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―転生の果てⅡ―  作者: MOON RAKER 503


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第10話 転生したら白衣だった

いつも読んでくださり、ありがとうございます。

『転生の果てⅡ 』は、

“存在のかたち”をめぐる旅の記録です。


どの話からでも、どの視点からでも、

一つの“想い”として感じてもらえたら嬉しいです。


それでは、どうぞ。


私は、白衣だった。


知を纏う者の衣として、研究室に在る存在。


影として見た。窓として透かした。鏡として映した。手紙として伝えた。マフラーとして包んだ。手として行った。鎌として断った。ローブとして抱いた。死神として導いた。


そして今度は、観る番だった。


導くことから、理解することへ。


私は、白かった。


 *


最初に纏われたのは、朝だった。


科学者が、私を手に取った。


若い男性。


目に疲れが滲んでいた。


けれど、意志が宿っていた。


彼は私を羽織った。


白い布が、肩を覆った。


袖を通し、ボタンを留めた。


私は、彼の体温を感じた。


生きている温もり。


脈打つ命。


死神として、私は冷たかった。


けれど今、私は温かかった。


生の側に在った。


 *


研究室は、静かだった。


機械の音だけが響いていた。


ピッ、ピッ、ピッ。


データが画面に表示されていた。


科学者は、それを見つめていた。


「死とは、何だ」


呟いた。


私は、震えた。


わずかに。


科学者は気づかなかった。


けれど、私は知っていた。


死とは何か。


終わりではなく、帰還だった。


断つことであり、包むことであり、導くことだった。


私は、死神として見届けた。


無数の魂を。


無数の終わりを。


けれど今、私は白衣だった。


科学の側に在った。


知によって、死を理解しようとする者の側に。


 *


科学者は、研究を続けた。


細胞の死。


脳の停止。


心臓の鼓動の終わり。


すべてを、データとして観測した。


「生命とは、化学反応だ」


彼は言った。


「死とは、その反応の停止だ」


私は、揺れた。


違う、と思った。


けれど、正しいとも思った。


肉体は、確かにそうだった。


細胞が死に、機能が止まり、反応が終わる。


けれど、魂は?


私は、知っていた。


肉体が死んでも、魂は残る。


糸が断たれても、魂は光へ向かう。


それは、化学反応では説明できなかった。


 *


ある日、科学者が新しい研究を始めた。


「意識とは何か」


画面に、脳波のデータが表示されていた。


複雑な波形。


電気信号。


「意識は、脳の活動だ」


彼は言った。


「ならば、脳が停止すれば、意識も消える」


私は、また震えた。


科学者が、私を見た。


「……風か?」


窓は閉まっていた。


風はなかった。


けれど、私は揺れていた。


科学者は首を傾げ、また研究に戻った。


私は、思った。


意識は、脳だけではなかった。


魂もまた、意識を持っていた。


体から離れても、考え、感じ、選んだ。


光へ向かうか、留まるか。


それは、脳のない状態でも起きていた。


 *


日が経つにつれ、科学者は疲弊していった。


睡眠時間が減った。


食事を忘れた。


ただ、データを見続けた。


「死を、理解したい」


彼は言った。


「恐怖ではなく、知識として」


私は、彼の背中を見ていた。


白衣越しに、肩が震えていた。


彼は、恐れていた。


死を。


理解しようとしているのは、恐怖を消すためだった。


私は、死神として知っていた。


恐怖の正体を。


それは、未知ではなかった。


未練だった。


科学者もまた、未練を抱えていた。


知りたいこと。


解明したいこと。


それを残して死ぬことが、怖かった。


 *


ある夜、科学者が倒れた。


机に突っ伏し、動かなくなった。


過労だった。


呼吸は、していた。


心臓は、動いていた。


けれど、意識がなかった。


私は、彼を包んでいた。


白衣として。


温もりを感じた。


まだ生きていた。


けれど、弱っていた。


その時、私の記憶が蘇った。


死神として見た光景。


老婆の魂。


青年の魂。


少女の魂。


すべてが、光へ向かった。


帰るべき場所へ。


安らぎのある場所へ。


死は、終わりではなかった。


科学は、それを証明できなかった。


けれど、私は知っていた。


 *


科学者が、目を覚ました。


ゆっくりと、体を起こした。


「……夢を見た」


彼は呟いた。


「光の中を、歩いていた」


私は、震えた。


強く。


科学者が、白衣を見た。


「……お前が、揺れている」


彼は、私に触れた。


布を掴んだ。


「まるで、生きているみたいだ」


私は、もっと震えた。


風のように。


ローブのように。


科学者の背中を、押すように。


「何を、伝えたいんだ」


彼は言った。


私は、震え続けた。


そして、彼の中に響かせた。


死は、終わりではない。


恐れるものではない。


理解できなくても、受け入れられる。


科学では証明できなくても、真実はある。


 *


科学者が、立ち上がった。


窓を開けた。


風が入ってきた。


私は、風と共に揺れた。


科学者が、空を見上げた。


「……そうか」


彼は微笑んだ。


「すべてを理解する必要は、ないのかもしれない」


私は、静かに揺れた。


「死を恐れるのは、理解できないからじゃない」


彼は言った。


「未練があるからだ」


私は、強く頷くように揺れた。


「ならば、今を生きればいい」


彼は、深く息を吸った。


「理解しようとすることも大切だ」


「でも、受け入れることも大切だ」


彼は、私を脱いだ。


椅子にかけた。


「ありがとう」


そう言った。


私は、静かに揺れた。


風に吹かれて。


科学者が、部屋を出た。


窓の外へ。


生きるために。


 *


私は、白衣として在り続けた。


知を纏う者を支え、探究を見守った。


死神として、私は導いた。


白衣として、私は理解させた。


死は、科学だけでは説明できなかった。


けれど、科学は命を理解する手段だった。


理性による救済。


知による安らぎ。


死を恐れないのは、理解したからではなかった。


受け入れたからだった。


私は、それを伝えた。


白衣として。


風として。


——“観測干渉”が、覚醒した。


導くことから、理解させることへ。


感情から、理性へ。


私は白衣として、命の循環を観測する力を得た。


科学と霊性の狭間で、真理を示す存在になった。


そして次の転生へと、また進んでいく。


けれど今は、ただ揺れる。


次の探究者を待ちながら、次の真理を見守りながら。


私は、知と温もりの狭間に在った。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

一つひとつの転生は、ただの物語ではなく、

“想いの在り方”を描いた断片です。


何か一つでも、あなたの中に残るものがあれば幸いです。

次の転生でも、静かにお会いしましょう。


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