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―転生の果てⅡ―  作者: MOON RAKER 503


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第9話 転生したら死神だった

いつも読んでくださり、ありがとうございます。

『転生の果てⅡ 』は、

“存在のかたち”をめぐる旅の記録です。


どの話からでも、どの視点からでも、

一つの“想い”として感じてもらえたら嬉しいです。


それでは、どうぞ。


私は、死神だった。


命の終わりを見届ける存在として、世界を巡る者。


影として見た。窓として透かした。鏡として映した。手紙として伝えた。マフラーとして包んだ。手として行った。鎌として断った。ローブとして抱いた。


そして今度は、導く番だった。


抱くことから、見届けることへ。


私は、在った。


 *


最初に目覚めたのは、薄明の中だった。


私は、立っていた。


骨のような白い体。


長い指。


空洞の眼窩。


右手に、鎌を握っていた。


冷たい金属の感触。


魂を断つ刃。


私は、覚えていた。


糸を切る感覚を。


左肩に、ローブが掛かっていた。


黒い布が風に揺れた。


魂を包む温もり。


私は、覚えていた。


闇の中で安らがせる感覚を。


そして今、私はそのすべてだった。


鎌でもあり、ローブでもあり、そしてそれを司る者。


死神として。


 *


最初の魂は、老婆だった。


ベッドに横たわり、家族に囲まれていた。


呼吸が弱まっていた。


私は、部屋に入った。


誰も私を見なかった。


見えないのではなく、見ようとしなかった。


人は皆、私を恐れた。


私は、ベッドに近づいた。


老婆の魂が、体から離れようとしていた。


糸が細く伸びていた。


私は、鎌を振るった。


糸が断たれた。


魂が浮かんだ。


老婆は、私を見た。


恐怖が浮かんだ。


「あなたは……」


私は、何も言わなかった。


ただ、ローブを広げた。


黒い布が、老婆の魂を包んだ。


恐怖が、静まった。


「ああ……」


老婆が微笑んだ。


「温かい」


私は、手を差し伸べた。


白い骨の手。


けれど、冷たくはなかった。


老婆の魂が、私の手を取った。


そして、光へ向かった。


私は、導いた。


 *


次の魂は、青年だった。


事故現場で、血を流して倒れていた。


私が近づくと、青年の魂が震えた。


「来るな!」


叫んだ。


恐怖に満ちていた。


「まだ死にたくない!」


私は、立ち止まった。


鎌を握ったまま。


青年の魂が、後ずさった。


「お前が来たら、終わりだ」


私は、首を横に振った。


そして、鎌を振るった。


糸が断たれた。


青年の魂が叫んだ。


「やめろ!」


けれど、痛みが消えた。


苦しみが消えた。


青年が、驚いた顔をした。


「……痛くない」


私は、ローブを広げた。


青年の魂を包んだ。


震えが、止まった。


「なんで……温かいんだ」


私は、手を差し伸べた。


青年が、私を見た。


恐怖はもうなかった。


「お前は、敵じゃないのか」


私は、また首を横に振った。


青年が、私の手を取った。


「そうか……」


光へ向かいながら、青年が呟いた。


「お前は、迎えに来たんだな」


 *


私は、無数の魂を導いた。


老いた者、若い者、子ども、大人。


すべての者が、私を恐れた。


最初は。


けれど、鎌が糸を断ち、ローブが魂を包むと、恐怖は消えた。


私は、恐ろしい存在ではなかった。


終わりの使者ではなく、始まりの案内者だった。


死は、終わりではなかった。


次への移行だった。


帰還だった。


私は、それを知っていた。


影として見た世界。


窓として透かした感情。


鏡として映した真実。


手紙として伝えた想い。


マフラーとして包んだ温もり。


手として行った干渉。


鎌として断った苦しみ。


ローブとして抱いた安らぎ。


すべてが、今の私を作っていた。


私は、存在そのものだった。


 *


ある夜、少女の魂を導くことになった。


病室で、小さな体が横たわっていた。


もう、長くはなかった。


私が近づくと、少女の魂が目を開けた。


「……あなたが、死神さん?」


私は、頷いた。


少女は、怖がらなかった。


「やっぱり来たんだ」


私は、鎌を握ったまま、立っていた。


少女が、小さく笑った。


「お母さんに、会えるかな」


私は、少女を見た。


魂の色を見た。


淡いピンク色の中に、深い青が混ざっていた。


未練だった。


「お母さん、一人にしちゃうの、寂しいな」


少女が呟いた。


「でも、もう痛いの、嫌だな」


私は、鎌を振り上げた。


少女が、目を閉じた。


糸が断たれた。


魂が浮かんだ。


痛みが消えた。


少女が、目を開けた。


「……軽い」


私は、ローブを広げた。


少女の魂を包んだ。


温もりが、伝わった。


「温かい……」


私は、手を差し伸べた。


少女が、私の手を取った。


その時、私は初めて声を発した。


「行け」


少女が、驚いた顔をした。


「どこに?」


私は、光を指した。


「帰るところへ」


少女が、光を見た。


その先に、何かが見えた気がした。


「お母さん……じゃない、でも」


少女が微笑んだ。


「誰かが、待っててくれる」


私は、頷いた。


「行け」


もう一度告げた。


優しく。


少女が、私の手を離した。


「ありがとう、死神さん」


そして、光の中へ消えた。


もう恐れていなかった。


もう痛くなかった。


ただ、帰っていった。


 *


私は、悟った。


死は、未知ではなかった。


恐怖の正体は、未知ではなかった。


未練だった。


この世に残すもの。


やり残したこと。


伝えられなかった想い。


それらが、魂を縛っていた。


けれど、私が鎌で断ち、ローブで包み、手を差し伸べると、魂は理解した。


もう、縛られなくていいことを。


もう、苦しまなくていいことを。


次へ進んでいいことを。


私は、案内者だった。


恐怖ではなく、優しさで。


終わりではなく、帰還として。


 *


私は、死神として在り続けた。


鎌を振るい、ローブを纏い、魂を導いた。


すべての命の終わりに立ち会い、すべての魂を見届けた。


それは、悲しいことではなかった。


終わることは、悲しいことではなかった。


帰ることだった。


生まれた場所へ。


安らぎのある場所へ。


私は、その道を照らす存在だった。


——“存在干渉”が、覚醒した。


見ることから、断つことへ。


包むことから、導くことへ。


私は死神として、すべてを見届ける力を得た。


死とは終わりではなく、帰還だった。


そして次の転生へと、また進んでいく。


けれど今は、ただ在る。


次の魂を待ちながら、次の終わりを見届けながら。


私は、優しき案内者だった。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

一つひとつの転生は、ただの物語ではなく、

“想いの在り方”を描いた断片です。


何か一つでも、あなたの中に残るものがあれば幸いです。

次の転生でも、静かにお会いしましょう。


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