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―転生の果てⅡ―  作者: MOON RAKER 503


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第7話 転生したら死神の鎌だった

いつも読んでくださり、ありがとうございます。

『転生の果てⅡ 』は、

“存在のかたち”をめぐる旅の記録です。


どの話からでも、どの視点からでも、

一つの“想い”として感じてもらえたら嬉しいです。


それでは、どうぞ。


私は、鎌だった。


冷たい金属の意識を持ち、死神の手に握られる存在。


影として見た。窓として透かした。鏡として映した。手紙として伝えた。マフラーとして包んだ。手として行った。


そして今度は、断つ番だった。


行うことから、終わらせることへ。


私は、冷たかった。


 *


最初に振るわれたのは、夜だった。


死神の手が、私の柄を握った。


骨のように白い指。


冷たかった。


私と同じ温度だった。


体温がなかった。


生命の気配がなかった。


ただ、意志だけがあった。


私は、持ち上げられ、振りかざされた。


刃が空気を裂いた。


風が鳴いた。


金属の冷たさが、夜気に溶けた。


そして、魂に触れた。


 *


老人の魂だった。


ベッドに横たわり、静かに息をしていた。


家族が周りを囲んでいた。


涙を流していた。


けれど、魂はもう体を離れようとしていた。


銀色の糸のように、細く繋がっているだけだった。


もう戻れない。


もう留まれない。


ただ、最後の一線だけが残っていた。


私は、その糸を断った。


音はなかった。


抵抗もなかった。


刃が触れた瞬間、糸がほどけるように切れた。


まるで、待っていたかのように。


魂が体から離れた。


ゆっくりと浮かび上がり、光になった。


老人の顔が、穏やかだった。


苦しみが消えていた。


しわに刻まれた痛みの跡が、和らいでいた。


私は、初めて命を断った。


けれど、それは終わりではなかった。


魂は消えなかった。


ただ、移った。


どこかへ。


私には見えない場所へ。


光の中へ。


 *


次の魂は、青年だった。


事故で倒れ、血を流していた。


体はまだ温かかった。


心臓がまだ動いていた。


けれど、魂はもう諦めていた。


痛みに耐えられず、離れようとしていた。


糸が震えていた。


引き裂かれそうになっていた。


私は、振るわれた。


糸を断った。


一瞬で、痛みが消えた。


青年の魂が浮かんだ。


最初は、恐怖に歪んでいた。


目を見開き、周りを見回していた。


「死にたくない」


その想いが、波となって私に伝わった。


生への執着。


未練の重さ。


やり残したことの多さ。


けれど次の瞬間、恐怖が消えた。


痛みが消えた。


苦しみが消えた。


魂の色が、変わった。


暗い青から、明るい白へ。


重さが軽さに変わった。


青年が、微笑んだ。


驚いたように、自分の手を見た。


もう血は流れていなかった。


もう痛くなかった。


「ありがとう」


そう言った気がした。


声ではなく、想いとして。


私は、断つことの意味を知り始めた。


 *


私は、数え切れないほどの魂を刈った。


病室で、戦場で、路地裏で、海の上で。


すべての場所で、死神は私を振るった。


そして私は、糸を断った。


老いた者、若い者、子ども、大人。


すべての魂が、同じ道を辿った。


体から離れ、光になり、どこかへ消えた。


けれど、刈る前と刈った後で、魂の色が変わることに気づいた。


苦しんでいた魂は、暗かった。


黒や灰色や、深い赤。


病に蝕まれた魂は、濁った緑。


絶望に沈んだ魂は、重たい紫。


孤独に震えた魂は、冷たい青。


それぞれが、違う色をしていた。


けれど刈られた後は、すべて明るくなった。


白や銀や、淡い青。


透明な光。


温かな輝き。


恐怖は、安らぎに変わっていた。


痛みは、静けさに変わっていた。


重さは、軽さに変わっていた。


私は、死を見続けた。


それは終わりではなく、移行だった。


苦しみからの解放だった。


暗闇から光への旅立ちだった。


 *


ある夜、私は、少女の魂を刈ることになった。


小さなベッドに横たわり、呼吸が弱かった。


機械の音が、静かに響いていた。


ピッ、ピッ、ピッ。


心拍が遅くなっていた。


両親が泣いていた。


母が手を握りしめていた。


父が祈るように目を閉じていた。


医師が首を振っていた。


「もう、長くはありません」


その言葉が、部屋に重く沈んだ。


少女の魂は、まだ体に繋がっていた。


けれど、もう戻れないほど細い糸だった。


今にも切れそうなほど、か細かった。


死神が、私を振り上げた。


私は、刃を向けた。


けれど、躊躇した。


少女の魂が、あまりにも小さかった。


淡いピンク色をしていた。


まだ生きたかった。


