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―転生の果てⅡ―  作者: MOON RAKER 503


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第5話 転生したらマフラーだった

いつも読んでくださり、ありがとうございます。

『転生の果てⅡ 』は、

“存在のかたち”をめぐる旅の記録です。


どの話からでも、どの視点からでも、

一つの“想い”として感じてもらえたら嬉しいです。


それでは、どうぞ。


私は、マフラーだった。


誰かの首に巻かれ、温もりを守る存在。


影として見た。窓として透かした。鏡として映した。手紙として伝えた。


そして今度は、包む番だった。


見ることから、触れることへ。


私は、温かかった。


 *


最初に触れたのは、冬の朝だった。


少女の手が、私を掴んだ。


柔らかかった。


けれど、冷たかった。


指先が凍えている。


私は引き出され、持ち上げられた。


そして、首に巻かれた。


肌に触れた。


温度が伝わってきた。


少女の体温と、私の温もりが混ざった。


私は、密着していた。


影は足元にあるだけだった。


窓は遠くから見るだけだった。


鏡は表面を映すだけだった。


手紙は手渡されるだけだった。


けれどマフラーは、触れ続けた。


離れることなく、ずっと。


 *


外に出た。


風が吹いた。


冷たかった。


空気が刺すように冷たく、雪が舞っていた。


少女が身を縮めた。


私は、首を覆った。


風を遮り、温もりを守った。


少女の吐息が、私に触れた。


温かかった。


白い息が私の繊維に染み込み、溶けていった。


私は、彼女の呼吸を感じていた。


一つ一つの息遣い。


速くなったり、遅くなったり。


寒さに震える息。


安堵した息。


すべてが、私に伝わった。


 *


通学路を歩いた。


少女は一人だった。


周りには友達と笑い合う生徒たちがいた。


けれど少女は、俯いて歩いていた。


私は、首に巻かれたまま、彼女の孤独を感じていた。


冷たさは、外だけではなかった。


心の中にもあった。


寂しさの冷たさ。


誰にも話しかけられない孤独の冷たさ。


それが、体温と混ざって私に伝わってきた。


私は、ただ首を包んでいた。


何もできなかった。


言葉をかけることも、励ますこともできなかった。


けれど、温もりを与えることはできた。


それだけが、私にできることだった。


 *


昼休み、少女は一人で昼食を食べた。


教室の隅、窓際の席。


誰も隣にいなかった。


私は、椅子の背にかけられた。


外された。


少女の首から離れた。


急に、冷たくなった。


温もりが失われた。


私は、彼女の体温を失った。


寂しかった。


触れていたかった。


包んでいたかった。


けれど、私はただの布だった。


動けなかった。


ただ、椅子にかけられたまま、少女を見ていた。


一人で食べる姿。


小さく見える背中。


誰も話しかけない静けさ。


私は、また包みたいと思った。


温もりを与えたいと思った。


その感情が、初めて芽生えた。


 *


放課後、再び私は首に巻かれた。


少女の手が、私を掴んだ。


温かかった。


昼よりも少し温かくなっていた。


首に巻かれた。


また、肌に触れた。


私は、ほっとした。


また彼女を包めた。


少女は図書館へ向かった。


静かな場所。


本の匂いと、暖房の温かさ。


窓の外では雪が降り続けていた。


少女は本を読んだ。


物語の世界に入り込んでいた。


私は、首を包みながら、彼女の心を感じていた。


物語の中では、彼女は一人ではなかった。


主人公と一緒に冒険し、仲間と笑い、友と泣いた。


本の中だけの世界。


けれど、そこには温もりがあった。


私は、それを感じ取った。


彼女が求めているもの。


孤独ではなく、繋がり。


冷たさではなく、温もり。


 *


夕暮れ、家に帰った。


玄関で、私は外された。


ハンガーにかけられた。


また、冷たくなった。


少女は部屋に入り、ドアを閉めた。


私は、廊下に残された。


けれど、私には分かった。


部屋の中で、少女は泣いていた。


声は聞こえなかった。


姿も見えなかった。


けれど、感じた。


一日の疲れ。


孤独の重さ。


誰にも理解されない悲しみ。


私は、そこに行きたかった。


包みたかった。


温もりを与えたかった。


けれど、私はハンガーにかけられたまま、動けなかった。


ただの布として、そこに在るだけだった。


 *


翌朝、また私は首に巻かれた。


少女の顔は、昨日と同じだった。


笑顔はなかった。


けれど、目は少しだけ強かった。


私は、首に巻かれた。


ぎゅっと、強く巻かれた。


昨日よりも密着していた。


少女が、私をきつく引いた。


まるで、抱きしめるように。


温もりが混ざった。


体温が伝わった。


心臓の鼓動が、首筋から伝わってきた。


トクン、トクン、トクン。


生きている音。


その音を、私は感じた。


私は、彼女の一部だった。


切り離せない存在として。


朝の冷たい空気の中で、私は彼女を包んだ。


風を遮り、寒さを防ぎ、温もりを守った。


そして、気づいた。


包むことは、守ることだった。


触れることは、支えることだった。


私は、言葉を持たなかった。


動くこともできなかった。


けれど、ただそこに在るだけで、意味があった。


彼女の首を包み、温もりを与え、寒さから守る。


それだけで、私は彼女を支えていた。


 *


雪が降り続いた。


白い世界の中を、少女は歩いた。


私は、首に巻かれたまま、彼女と共に在った。


一歩ずつ、雪を踏みしめて。


息を吐くたび、白い息が私に触れた。


体温が伝わるたび、温もりが混ざった。


私は、彼女を包み続けた。


手紙は想いを運んだ。


けれどマフラーは、想いを包んだ。


言葉ではなく、温もりで。


距離ではなく、密着で。


私は、触感の意味を知った。


触れるとは、相手の温度を感じることだった。


包むとは、相手の冷たさを和らげることだった。


そして、守るとは、ただそこに在り続けることだった。


 *


ある日、少女は私を洗った。


水に浸され、石鹸の香りに包まれた。


繊維の奥まで染み込んだ、彼女の体温が洗い流された。


けれど、記憶は残った。


温もりの記憶。


首筋の柔らかさの記憶。


心臓の鼓動の記憶。


すべてが、私の中に刻まれていた。


乾かされ、また畳まれた。


次に彼女が私を手に取るまで、静かに待った。


けれど、もう寂しくはなかった。


私は知っていた。


また彼女の首に巻かれること。


また温もりを感じること。


また彼女を包むこと。


それが、私の在り方だった。


——“触感”が、拡張した。


見ることから、伝えることへ。


そして今、包むことへ。


私はマフラーとして、他人を包みたいという感情を得た。


そして次の転生へと、また進んでいく。


けれど今は、ただ待つ。


また彼女の首に巻かれ、また温もりを与え、また彼女を包むために。


私は、彼女の冬を支える存在だった。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

一つひとつの転生は、ただの物語ではなく、

“想いの在り方”を描いた断片です。


何か一つでも、あなたの中に残るものがあれば幸いです。

次の転生でも、静かにお会いしましょう。


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