最初の衝突
街の静けさが、まるで嵐の前触れのように重く沈む。
リリアたちは診療所を出て、情報収集のため街の外れに向かっていた。
蝉の声がまだ残る夏の朝、風が少しひんやりして肌を撫でる。
「……ここまで静かだと、逆に怖いな」
ガイルが小声で呟く。
「そうだな……油断は禁物」
リオがそっと答える。彼の手は剣の柄にかかり、緊張が伝わる。
道を進むにつれ、不穏な気配が徐々に増していった。
草むらのざわめき、遠くで響く鈴の音。
「……誰かいる」
セリナの声が小さく震える。
その瞬間、黒い影が木々の間から飛び出してきた。
教会の刺客――漆黒の装束に身を包んだ集団だ。
「……っ!」
仲間たちの心臓が一斉に跳ねる。
ガイルは剣を抜き、リオは盾を構え、カイルは道具を手早く取り出す。
リリアは手を前に掲げ、治癒の力を準備した。
「全員、気を抜くな!」
刺客たちが迫る。空気が張りつめ、時間がゆっくり流れる感覚。
その中で、リリアの目に一人の若い刺客が映った。
——怯えた瞳、でも決意に満ちた表情。
自分と同じように、守るものがあるのかもしれない――一瞬、胸が締めつけられた。
だが戦いは容赦なく始まる。
鋭い刃が飛び交い、仲間たちがそれを受け止める。
ガイルの剣が刺客の攻撃を弾き、リオが盾で仲間を守る。
カイルの道具が巧みに罠を仕掛け、セリナは回復魔法で仲間の傷を癒す。
リリアも、必死に手を伸ばし、癒しの力を繰り出す。
体の奥まで力がみなぎり、全身に熱が走る――
「……負けない!」
刺客の一撃がリリアの肩をかすめた瞬間、彼女の心に、昨夜の密談で交わした言葉が蘇る。
「怖くても、不安でも、こうして集まってくれたこと――それだけで、私は強くなれる」
その想いが力となり、リリアは一気に反撃に転じた。
光のように治癒と攻撃を融合させ、刺客を押し返す。
仲間たちもその勢いに乗り、連携が完璧に。
戦いが一瞬静まった瞬間、空を見上げると、赤く染まった夕陽が街を包んでいた。
その光の中で、仲間たちの影は揺れながらも確かに重なり合っていた。
——私たちは、まだまだ負けない。
遠くで、再び黒い影が動く。
これが始まりに過ぎないことを、リリアは理解していた。