迫りくる影
朝の光が診療所に差し込む。
昨夜の密談で胸に刻まれた決意は、まだ全身に熱を帯びていた。
「今日から、本格的に行動を始める」
リオが低く呟く。瞳は昼間の穏やかさを失い、覚悟に満ちていた。
外に出ると、街はいつも通りに見える。子どもたちの笑い声、果物を並べる行商人、清らかな空気――。
だが、リリアの直感は告げる。
――静かな街ほど、影が潜んでいる。
診療所に集まった仲間たちも、表情は引き締まっていた。
ガイルは剣を握り、カイルは道具を点検し、セリナは小さく深呼吸。
それぞれが、自分の役割を全力で背負っているのが伝わる。
「まずは情報を集める」
リリアは冷静に指示を出す。
「敵は教会の暗部。行動パターンや拠点を把握してから動く」
その言葉に、仲間たちは一斉に頷いた。
不安はある。怖い瞬間もある。
でも――昨夜の密談で交わした言葉が、胸に確かにある。
「私たちは一緒。負けない」
診療所の扉を開け、外の空気を吸う。
風が冷たく頬を撫で、街のざわめきが微かに聞こえる。
そのざわめきの中に、確かに「迫り来る影」が忍び寄っている。
リリアは深く息を吸い、握った手を強くする。
「行くよ――みんな」
「うん!」
「もちろん!」
「任せて!」
声が重なり、街の静寂を破った。
それは小さな勇気の叫びであり、嵐の前の誓いのようでもあった。
こうして、私たちの戦いは――まだ見ぬ嵐に向かって、静かに動き出したのだった。