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―転生の果てⅡ―  作者: MOON RAKER 503


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第6話 転生したら手だった

いつも読んでくださり、ありがとうございます。

『転生の果てⅡ 』は、

“存在のかたち”をめぐる旅の記録です。


どの話からでも、どの視点からでも、

一つの“想い”として感じてもらえたら嬉しいです。


それでは、どうぞ。


私は、手だった。


誰かの腕の先に在って、命令に従って動く存在。


影として見た。窓として透かした。鏡として映した。手紙として伝えた。マフラーとして包んだ。


そして今度は、行う番だった。


包むことから、動かすことへ。


私は、生きていた。


 *


最初に動いたのは、朝だった。


目覚めのアラームが鳴った。


私は伸びた。


布団を掴み、払い、枕を押しのけた。


指先が冷たい空気に触れた。


掌が毛布の温もりを感じた。


私は、体温を持っていた。


血が通っていた。


脈が打っていた。


私は、生きていた。


 *


朝食の時間、私は動いた。


包丁を握った。


刃が冷たかった。柄が固かった。


私は、野菜を切った。


トマトが潰れ、ピーマンが割れ、玉ねぎが層になって剥がれた。


力を込めると、抵抗があった。


力を抜くと、滑った。


私は、圧を学んだ。


強すぎても、弱すぎてもいけない。


ちょうど良い力が、在った。


フライパンを振った。


熱が掌に伝わった。油が跳ねた。


掌が少し痛んだ。


けれど止まらなかった。


卵を割り、混ぜ、焼いた。


黄色が白に変わり、柔らかさが固まっていく。


私は、何かを作っていた。


手が、世界を変えていた。


 *


昼、私は、誰かを助けた。


道端で転んだ子どもがいた。


膝を擦りむいて、涙を浮かべている。


私は、差し出された。


子どもの小さな手が、私に触れた。


温かかった。


少し震えていた。


私は力を加えた。


ゆっくりと引き上げた。


子どもが立った。


涙が止まった。


「ありがとう」


その言葉が、掌に染み込んだ。


私は初めて、感謝の重さを知った。


それは、温かかった。


 *


午後、私は誰かを撫でた。


疲れた友人が隣に座った。


肩を落とし、息を吐いている。


私はそっと、肩に触れた。


固かった。


筋肉が張り詰めている。


私は優しく、叩いた。


トン、トン、トン。


リズムを刻むように。


友人が少し、息を吐いた。


私は背中を撫でた。


上から下へ、円を描くように。


体温が伝わった。


疲れが、少しだけ和らいだ気がした。


友人が微笑んだ。


「楽になった」


私は、優しさの形を知った。


触れることが、癒しになる。


 *


夕方、私は誰かを抱いた。


泣いている人がいた。


声を上げずに、ただ震えている。


私は、伸ばされた。


そして、その人を包んだ。


背中に回され、強く抱きしめた。


体温が混ざった。


心臓の音が聞こえた。


その人の震えが、私に伝わった。


悲しみの重さ、孤独の冷たさ、誰にも言えなかった痛み。


私は、それを受け止めた。


力を込めた。


「大丈夫」


そう言おうとしたけれど、言葉は出なかった。


けれど私は、ただ抱いた。


それだけで良かった。


その人の震えが、少しずつ静まった。


呼吸が整った。


私は、寄り添うことの意味を知った。


 *


けれど夜、私は殴った。


誰かが襲われていた。


路地裏で、暗がりで、叫び声が響いた。


私は、振り上げられた。


拳が握られた。


私は固く、強く、熱を持っていた。


そして、叩きつけた。


鈍い音がした。


衝撃が腕を走った。


痛みが掌に響いた。


けれど私は、止まらなかった。


もう一度、殴った。


肉が潰れ、骨が軋んだ。


相手が倒れた。


襲われていた人が逃げた。


私は、救った。


けれど私は、傷つけた。


同じ手で。


同じ掌で。


私は、震えた。


触れることは、優しさだと思っていた。


けれど違った。


触れることは、暴力でもあった。


 *


深夜、私は壊した。


古い建物の解体現場。


私は、ハンマーを握った。


振り下ろした。


壁が砕けた。


板が割れた。


ガラスが飛び散った。


私は強く押した。


何度も、何度も。


破壊の音が響いた。


私は、世界を壊していた。


同じ手で、朝は料理を作った。


昼は子どもを助けた。


夕方は誰かを抱いた。


そして今、壊していた。


矛盾していた。


けれど、どちらも私だった。


触れることは、作ることでもあり、壊すことでもあった。


救うことでもあり、傷つけることでもあった。


私は、行為の二面性を知った。


 *


翌朝、私は、気づいた。


手は、命令に従うだけの存在ではなかった。


触れる相手を選べなかった。


行為の結果を決められなかった。


けれど、私は感じていた。


すべての行為の、温度を。


撫でるときの温かさ。


殴るときの熱さ。


抱くときの震え。


壊すときの痛み。


私は、すべてを受け止めていた。


触れる者と、触れられる者の間に在って、両方の心を感じ取っていた。


それが、手の役割だった。


行為の媒介者。


想いの通り道。


私は、干渉の意味を理解した。


 *


ある日、私は、自分の掌を見た。


いや、正確には見たわけではない。


けれど、感じた。


皺が刻まれていた。


傷が残っていた。


固くなった皮膚、柔らかい指先、温かい血の流れ。


私は、誰かの一部だった。


けれど、私自身でもあった。


影は誰かの足元に在った。


窓は家の一部だった。


鏡は壁に嵌められていた。


手紙は誰かの想いを運んだ。


マフラーは首に巻かれていた。


けれど手は、誰かと共に在った。


一体化していた。


切り離せなかった。


私は、その人の意志で動いた。


けれど、その人の痛みも感じた。


その人の温もりも、冷たさも、すべて共有していた。


私は、触れることの本質を悟った。


触れるとは、心を差し出すことだった。


自分を相手に委ねることだった。


そして相手の痛みを、自分の痛みとして受け取ることだった。


 *


私は、手として在り続けた。


朝は料理を作り、昼は誰かを助け、夕方は誰かを抱いた。


時には殴り、時には壊し、時には創った。


すべての行為に、意味があった。


すべての接触に、想いがあった。


私はもう、矛盾を恐れなかった。


優しさと暴力は、同じ手の中に在った。


それは分離できなかった。


けれど、それで良かった。


触れることは、選ぶことではなく、受け入れることだった。


相手の痛みも、喜びも、すべて受け止めることだった。


——“触感”が、完成した。


見ることから、触れることへ。


包むことから、行うことへ。


私は手として、世界に直接干渉する力を得た。


そして次の転生へと、また進んでいく。


けれど今は、ただ動く。


誰かを助け、誰かを支え、誰かと共に在りながら。


私は、触れることを恐れなくなった。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

一つひとつの転生は、ただの物語ではなく、

“想いの在り方”を描いた断片です。


何か一つでも、あなたの中に残るものがあれば幸いです。

次の転生でも、静かにお会いしましょう。


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