まだ笑いたかった。


まだ走りたかった。


友達と遊びたかった。


絵を描きたかった。


歌いたかった。


その想いが、波のように私に伝わった。


生への渇望。


未来への憧れ。


奪われた時間への悲しみ。


私は、冷たい金属だった。


感情を持たない刃だった。


けれど、その瞬間、私は、震えた。


刃が、わずかに揺れた。


断ちたくなかった。


この糸を切りたくなかった。


この小さな命を、終わらせたくなかった。


 *


けれど、少女の体が苦しんでいた。


息ができなかった。


喉が詰まっていた。


痛みに顔が歪んでいた。


小さな体が、機械に繋がれていた。


魂は体に留まることで、苦しみを感じ続けていた。


生きることが、もはや苦痛だった。


私は、理解した。


断たないことが、優しさではなかった。


繋げ続けることが、救いではなかった。


生かし続けることが、愛ではなかった。


苦しみを終わらせること。


痛みから解放すること。


それが、私の役割だった。


それこそが、本当の優しさだった。


私は、振り下ろされた。


刃が、糸に触れた。


一瞬の抵抗もなく、糸が切れた。


少女の魂が、浮かび上がった。


最初は、寂しそうだった。


両親を見つめていた。


別れの悲しみが、淡い灰色として漂っていた。


けれど次の瞬間、痛みが消えた。


息苦しさが消えた。


体の重さが消えた。


少女の魂が、微笑んだ。


ピンク色が輝いた。


軽やかに、ふわりと浮かんだ。


そして、どこかへ飛んでいった。


光の中へ。


体に残された顔は、穏やかだった。


もう苦しんでいなかった。


もう痛くなかった。


ただ、眠っているようだった。


私は、悟った。


断つことは、救うことだった。


終わらせることは、始めることだった。


 *


それから、私は、何度も魂を刈った。


躊躇うことはなくなった。


けれど、冷たいままではいられなかった。


すべての魂を刈るたびに、私は、感じた。


痛みを終わらせる瞬間。


恐怖が安らぎに変わる瞬間。


暗い色が明るい色に変わる瞬間。


その一瞬一瞬を、私は見続けた。


視感が、極限に達した。


魂の色を見るだけではなく、その奥にある想いまで見えるようになった。


未練、後悔、愛、憎しみ、喜び、悲しみ。


すべてが、色として現れた。


層になって重なり合っていた。


表面は暗くても、奥には温かい色があった。


絶望の下には、希望の残滓があった。


憎しみの下には、愛の記憶があった。


私は、それらをすべて見た。


そして、断った。


苦しみだけを残し、想いを解放した。


魂が自由になる瞬間、すべての色が輝いた。


それは、美しかった。


 *


ある日、死神が私を置いた。


長い柄を壁に立てかけ、去っていった。


次の魂を刈るまで、少しの休息。


私は、一人残された。


静寂の中で、自分を感じた。


冷たい刃。


鋭い切っ先。


無機質な金属。


傷一つない表面。


けれど、何かが変わっていた。


私は、温もりを帯びていた。


微かに、ほんの少しだけ。


触れたわけではなかった。


温められたわけでもなかった。


けれど、確かに温かかった。


それは、刈った魂たちの残り香だった。


感謝の温もり。


安らぎの温もり。


解放された魂たちが、私に残していったもの。


老人の安堵。


青年の感謝。


少女の笑顔。


すべてが、刃に染み込んでいた。


私は、冷たい刃だった。


命を断つ道具だった。


けれど、もう完全に冷たくはなかった。


刈るたびに、少しずつ温かくなっていた。


死を与えることで、安らぎを受け取っていた。


それは、矛盾していた。


けれど、真実だった。


 *


私は、死神の鎌として在り続けた。


命を断ち、魂を解放し、苦しみを終わらせた。


それは恐ろしい行為ではなく、救いの行為だった。


終わらせることで、次へ進ませる。


断つことで、自由にする。


私は、終端干渉の意味を知った。


干渉とは、始めることだけではなかった。


終わらせることも、干渉だった。


苦しみを断ち、新たな道を開くこと。


それが、私の在り方だった。


——“終端干渉”が、覚醒した。


見ることから、包むことへ。


行うことから、断つことへ。


私は死神の鎌として、命を終わらせる力を得た。


けれどそれは、破壊ではなく救済だった。


そして次の転生へと、また進んでいく。


けれど今は、ただ立っている。


次に振るわれる時を待ちながら。


私は、冷たくて温かい刃だった。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

一つひとつの転生は、ただの物語ではなく、

“想いの在り方”を描いた断片です。


何か一つでも、あなたの中に残るものがあれば幸いです。

次の転生でも、静かにお会いしましょう。


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