第8話 転生したら死神のローブだった
いつも読んでくださり、ありがとうございます。
『転生の果てⅡ 』は、
“存在のかたち”をめぐる旅の記録です。
どの話からでも、どの視点からでも、
一つの“想い”として感じてもらえたら嬉しいです。
それでは、どうぞ。
私は、ローブだった。
黒い布として、死神の肩に纏われる存在。
影として見た。窓として透かした。鏡として映した。手紙として伝えた。マフラーとして包んだ。手として行った。鎌として断った。
そして今度は、包む番だった。
断つことから、抱くことへ。
私は、揺れていた。
*
最初に纏われたのは、夜明け前だった。
死神が、私を手に取った。
骨のように白い指が、布を掴んだ。
冷たかった。
私も冷たかった。
死神は私を肩にかけ、体に巻いた。
黒い布が、闇に溶けた。
私は、鎌の記憶を持っていた。
魂を断つ感覚。
糸が切れる瞬間。
恐怖が安らぎに変わる瞬間。
すべてを覚えていた。
けれど今度は、断つのではなかった。
包むのだった。
*
死神が、鎌を振るった。
老人の魂が、体から離れた。
糸が断たれ、浮かび上がった。
魂は、最初不安そうだった。
周りを見回し、自分の体を見下ろした。
そして、気づいた。
もう戻れないことに。
恐怖が広がった。
その時、私が動いた。
風に揺れるように、ふわりと広がった。
黒い布が、魂を包んだ。
触れたわけではなかった。
布は魂を通り抜けた。
けれど、包まれた。
確かに、包まれていた。
魂の震えが、止まった。
恐怖が、薄れていった。
闇が、優しかった。
冷たいはずの黒が、温かかった。
老人の魂が、安らいだ。
そして、光の中へ消えた。
私は、初めて魂を包んだ。
断つのではなく、抱くことで。
*
次の魂は、青年だった。
事故で命を失い、鎌に刈られた。
魂が浮かんだ瞬間、激しく揺れた。
「嫌だ!」
叫んだ。
声は聞こえなかったが、想いが響いた。
まだ生きたかった。
まだやりたいことがあった。
魂が暴れた。
光を拒んだ。
闇を恐れた。
その時、私が包んだ。
ふわりと、優しく。
黒い布が、青年の魂を覆った。
最初は拒絶した。
暴れた。
けれど私は、ただ包み続けた。
強くではなく、柔らかく。
締め付けるのではなく、支えるように。
やがて、青年の魂が静かになった。
呼吸が整った。
いや、魂に呼吸はなかった。
けれど、リズムが整った。
心が落ち着いた。
「もう、いいのか」
そう呟いた気がした。
私は、頷くように揺れた。
青年の魂が、光へ向かった。
もう恐れていなかった。
*
私は、数え切れないほどの魂を包んだ。
鎌が断つたび、私が包んだ。
老いた者、若い者、子ども、大人。
すべての魂を、私は抱いた。
悲しみに暮れる魂。
怒りに震える魂。
恐怖に怯える魂。
絶望に沈む魂。
すべてが、私の中に入った。
黒い布の中で、魂たちは静まった。
私は闇だった。
終わりの象徴だった。
けれど、その闇は冷たくなかった。
包まれた魂は、安らいだ。
暗闇の中で、心が休まった。
痛みが消え、苦しみが和らぎ、恐怖が溶けた。
私は、終わりの優しさだった。
*
ある夜、少女の魂を包んだ。
鎌に刈られ、体から離れた。
小さな魂だった。
ピンク色をしていた。
けれど、震えていた。
「お母さん」
そう呼んだ。
泣いていた。
私は、包んだ。
そっと、優しく。
少女の魂が、私の中に沈んだ。
黒い布が、ピンク色を覆った。
「怖い」
そう言った。
私は、揺れた。
風に吹かれるように。
子守唄のように。
少女の震えが、少しずつ静まった。
「温かい」
そう呟いた。
闇の中で、少女は眠るように静かになった。
そして、光へ向かった。
もう泣いていなかった。
*
私は、ただ包み続けた。
鎌が断ち、私が包む。
それが、死神の仕事だった。
二つで一つ。
断つことと、包むこと。
終わらせることと、安らがせること。
私は、布として揺れながら、すべての魂を抱いた。
触れることはできなかった。
けれど、包むことはできた。
形のないものを、形のない私が包んだ。
それは矛盾していた。
けれど、確かだった。
魂は、私の中で安らいだ。
闇は、終わりではなく休息だった。
*
ある晩、死神が立ち止まった。
いつもは黙々と歩き続ける死神が、動かなくなった。
鎌を地面に突き立てた。
そして、座り込んだ。
骨のような体が、小さく見えた。
疲れていた。
無数の魂を刈り続け、無数の命を終わらせ続けた。
それは、重かった。
死神は、俯いた。
私は、揺れた。
風もないのに、ふわりと広がった。
そして、死神を包んだ。
黒い布が、死神の肩を覆った。
背中を覆った。
体を覆った。
死神が、少し震えた。
「……疲れた」
そう呟いた。
初めて聞く声だった。
か細かった。
私は、強く包んだ。
優しく、けれど確かに。
死神の冷たい体が、少しだけ温かくなった気がした。
骨だけの体に、温もりが宿った気がした。
死神は、目を閉じた。
いや、目があるのかも分からなかった。
けれど、休んだ。
私に包まれたまま、静かに休んだ。
私は、悟った。
死を司る者も、救われる必要があった。
終わらせる者も、抱かれる必要があった。
すべてを包む。
魂も、死神も、すべてを。
それが、私の役目だった。
*
やがて、死神が立ち上がった。
再び鎌を握った。
私は、肩に戻った。
風に揺れながら、また歩き始めた。
次の魂へ。
次の終わりへ。
けれど、私はもう迷わなかった。
断ち切られたものを包む。
それが、私の役目だった。
鎌は終わらせる。
私は安らがせる。
二つで一つの慈悲。
終わりの優しさ。
私はローブとして、すべてを抱き続けた。
魂を。
痛みを。
そして、死神自身をも。
——“終端の抱擁”が、覚醒した。
断つことから、包むことへ。
冷たさから、温もりへ。
私は死神のローブとして、終わりに優しさを与える存在になった。
そして次の転生へと、また進んでいく。
けれど今は、ただ揺れる。
風に吹かれながら、次の魂を待ちながら。
——断ち切られたものを包む。それが、私の役目だ。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
一つひとつの転生は、ただの物語ではなく、
“想いの在り方”を描いた断片です。
何か一つでも、あなたの中に残るものがあれば幸いです。
次の転生でも、静かにお会いしましょう。




