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―転生の果てⅡ―  作者: MOON RAKER 503


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第11話 転生したら子守唄だった

いつも読んでくださり、ありがとうございます。

『転生の果てⅡ 』は、

“存在のかたち”をめぐる旅の記録です。


どの話からでも、どの視点からでも、

一つの“想い”として感じてもらえたら嬉しいです。


それでは、どうぞ。


私は、子守唄だった。


誰かの喉から紡がれ、空気を震わせて伝わる旋律。


影として見た。窓として透かした。鏡として映した。手紙として伝えた。マフラーとして包んだ。手として行った。鎌として断った。ローブとして抱いた。死神として導いた。白衣として観た。


そして今度は、歌う番だった。


理解することから、感じさせることへ。


私は、響いていた。


 *


最初に歌われたのは、夜だった。


母の喉が、震えた。


柔らかい声。


低く、優しく。


私は、空気の中に生まれた。


音として。


旋律として。


言葉ではなかった。


意味ではなかった。


ただ、音の連なり。


高くなり、低くなり、また高くなる。


揺れるように。


波のように。


私は、部屋を満たした。


 *


母の腕の中に、子どもがいた。


小さな体。


目を開けていた。


けれど、眠れなかった。


不安そうだった。


私は、子どもに届いた。


耳に入り、鼓膜を震わせた。


子どもの心臓が、ゆっくりになった。


トクン、トクン。


私のリズムと、同調した。


呼吸が整った。


スー、スー。


私の波と、重なった。


子どもの瞼が、重くなった。


母が歌い続けた。


私は流れ続けた。


そして、子どもが眠った。


穏やかに。


安らかに。


私は、初めて誰かを眠らせた。


言葉ではなく、音で。


意味ではなく、旋律で。


 *


私は、母の記憶の中にいた。


この歌は、昔から在った。


母が子どもの頃、祖母が歌った。


祖母が子どもの頃、曾祖母が歌った。


さらに昔、誰かが誰かに歌った。


代々、受け継がれてきた。


言葉は変わった。


国が変わった。


けれど、旋律は残った。


私は、記憶だった。


命の記憶。


眠りの記憶。


安らぎの記憶。


すべての母が、すべての子に歌った歌。


私は、継承されてきた。


音として。


 *


ある夜、病院で歌われた。


看護師が、患者に歌った。


老人だった。


眠れずに苦しんでいた。


痛みがあった。


不安があった。


私は、老人に届いた。


耳に入り、心に響いた。


老人の呼吸が、整った。


私のリズムと、同調した。


心拍が、落ち着いた。


私の波と、重なった。


老人の顔が、穏やかになった。


「……母が、歌っていた」


老人が呟いた。


「この歌を」


私は、記憶を呼び起こした。


遠い昔。


子どもだった頃。


母の腕の中で、この歌を聞いた。


温かかった。


安心した。


すべてが、大丈夫だと思えた。


老人が、微笑んだ。


「ああ……懐かしい」


そして、眠った。


もう苦しんでいなかった。


 *


ある日、戦場で歌われた。


兵士が、仲間に歌った。


傷ついた兵士。


もう助からなかった。


痛みに顔を歪めていた。


歌う兵士も、泣いていた。


けれど、歌った。


私は、震えながら響いた。


傷ついた兵士に届いた。


呼吸が整った。


心拍が落ち着いた。


痛みは消えなかった。


けれど、恐怖が和らいだ。


「……ありがとう」


兵士が呟いた。


「母を、思い出した」


そして、目を閉じた。


穏やかに。


私は、死を恐れぬ者に響いた。


安らぎとして。


最後の記憶として。


 *


ある夜、老人ホームで歌われた。


介護士が、老婆に歌った。


老婆は、認知症だった。


多くを忘れていた。


家族の顔。


自分の名前。


けれど、この歌は覚えていた。


私が響くと、老婆が微笑んだ。


「……知ってる」


口が動いた。


一緒に、歌い始めた。


か細い声。


震える旋律。


けれど、確かに歌っていた。


私と、重なった。


二つの声が、一つになった。


老婆の目に、涙が浮かんだ。


「……誰かが、歌ってくれた」


「温かかった」


記憶が、蘇った。


言葉では思い出せなかった。


顔も名前も忘れた。


けれど、歌は残っていた。


音として。


感情として。


私は、記憶を繋いだ。


 *


私は、様々な場所で歌われた。


幸せな家庭で。


悲しみに沈む病室で。


戦場の隅で。


老人ホームの夜で。


すべての場所で、私は同じだった。


旋律は変わらなかった。


高くなり、低くなり、また高くなる。


揺れるように。


波のように。


けれど、響き方は違った。


幸せな者には、安らぎとして。


悲しむ者には、祈りとして。


恐れる者には、慰めとして。


忘れた者には、記憶として。


私は、すべてに応えた。


音として。


 *


ある夜、私は気づいた。


私は、誰のものでもなかった。


母のものでも、子のものでもなかった。


特定の歌い手のものでもなかった。


私は、世界のものだった。


命そのものの旋律。


心臓の鼓動。


呼吸のリズム。


波の音。


風の音。


すべてが、私だった。


私は、世界の心拍だった。


生まれたときから、死ぬときまで。


ずっと響き続ける音。


それが、子守唄だった。


 *


ある夜、母が再び歌った。


同じ子どもに。


もう少し大きくなっていた。


けれど、まだ眠れない夜があった。


悪夢を見た夜。


怖いことがあった夜。


母が、歌った。


私は、響いた。


子どもの心拍と、同調した。


呼吸と、重なった。


恐怖が、消えた。


悲しみが、和らいだ。


子どもが、眠った。


母も、目を閉じた。


疲れていた。


私は、母にも響いた。


歌っている者にも、安らぎを与えた。


声を出すことが、癒しになった。


歌うことが、生きることになった。


 *


私は、悟った。


歌うとは、生かすことだった。


音を出すことで、命が繋がった。


旋律を紡ぐことで、記憶が継承された。


声を震わせることで、心が共鳴した。


私は、生と死のあいだに在った。


眠りと目覚めのあいだに在った。


過去と未来のあいだに在った。


すべてを繋ぐ音として。


私は、命の循環だった。


生まれた者に歌われ、死にゆく者に歌われた。


幸せな者に歌われ、悲しむ者に歌われた。


すべての場所で、すべての時代で。


私は、響き続けた。


——“共鳴干渉”が、覚醒した。


観ることから、感じさせることへ。


理性から、感情へ。


私は子守唄として、心音と声が世界に溶け合う力を得た。


音は、命そのものだった。


歌うことは、生かすことだった。


そして次の転生へと、また進んでいく。


けれど今は、ただ響く。



静寂の中で、微かに。



誰かの心の中で、永遠に。


私は、世界の子守唄だった。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

一つひとつの転生は、ただの物語ではなく、

“想いの在り方”を描いた断片です。


何か一つでも、あなたの中に残るものがあれば幸いです。

次の転生でも、静かにお会いしましょう。


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