増大」

――「那覇周辺で不明電波」

――「沖縄守備隊内で動揺、独立を示唆する怪文書」

――「『琉球王国復古』の標語、複数確認」


「……琉球王国?」


総理の声が掠れた。


佐々木中将の目が細くなる。


「沖縄を取られれば、海の喉が締まる。補給線も、南西の航空路も、全部だ」


伊地知は頷いた。


「そして、それは満洲にも繋がる。日本が内乱で縛られている間に、統一戦線が“外”を動かす。中華民国本体が動くかどうかは別だ。だが統一戦線は、動ける」


総理が言葉を探す。


「……南西に部隊を回す余裕は——」


伊地知が即答する。


「ない。だからこそ、統一戦線はそこを突く」


佐々木中将が机を叩いた。今度は怒りだ。


「なら、余裕を作る。帝都の奪還を急ぐ。——そして南西に艦を回す」


伊地知は首を振らない。否定もしない。ただ、冷たく釘を刺した。


「中将。帝都で勝って、南西で負ければ国は割れる。南西で勝って、帝都で負ければ政は死ぬ。——両方取るしかない」


その瞬間、官房の事務官が飛び込んできた。


「市ヶ谷より速報! 基地内に統一戦線工作員、捕縛。口から『南の門』『島』という言葉——」


伊地知の目が、氷みたいに光った。


「やはり……」


総理が息を吸う。


「沖縄が……本当に?」


佐々木中将は短く言った。


「“本当に”なる前に止める。——それが作戦だ」


軽井沢の窓の外は、夕暮れの静けさを装っていた。

だが、その静けさは“次の戦場”が遠くで準備されている静けさだ。


帝都で鳴る銃声は、まだ終わらない。

そして南の海では、別の旗が立とうとしている。

お読みいただき、ありがとうございます! 今後の帝都の物語の展開を楽しみにしていただければ嬉しいです。 作品の応援(ブックマーク、評価、レビュー、感想、シェア)は、物語を描き続ける上での大きな力となります。ぜひ、今後ともよろしくお願いいたします。

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