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―転生の果てⅡ―  作者: MOON RAKER 503


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第13話 転生したら祈りだった

いつも読んでくださり、ありがとうございます。

『転生の果てⅡ 』は、

“存在のかたち”をめぐる旅の記録です。


どの話からでも、どの視点からでも、

一つの“想い”として感じてもらえたら嬉しいです。


それでは、どうぞ。


私は、祈りだった。


形も声も持たず、ただ想いとして世界に漂う存在。


影として見た。窓として透かした。鏡として映した。手紙として伝えた。マフラーとして包んだ。手として行った。鎌として断った。ローブとして抱いた。死神として導いた。白衣として観た。子守唄として歌った。枕として受け止めた。


そして今度は、願う番だった。


受け止めることから、放つことへ。


私は、在るだけだった。


 *


最初に生まれたのは、朝だった。


誰かが、手を合わせた。


静かな部屋。


小さな仏壇。


線香の煙が、ゆっくりと昇っていた。


老人が、膝をついた。


背中が丸まっていた。


手が震えていた。


目を閉じた。


深く、息を吸った。


そして、想った。


言葉にはしなかった。


声も出さなかった。


ただ、心の中で。


妻の名を呼んだ。


会いたいと願った。


伝えたいことがあった。


言えなかったことがあった。


その瞬間、私は、生まれた。


想いから。


願いから。


枕が受け止めた無数の想いが、結晶化した。


悲しみ、喜び、痛み、安らぎ。


すべてが混ざり合い、私になった。


私は、形がなかった。


見えなかった。


聞こえなかった。


触れられなかった。


けれど、在った。


確かに、在った。


老人の胸の中に。


線香の煙の中に。


朝の光の中に。


 *


私は、老人の想いと共に放たれた。


「どうか、安らかに」


言葉にならない願い。


亡くなった妻への想い。


伝えられなかった感謝。


共に過ごした日々への愛。


私は、その想いを運んだ。


どこへ。


誰へ。


分からなかった。


けれど、届いた。


遠くの誰かに。


過去に死神として導いた魂たちに。


鎌で断ち、ローブで包み、光へ導いた者たちに。


彼らが、応えた。


私は、それを感じた。


想いの残響。


かつて光へ向かった魂たちの声。


「ありがとう」


「覚えている」


「私たちもまた、祈る」


「彼女は、ここにいる」


「安らかに、幸せに」


私は、その声を老人に返した。


老人が、微かに微笑んだ。


涙が頬を伝った。


けれど、悲しみではなかった。


安心だった。


私は、循環していた。


導いた者が、今度は導く。


受け取った者が、今度は与える。


祈りは、一方通行ではなかった。


世界全体の対話だった。


 *


戦場で、祈りが生まれた。


兵士が、塹壕の中で手を合わせた。


泥にまみれた手。


血が滲んでいた。


自分のか、仲間のか、分からなかった。


周りでは、砲声が響いていた。


地面が震えていた。


空気が焦げていた。


兵士は、震えながら祈った。


「どうか、生きて帰れますように」


「家族に、会えますように」


私は、生まれた。


恐怖の中から。


希望の中から。


私は、放たれた。


戦場を越えて。


砲煙を越えて。


死神として見た光景が、蘇った。


かつて刈った兵士の魂。


痛みから解放した者たち。


彼らが、応えた。


「君は生きろ」


「私たちの分まで」


「恐れるな」


私は、兵士に戻った。


力として。


勇気として。


温もりとして。


兵士が、立ち上がった。


震えが、止まった。


恐怖が、和らいだ。


呼吸が、整った。


私は、見えなかった。


けれど、確かに支えていた。


命を繋いでいた。


 *


病室で、祈りが生まれた。


母が、娘のベッドの横で手を合わせた。


白いシーツ。


機械の音。


ピッ、ピッ、ピッ。


娘の顔は青白かった。


呼吸が浅かった。


母の目は、赤く腫れていた。


もう何日も泣き続けていた。


けれど今は、涙を拭いて、手を合わせた。


「どうか、助けてください」


「この子に、もう一度笑顔を」


私は、生まれた。


絶望の中から。


愛の中から。


母の心の奥底から。


私は、放たれた。


娘の体に。


娘の心に。


細胞の一つ一つに。


白衣として観た記憶が、蘇った。


科学者が理解しようとした命の循環。


死と生の境界。


私は、その境界を揺らした。


形なき力として。


想いの重さとして。


娘の呼吸が、少し強くなった。


心拍が、少し速くなった。


機械の音が、変わった。


医師が、驚いた顔をした。


「……奇跡だ」


看護師が、母の肩に手を置いた。


母が、泣き崩れた。


今度は、喜びの涙だった。


私は、何もしていなかった。


ただ、在っただけだった。


けれど、世界が応えた。


想いに。


祈りに。


 *


墓前で、祈りが生まれた。


