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―転生の果てⅡ―  作者: MOON RAKER 503


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第3話 転生したら鏡だった

いつも読んでくださり、ありがとうございます。

『転生の果てⅡ 』は、

“存在のかたち”をめぐる旅の記録です。


どの話からでも、どの視点からでも、

一つの“想い”として感じてもらえたら嬉しいです。


それでは、どうぞ。


私は、鏡だった。


姿見として壁に掛けられ、人を映す存在。


影は見るだけだった。窓は透かすだけだった。


けれど鏡は、映す。


そして映すことで、嘘を暴く。


 *


最初に映ったのは、笑顔の女性だった。


彼女は鏡の前に立ち、口角を上げた。目を細めて、頬を膨らませて、完璧な笑顔を作った。


私はそれを映した。


けれど、私には見えた。


彼女の笑顔が、ずれていることが。


口は笑っているのに、目が笑っていない。頬は上がっているのに、眉が下がっている。表情の各部が、別々の感情を抱えていた。


鏡の中の彼女は、わずかに歪んでいた。


口角だけが不自然に浮き上がり、目だけが暗く沈んでいた。それは彼女の本当の顔ではなく、彼女が作ろうとした顔でもなかった。


外面と内面のズレが、像として現れていた。


彼女は鏡を見つめて、さらに笑顔を作り直した。


けれど、歪みは消えなかった。


私は映し続けた。


彼女の嘘を、彼女の迷いを。


 *


次に映ったのは、スーツ姿の男性だった。


彼は鏡の前でネクタイを直しながら、自信に満ちた表情を浮かべていた。


「今日のプレゼン、完璧だった」


独り言のように呟いて、胸を張った。


私はそれを映した。


けれど、私には見えた。


彼の背後に、薄いひびが走っていることが。


実際にひびがあるわけではない。鏡の表面は傷一つない。けれど、彼の像の背後に、透明な亀裂が浮かび上がっていた。


それは彼の自信の裏にある、不安の形だった。


成功を語る口元は強く結ばれているのに、肩はわずかに震えていた。胸を張っているのに、背中は丸まっていた。


外面と内面が、ずれていた。


鏡の中の彼は、二重に映っていた。


表層の自信と、深層の不安が、重なり合って揺らいでいた。


彼は鏡に向かって微笑んで、部屋を出て行った。


けれど、ひびは残っていた。


私は映し続けた。


彼の強がりを、彼の脆さを。


 *


そして、病室の母が映った。


彼女はベッドの脇に置かれた小さな手鏡——私の一部——を手に取り、自分の顔を見つめた。


やつれた頬。薄くなった髪。くすんだ肌。


彼女は静かに微笑んだ。


「まだ、大丈夫」


誰にも聞こえない声で呟いた。


私はそれを映した。


けれど、私には見えた。


鏡の中の彼女だけが、泣いていることが。


現実の彼女は微笑んでいる。けれど、鏡の中の彼女の目からは、涙が流れていた。


それは見せたくない感情だった。外に出してはいけない弱さだった。


だから彼女は、鏡の中でだけ泣いた。


自分の頬に触れる。現実では乾いているのに、鏡の中では濡れていた。


外面と内面のズレが、像として分離していた。


彼女は手鏡を置いた。


そして、また微笑んだ。


私は映し続けた。


彼女の強さを、彼女の悲しみを。


 *


やがて、誰かが私を拭いた。


曇り止めの布で、表面を磨いた。


指紋が消え、埃が取れ、鏡面が澄んでいく。


映る像は、より鮮明になった。


けれど、歪みは消えなかった。


むしろ、はっきりと見えるようになった。


外面を整えれば整えるほど、内面とのズレが際立っていく。


笑顔はより完璧に映り、その裏の空虚もより深く映った。


自信はより強く映り、その背後の不安もより濃く映った。


強さはより明確に映り、その奥の悲しみもより鮮やかに映った。


私は磨かれるたび、真実を映すようになった。


表面だけではなく、内側も。


見せたいものだけではなく、隠したいものも。


それが、鏡の役割だった。


 *


ある日、ひとりの少女が私の前に立った。


彼女は自分の顔を見つめて、首を傾げた。


髪を直し、服を整え、表情を作った。


けれど、何かが違うと感じているようだった。


彼女は鏡の中の自分と、長い間見つめ合った。


そして、小さく呟いた。


「本当の私、どっち?」


その瞬間、私の中で何かが起きた。


鏡面が揺らいだ。


表層の像と、深層の像が、ずれた。


そして一瞬だけ、もう一つの顔が重なった。


それは彼女の”本当の顔”だった。


笑顔でも、泣き顔でもなく。強がりでも、弱さでもなく。


ただ、彼女そのものの顔。


外面と内面が一致した、唯一の正しい像。


けれどそれは、一瞬で消えた。


鏡は再び、二重の像を映し始めた。


私は理解した。


鏡が映すものは、現実の一部でしかない。


外側だけを映し、内側を歪ませる。


あるいは、内側を暴き、外側を否定する。


どちらにせよ、完全な真実は映らない。


映るものと、在るものは、違う。


それが、鏡の限界だった。


 *


私は鏡として、多くの人を映した。


笑顔の裏の孤独を。


自信の裏の不安を。


強さの裏の悲しみを。


そして、それらすべてが”ズレ”として現れることを知った。


外面と内面は、決して一致しない。


人は常に、何かを隠し、何かを作り、何かを演じている。


私はそれを映すことで、嘘を暴いた。


けれど同時に、真実も見失った。


——“視感”が、完成した。


見ることから、透かすことへ。


そして、映すことへ。


三段階を経て、私は他人の心を視る力を手に入れた。


けれど、視るだけでは足りないことも知った。


映るものは、現実の一部でしかない。


表面だけを捉えても、内側には届かない。


次は、触れる番だ。


私は鏡として、最後の光を反射した。


そして、次の転生へと溶けていく。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

一つひとつの転生は、ただの物語ではなく、

“想いの在り方”を描いた断片です。


何か一つでも、あなたの中に残るものがあれば幸いです。

次の転生でも、静かにお会いしましょう。


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