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死神少女と社畜女  作者: キノハタ
6日目 死神失格

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16/25

6日目 Ⅰ

 今日でまゆさんと旅に出て六日目になろうとしてる。


 つまり、まゆさんの残りの寿命はあと二日だ。


 まゆさんの頭上に浮かぶ数字は、期待を裏切らずに000002を示している。


 明日は自殺を行う当日だから、多分、何も考えずに幸せに過ごせるのは今日が最後になるのだろう。


 朝、目を覚まして、そこまで思考したところで、自分の頬をパチンと叩く。


 俯くな、決めただろう、最期まで笑いきると。


 どうせなら本当に忘れられない一週間にしてやるのだ。とっびきりの笑顔で終わりまで送ってやるのだ。


 その後、自分がどれだけ傷つくとか、そんなのはもうどうだっていいのだ。


 なあに大丈夫、言ってもあと二日なのだから。


 構わない。やりきるのだ、進み切るのだ。


 今度はラブじゃないホテルのベッドでまだ寝息を立てるあなたを見やって、笑顔のまま、にひひと頬をつついてみた。


 それからごろんと寝転がって、ガーゼを貼った首元を優しく撫でる。その下にある噛み跡を想いながら。


 それから感じ続ける。


 この人に遺した私の傷。この人の頬の柔らかさ。この人の髪の匂い。この人の寝息の音までも。


 何もかも、忘れないように刻み付ける。


 髪の毛にある傷も、身体にうっすらとついた傷も、何もかも愛おしさのままに脳裏に一つ一つ彫り込んでいく。


 ああ、忘れたくない。


 忘れないままに終わりたい。


 もし、それができるなら。




 ――――できるなら一緒に。




 思わず、胸の奥がぶるっと震えた。


 気づいたら少し息も乱れている。


 あれ、今、私、何を考えた?


 思わず、がばっとゆなさんから身体を離して息を落ち着ける。


 少し、落ち着いて胸に手を当てて、逸る心臓が戻るのを待つ。



 今、私、()()()()()()()()()()()()()って考えなかったか。



 吐く息が震えるのを感じる。


 でもそれも、程なくして落ち着いた。


 はは、まるで、本当は存在しない選択肢に今更、気が付いてしまったみたいだね。


 『見届ける』しか選ぶものがなかったのに、その下に一緒に『心中する』なんてとんでもない選択肢が現れた。


 それで、心中って言うキーワードが出たからか、記憶が引きずられるみたいに、クソ上司との会話が思い起こされる。


 『死神が死んだどうなるんですか?』


 『普通に死ぬ』


 『ええ、神っぽさゼロじゃないっすか』


 『まあそもそも神じゃないからな、というか、死ぬってのも元の在り方に戻るってのが正しい』


 『元の在り方?』


 『お前らはもともと、死人みたいなもんだからな。自殺したやつの魂を捕まえて仕事させてんだ。だから死んだら元に戻るだけだ』


 『はあ、よくわからんすね。つまり私みたいなやつは、元はどっかで自殺した人間ってことっすか』


 『でなきゃお前は、身体も心もゼロ歳児のはずだろうが。そのスマホの使い方はどこで覚えた』


 『ま、確かに。…………死ぬ前のことって想いだせないんっすか?』


 『死神でいる限り想いだせん。知り合いを見つけても面倒だからな』


 『ふうん、ま、確かに』


 『まあ、まれに想いだすこともあるらしいが、頼むから知り合いと出会っても心中なんてしてくれるなよ』


 『はあ、なんでっすか』


 『俺の仕事が増える』


 『……そっすか』


 上司のクソさが際立つ会話だったが、確かに学べたこともある。


 それは、元が死人か何かわからないけど、この身体は確かにここにあるってこと。


 死神は見えないし触れられないけど、物は食べれる、お腹もすく、眠くもなるし、なんならえっちもできると、昨日証明したばかりだ。


 傷つけば血も出るし、息を止めれば苦しくもなる。


 そして、死ぬほどのことをすれば、普通に死ぬ。


 死のうと想えば死ねる。


 あの上司のいいぶりからして、昔、死神が誰かと心中したってこともあるのかもしれない。


 前例があるってことは、できるってことだ。


 そこまで考えて、ふと思考が止まる。


 この考えはまゆさんに伝えるべきだろうか?


 まゆさんなら、なんて言うだろう。


 許さないかな。怒るかな。……なんとなく素直に一緒に、とはならない気がする。


 そういうとこはわがままだしなあ、まゆさん。


 自分は死ぬのはいいけど、私には意地でも生きろとか平気で言いそう。


 軽くため息をついて、私は未だに寝息を立てる。あなたの頬をぐりぐりといじめる。


 どうしよう、どうしようかなあ。


 あなたの柔らかな頬が曲がって、寝息もついでに若干苦しそうなそれに変わる。


 うん、面白い、そしてかわいい。


 軽く、笑いながら、そうして私は微笑んだ。


 あーあ、なんで、こんなわがままで、えっちで、理不尽な人を好きになってしまったのだろうか。


 「困ったねえ、まゆさん」


 思い通りにいかない、この現状すら愛しいと想えてしまうのは、私も大概バカになっているからかなあ。


 あはは、だって、まゆさんにおバカに変えられちゃったのだ、しかたねーや。



 たとえこの恋が一時の気の迷いでも。



 たとえこの愛がただの思い過ごしでも。



 たとえこの想いが誰かから見て、どれほど虚しいものだとしても。



 私の今の全てと残りの人生を賭け切ったものであるのなら。



 それはまあ、そこそこ納得のいくものになるんじゃない?



 「まゆさん、おーきて」


 「ん…………」


 「とうっ!」


 「ひゃぁ……。うう、ゆながえろいことばっかりしてくる……」


 「二日前までは無垢だったんですけどね? どこかの誰かさんに目覚めさせられたもので」


 「……素直に、ごめんなさい」


 「あはは、いいですけど、責任は取ってくださいねー」


 「……はあい、がんばります」


 「えへへ」



 ま、どうせ出来ることは一つだけ。



 積み重ねろ、今を。



 ただ全力で生き続けるんだ。



 そうすれば、答えはいずれ出るのだから。







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