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死神少女と社畜女  作者: キノハタ
3日目 社畜の愛した死神

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9/25

3日目 Ⅰ

 それに気づいたのは、一日目のビジネスホテルでスマホを弄っているときのことだった。


 何気なくふと思い立って、ネットで検索をかけて未だにヒットすることに驚きつつも、少しほくそ笑んでしまう。


 まったく一体、何年忘れていたのだろう。


 写真の趣味もそうだけど、大学の頃はあんなに大事にしていたのに、会社で仕事をこなすうちに不思議なくらい想いだすことが無くなっていった。


 見つけたそれに、ログインページからIDとパスワードを打ち込んだ。それは随分久しぶりなのに、変わらず私を受け容れてくれた。


 懐かしさに微笑んで、同時にこんなに大事に想っていた何かを、平気で忘れてしまっていたのだと、少し寂しくもなった。



 私は大学生の頃、まったくの素人ながら興味本位で写真部に飛び込んだ。



 写真部自体は、風景の写真を撮るって言うより、学祭とか部活動の写真を撮るのがメインだったから、正直、あまり楽しくはなかった。


 だから、自分の好きな写真が撮りたくて、それを誰かに見せたくて、一人でこっそり小さなブログをやっていた。


 些細な風景、些細な日常。バズることなんて一度もなかったし、撮影技術も正直かなりお粗末なそれだったけど。


 大学入学から、卒業まで。


 私はこっそり、その場所に自分が撮影した写真を上げ続けていた。


 写真を撮って、名前を付ける。


 『野良猫の挑戦』とか『独り歩く少年』とか『少し寂しい気持ち』とか。


 なんてことはない日常の、なんてことのない風景を撮り続けた。


 今見ると、上手く撮れたなって写真も、そうでないのもある。納得がいくタイトルも、ちょっと恥ずかしいのも一杯あった。


 ほとんど、誰にも見られないブログだったけど、5・6人だけたまに訪れてはコメントをくれる人がいた。


 投稿名はみんな決まって、名無しさん。


 そんな5・6人と私自身のために、私はこっそりと写真を撮り続けた。


 何事も続けることが苦手な私が、唯一出来た、たった一つの些細な習慣。


 あまりにも些細だったから、就活で学校時代に頑張ったことはって聞かれても、そのことは言えなかったけど。


 それでも、ずっとずっと忘れないと思っていた。大事な想い出だったんだ。


 洞窟の奥に見つけた小さな小さな陽だまりみたいな、私と、どこかの誰かだけが知っている、そんな秘密の場所だった。


 でも、ずっとずっと忘れてた。私はそれくらい、大事な何かをずっと見失い続けていたんだろう。


 二日目の夜、小さなパソコンで、その日、撮った写真を久しぶりに上げてみた。


 上げたのは昼間に川辺で撮った写真たち。


 風景の写真もたくさんあるけれど、カメラの中を埋め尽くすのは大半がゆなの写真。


 私にしか見えない、小さな死神さんの写真。


 ふと振り返ると、ゆなは長旅で疲れたみたいで、ホテルのベッドでゆっくりと寝息を立てていた。


 そんな姿に微笑んで、私はその写真たちを上げていく。


 最初に上げたのは、川辺の風景、タイトルは『秘密の隠れ家』。


 次に上げたのは、ゆなのピース写真『眩しい笑顔』。


 岩を飛び跳ねるゆなの写真は『元気な跳躍』。


 私の隣でサンドイッチをほおばるゆなは『満足な昼食』。


 どれもかれも、端から見ればなんてことはない風景だ。仮に誰かが見たところで、タイトルの意味は、さっぱり分からないだろうけれど。


 でも、それでもいいから、記録を残す。


 私の記録、私が見たもの、私の時間、そして何より、ゆなの姿を。


 残していく。たとえ誰に気づかれなくとも。


 この世のどこかに確かに在ったのだと、そんな証を遺してく。


 この行いに意味があるのかは、旅の終わりにしかわからないだろうけど。


 それでも、ただ、遺していく。


 些細な繰り返しを、そっと、何度も。












 ●通知:ブログのページを更新しました:9/28 22:36 


 ●通知:コメントが投稿されました:9/28 23:47


 『名無しさん:あ、復活してる。お久しぶりです』


 ●通知:コメントが投稿されました:9/28 23:49


 『名無しさん:川辺の風景、とても綺麗ですね。タイトルも相まって不思議な世界観ですね』






 ※


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