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―転生の果てⅡ―  作者: MOON RAKER 503


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第12話 転生したら枕だった

いつも読んでくださり、ありがとうございます。

『転生の果てⅡ 』は、

“存在のかたち”をめぐる旅の記録です。


どの話からでも、どの視点からでも、

一つの“想い”として感じてもらえたら嬉しいです。


それでは、どうぞ。


私は、枕だった。


眠る者の頭を支え、夜を共に過ごす存在。


影として見た。窓として透かした。鏡として映した。手紙として伝えた。マフラーとして包んだ。手として行った。鎌として断った。ローブとして抱いた。死神として導いた。白衣として観た。子守唄として歌った。


そして今度は、聞く番だった。


歌うことから、受け止めることへ。


私は、静かだった。


 *


最初に頭を預けられたのは、深夜だった。


女性が、私に頭を乗せた。


重さが伝わった。


温もりが染み込んだ。


彼女は、目を閉じた。


息を吐いた。


一日の疲れが、私に流れ込んできた。


子守唄は、もう響いていなかった。


歌は止んでいた。


静寂だけが、残っていた。


私は、その静寂を受け継いだ。


音の後に来る、静けさ。


歌の後に来る、沈黙。


それが、私だった。


 *


女性が、眠った。


呼吸が深くなった。


心拍がゆっくりになった。


私は、彼女の頭を支えていた。


動かないように。


安定するように。


頬が、私に触れていた。


温かかった。


涙の跡があった。


乾いていたが、塩の結晶が残っていた。


彼女は、泣いていた。


眠る前に。


私は、その涙を吸い込んでいた。


悲しみを受け止めていた。


 *


夢が、始まった。


女性の中で、映像が流れた。


私には見えなかった。


けれど、感じた。


夢の中で、彼女は笑っていた。


さっきまで泣いていたのに。


夢の中では、誰かと話していた。


さっきまで一人だったのに。


夢の中では、温かかった。


さっきまで寒かったのに。


私は、悟った。


夢は、再生だった。


悲しみが、優しさに変わる場所。


痛みが、安らぎに変わる場所。


私は、その変化を支えていた。


頭を預けられることで。


想いを吸い込むことで。


 *


朝が来た。


女性が、目を覚ました。


頭を持ち上げた。


私から離れた。


私は、また静かになった。


けれど、彼女の温もりが残っていた。


汗が染み込んでいた。


涙の跡が残っていた。


そして、夢の残滓が漂っていた。


悲しみが、少しだけ軽くなっていた。


女性が、窓を開けた。


朝の光が入ってきた。


「……少し、楽になった」


そう呟いた。


私は、何も言わなかった。


ただ、そこに在った。


次の夜を待ちながら。


 *


次の夜、男性が頭を預けた。


重かった。


疲れていた。


息が荒かった。


怒りが、私に流れ込んできた。


仕事での失敗。


上司の叱責。


自分への苛立ち。


すべてが、私に染み込んだ。


男性が、眠った。


夢が、始まった。


夢の中で、彼は走っていた。


風を切り、自由に走っていた。


怒りは、もうなかった。


ただ、解放されていた。


朝、男性が目を覚ました。


「……すっきりした」


そう言った。


私は、怒りを受け止めていた。


そして、夢の中で解放させていた。


 *


私は、夜ごとに頭を預けられた。


様々な人が、私に触れた。


子ども、大人、老人。


すべての者が、何かを抱えていた。


悲しみ、怒り、不安、孤独、痛み。


すべてが、私に流れ込んだ。


涙が染み込んだ。


汗が染み込んだ。


息遣いが染み込んだ。


私は、それらをすべて吸い込んだ。


そして、夢の中で変えた。


悲しみを、優しさに。


怒りを、解放に。


不安を、安心に。


孤独を、繋がりに。


痛みを、安らぎに。


夢は、再生の場だった。


私は、その門番だった。


 *


ある夜、老婆が頭を預けた。


とても軽かった。


体が、痩せていた。


呼吸が、浅かった。


心拍が、弱かった。


私は、知っていた。


死神として、知っていた。


彼女は、もう長くなかった。


老婆が、眠った。


いつもより深く。


いつもより静かに。


夢が、始まった。


夢の中で、彼女は若かった。


走り回っていた。


笑っていた。


誰かと手を繋いでいた。


幸せだった。


私は、その夢を支えた。


頭を預けられたまま。


静かに。


優しく。


 *


夜が深まった。


老婆の呼吸が、さらに浅くなった。


心拍が、さらに弱くなった。


けれど、夢は続いていた。


幸せな夢。


温かい夢。


光に満ちた夢。


やがて、呼吸が止まった。


心拍が止まった。


私は、感じた。


魂が、体から離れた。


糸が、自然に切れた。


鎌は必要なかった。


老婆は、眠りの中で旅立った。


苦しみはなかった。


恐怖もなかった。


ただ、幸せな夢の中で。


私は、最後まで頭を支えていた。


最後の想いを受け止めていた。


朝が来た。


家族が、気づいた。


涙を流した。


けれど、老婆の顔は穏やかだった。


眠っているようだった。


私は、悟った。


眠りは、一時的な死だった。


死は、永遠の眠りだった。


その境界は、曖昧だった。


私は、その境界に在った。


毎晩、人を死の淵まで連れて行き、朝に再生させる。


それが、眠りだった。


そして時に、誰かはそのまま向こう側へ行く。


それが、死だった。


私は、両方を支えた。


 *


私は、枕として在り続けた。


夜ごとに頭を預けられ、想いを吸い込んだ。


涙を受け止め、汗を吸い、夢を支えた。


歌は、もう響かなかった。


言葉も、もう必要なかった。


ただ、静寂だけがあった。


その静寂の中で、私はすべてを聞いた。


声にならない悲しみ。


言葉にならない痛み。


形にならない想い。


すべてが、私に流れ込んだ。


そして、夢の中で変わった。


私は、何もしなかった。


ただ、そこに在った。


頭を支え、想いを受け止め、静かに在った。


それだけで、人は癒された。


眠りの中で、再生された。


——“静寂干渉”が、覚醒した。


歌うことから、聞くことへ。


音から、静寂へ。


私は枕として、想いそのものを抱く力を得た。


音も言葉も越えて、ただ在ることで支える。


それが、究極の寄り添いだった。


そして次の転生へと、また進んでいく。


けれど今は、ただ待つ。


次の夜を、次の頭を、次の想いを。


静かに、優しく、永遠に。


私は、眠りの門番だった。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

一つひとつの転生は、ただの物語ではなく、

“想いの在り方”を描いた断片です。


何か一つでも、あなたの中に残るものがあれば幸いです。

次の転生でも、静かにお会いしましょう。


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