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命を繋ぐ手

診療所に朝日が差し込む頃、明日香はすでに忙しく動き回っていた。

 昨日の疲れが残る体を押して、今日も患者を迎える。

 町の人々は彼女に期待を寄せ、相談や治療を求めてやってくる。


 最初に駆け込んできたのは、母親に抱えられた高熱の幼児。

 体は小さく、顔は真っ赤に染まっている。

 母親の必死の表情に、明日香の心臓は締め付けられる。


「大丈夫、私が診ます」

 声に自信はあったが、体調はまだ万全ではない。

 それでも、幼児の手を握り、体温を測り、脱水を防ぐための処置を考える。


 水分補給の方法、体を冷やす工夫、熱で弱った体力を支える手順――

 全て、現代看護師としての知識に基づく。

 魔法医師が横で呪文を唱え、熱を下げようとするが、明日香は手で体に触れ続ける。


「怖くない、泣かなくていいよ。私がそばにいるから」


 幼児の涙が次第に止まり、呼吸も落ち着く。

 母親は感極まったように涙を拭い、手を握る。


「あなた……本当に、ありがとう……」


 明日香は小さく頷き、微笑む。

 自分の手と声で、人の命を守れること――それが、何よりの喜びだった。


 午後になり、診療所はさらに忙しくなる。

 怪我人、熱でうなされる子ども、腹痛を訴える若者……

 どの患者も、明日香の献身を求めている。


 しかし、体の疲れは確実に積み重なっていく。

 手が震え、呼吸が浅くなる瞬間もあった。

 そんなとき、そっと背後からリオンが差し伸べる手。


「無理するな、俺が助ける」

 その言葉に、明日香は心の底から救われる思いだった。

 弱い体でも、信頼できる仲間がいれば、まだ頑張れる――そう感じた。


 夕方、診療所の窓から差し込む柔らかな光の中で、明日香はひと息つく。

 疲れた体を椅子に預けながら、今日救った命の顔を思い出す。


 小さな手に触れ、泣き止んだ笑顔を見た瞬間、明日香は心の奥で誓う。


「この町の人たちを、絶対に守る」


 そして、ふと横を見ると、リオンが微笑んでいた。

 二人の絆は少しずつ確かになり、互いに支え合いながら、明日香の異世界での使命は少しずつ形になっていく――。


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