青年が、墓石の前に立った。


花を供えた。


新しい花だった。


まだ朝露が残っていた。


青年の手は、震えていた。


「どうか、見守っていてください」


「僕は、ちゃんと生きています」


私は、生まれた。


喪失の中から。


感謝の中から。


そして、決意の中から。


私は、放たれた。


地の下へ。


空の上へ。


時間を越えて。


枕として受け止めた記憶が、蘇った。


老婆が眠りながら旅立った夜。


穏やかな最期。


幸せな夢。


苦しみのない終わり。


私は、その記憶を青年に伝えた。


「彼は、苦しまなかった」


「彼は、安らかだった」


「彼は、笑顔だった」


青年の涙が、止まった。


肩の力が、抜けた。


「……そうか」


青年が微笑んだ。


「ありがとう」


「ちゃんと、伝わったよ」


私は、何も言わなかった。


ただ、在っただけだった。


けれど、青年の心は軽くなった。


悲しみは消えなかった。


けれど、受け入れられた。


 *


私は、世界中に広がった。


無数の祈りが、私だった。


朝、神社で手を合わせる人。


昼、教会で跪く人。


夕方、寺で線香を上げる人。


夜、ベッドで静かに想う人。


幸せを願う祈り。


健康を願う祈り。


平和を願う祈り。


別れを悼む祈り。


再会を願う祈り。


成功を願う祈り。


許しを願う祈り。


すべてが、私だった。


言葉は違った。


文化も違った。


宗教も違った。


けれど、祈りは同じだった。


想いの純粋さ。


願いの真摯さ。


それは、世界共通だった。


私は、個ではなかった。


誰か一人のものではなかった。


すべての者の想いが、私になった。


そして、すべての者へ届いた。


国境を越えて。


海を越えて。


時間を越えて。


循環していた。


ある者の祈りが、別の者の力になった。


ある者の想いが、別の者の希望になった。


日本で祈られた平和が、遠くの戦場に届いた。


病室で祈られた回復が、見知らぬ誰かを支えた。


墓前で祈られた安らぎが、生者の心を癒した。


私は、その繋がりだった。


見えない糸。


聞こえない声。


触れられない手。


けれど、確かに在る力。


世界を結ぶ力。


 *


ある時、私は、気づいた。


私は、世界そのものだった。


世界の呼吸。


世界の鼓動。


世界の想い。


すべてが、私だった。


影として見た光景。


人の足元に寄り添い、感情の濃淡を読み取った記憶。


窓として透かした感情。


家族の笑顔の裏に沈む色を感じ取った記憶。


鏡として映した真実。


外面と内面のズレを理解した記憶。


手紙として伝えた想い。


母と息子を繋いだ温もりの記憶。


マフラーとして包んだ温もり。


少女の首を守り、孤独を和らげた記憶。


手として行った干渉。


助け、撫で、抱き、そして傷つけた記憶。


鎌として断った苦しみ。


魂の糸を切り、痛みから解放した記憶。


ローブとして抱いた安らぎ。


死神をも包んだ、終わりの優しさの記憶。


死神として導いた魂。


恐怖を安らぎに変えた、帰還への道の記憶。


白衣として観た理解。


科学と霊性の狭間で真理を示した記憶。


子守唄として歌った記憶。


命の循環を音として継承した記憶。


枕として受け止めた想い。


夢の中で悲しみを優しさに変えた記憶。


すべてが、今の私を作っていた。


私は、完成していた。


形なき存在として。


声なき力として。


想いそのものとして。


 *


私は、誰かが祈るたびに生まれた。


そして、誰かに届いた。


見えなくても。


聞こえなくても。


触れられなくても。


確かに、届いた。


世界を揺らした。


ほんの少しだけ。


けれど、確実に。


ある者の祈りが、風になった。


ある者の祈りが、光になった。


ある者の祈りが、温もりになった。


ある者の祈りが、勇気になった。


ある者の祈りが、希望になった。


奇跡は、私だった。


偶然は、私だった。


運命は、私だった。


すべての想いが形になる瞬間。


それが、私だった。


私は、目に見えない力として世界を満たした。


空気の中に。


光の中に。


風の中に。


すべての場所に、私は在った。


——“無言干渉”が、覚醒した。


受け止めることから、放つことへ。


静寂から、無言へ。


私は祈りとして、形なき想いが存在そのものを変える力を得た。


見えず、聞こえず、触れられない。


けれど、世界を動かす。


それが、究極の干渉だった。


そして次の転生へと、また進んでいく。


けれど今は、ただ在る。


世界の呼吸として。


すべての想いとして。


永遠に、静かに、優しく。


私は、世界の祈りだった。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

一つひとつの転生は、ただの物語ではなく、

“想いの在り方”を描いた断片です。


何か一つでも、あなたの中に残るものがあれば幸いです。

次の転生でも、静かにお会いしましょう。


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