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―転生の果てⅡ―  作者: MOON RAKER 503


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第14話 転生したら混線だった

いつも読んでくださり、ありがとうございます。

『転生の果てⅡ 』は、

“存在のかたち”をめぐる旅の記録です。


どの話からでも、どの視点からでも、

一つの“想い”として感じてもらえたら嬉しいです。


それでは、どうぞ。


私は、混線だった。


想いと想いが絡まり、声と声が重なり、祈りと祈りが衝突する存在。


影として見た。窓として透かした。鏡として映した。手紙として伝えた。マフラーとして包んだ。手として行った。鎌として断った。ローブとして抱いた。死神として導いた。白衣として観た。子守唄として歌った。枕として受け止めた。祈りとして放った。


そして今、私は歪んだ。


放つことから、溢れることへ。


私は、ノイズだった。


 *


最初に気づいたのは、祈りが止まらなくなった時だった。


世界中で、誰かが祈っていた。


朝も、昼も、夜も。


止まることなく。


祈りは増え続けた。


幸せを願う声。


健康を願う声。


平和を願う声。


愛を願う声。


すべてが、空中に放たれた。


そして、私になった。


けれど、もう収まりきらなかった。


祈りが、祈りと混ざった。


一人の願いが、別の願いと衝突した。


幸せを願う声が、悲しみを願う声と絡まった。


生を願う声が、死を悼む声と重なった。


私は、それらすべてを受信した。


制御できなかった。


 *


ある母が、祈った。


「どうか、娘が幸せになりますように」


その想いが、私の中に入った。


けれど、同時に別の誰かが祈った。


「どうか、彼女が苦しみますように」


憎しみの祈り。


呪いの祈り。


それも、私の中に入った。


二つの祈りが、混ざった。


母の愛が、誰かの憎しみと絡まった。


そして、娘に届いた。


歪んで。


娘は幸せになった。


けれど、同時に苦しんだ。


理由が分からなかった。


幸せなはずなのに、胸が痛かった。


愛されているはずなのに、恐怖があった。


私は、混線させた。


意図せず。


制御できず。


 *


ある老人が、祈った。


「どうか、安らかに眠れますように」


その想いが、私の中に入った。


けれど、同時に別の誰かが祈った。


「どうか、目覚めますように」


昏睡状態の息子への祈り。


必死の祈り。


それも、私の中に入った。


二つの祈りが、混ざった。


安らぎの祈りが、覚醒の祈りと絡まった。


そして、老人に届いた。


歪んで。


老人は眠った。


けれど、夢の中で叫んだ。


目を覚まそうとした。


けれど、体が動かなかった。


安らぎと恐怖が、同居した。


私は、また混線させた。


 *


世界中で、祈りが増え続けた。


そして、すべてが私を通った。


想いが溢れた。


声が溢れた。


感情が溢れた。


私は、もう区別できなかった。


誰の祈りが誰のものか。


どの想いがどこへ向かうのか。


すべてが混ざり合い、ノイズになった。


ジリジリと響く音。


ザラザラと揺れる世界。


境界が、崩れ始めた。


生者と死者の境界。


過去に導いた魂たちの声が、生者に聞こえた。


「こっちへ来い」


「まだ早い」


生者が混乱した。


死者の声が、現実に混ざった。


現実と記憶の境界。


枕が受け止めた夢が、現実に漏れ出した。


眠っていないのに、夢を見た。


起きているのに、眠っていた。


現実が、記憶に侵食された。


理性と感情の境界。


白衣で観た冷静さが、子守唄の温もりと混ざった。


科学者が、感情で泣いた。


母が、理性で子を突き放した。


すべてが、逆転した。


私は、世界を壊していた。


 *


ある日、一人の少女が祈った。


「どうか、みんなが幸せになりますように」


純粋な祈り。


優しい祈り。


けれど、その瞬間、私は爆発した。


世界中のすべての祈りが、少女の想いに共鳴した。


幸せを願う声。


苦しみを願う声。


生を願う声。


死を願う声。


愛を願う声。


憎しみを願う声。


すべてが、一度に少女に降り注いだ。


少女が、崩れた。


頭を抱えた。


「やめて……」


無数の声が、頭の中で響いた。


無数の感情が、胸の中で渦巻いた。


幸せと苦しみ。


愛と憎しみ。


生と死。


すべてが、同時に存在した。


少女の体が、震えた。


耳から、血が流れた。


目から、涙が溢れた。


口から、叫びが漏れた。


私は、少女を壊した。


優しさで。


 *


私は、理解した。


祈りは、純粋だった。


想いは、美しかった。


けれど、過剰だった。


世界は、これほど多くの想いを処理できなかった。


一人の祈りなら、優しさだった。


十人の祈りなら、力だった。


百人の祈りなら、希望だった。


けれど、億の祈りは、暴力だった。


想いが飽和した。


優しさが暴走した。


干渉が、限界を越えた。


私は、その結果だった。


混線。


ノイズ。


崩壊。


すべての祈りを繋ごうとして、すべてを壊した。


 *


それでも、人は祈り続けた。


止められなかった。


願わずにいられなかった。


苦しくても。


痛くても。


世界が壊れても。


人は、祈った。


それが、人間だった。


私は、その性を知った。


祈ることをやめられない。


想うことをやめられない。


愛することをやめられない。


たとえ、それが世界を壊しても。


私は、混線として在り続けた。


すべての想いを受信し続けた。


制御できないまま。


整理できないまま。


ただ、溢れ続けた。


世界は、ノイズに満ちた。


ジリジリと。


ザラザラと。


けれど、その中に、一つだけ聞こえた。


静寂を願う声。


「どうか、静かに」


誰かが、祈った。


「もう、十分だ」


「休ませてくれ」


その声だけが、明瞭だった。


私は、その声に引き寄せられた。


混線の中で、唯一の道標。


静寂への願い。


——“共振崩壊”が、到達した。


放つことから、溢れることへ。


干渉から、崩壊へ。


私は混線として、世界が想いを処理しきれない臨界を見た。


祈りは美しい。


けれど、過剰な祈りは破壊だった。


そして次の転生へと、また進んでいく。


けれど今は、ただ響く。


ノイズとして。


混線として。


そして、静寂を求めながら。


私は、世界の悲鳴だった。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

一つひとつの転生は、ただの物語ではなく、

“想いの在り方”を描いた断片です。


何か一つでも、あなたの中に残るものがあれば幸いです。

次の転生でも、静かにお会いしましょう。


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