届いた手紙
夕暮れの診療所は、穏やかな空気に包まれていた。
小鳥のさえずりと、遠くから聞こえる子どもたちの笑い声。戦いの嵐が去ったあと、街にはかすかな安堵が広がっていた。
そんな空気を切り裂くように、鎧をまとう兵士が駆け込んできた。
息を切らし、埃にまみれたその姿は、見るからに急報を運ぶ者だとわかった。
「リリア殿! ……いえ、《聖なる看護師》様!」
兵士の手には、王都からの封蝋付きの手紙が握られていた。
手渡された瞬間、リリアの胸に微かな緊張が走る。
カイルが手紙を受け取り、慎重に封を切る。
中に記された文字は、短く、しかし重く、心を揺さぶるものだった。
――王都にて原因不明の疫病が拡大。医療人員を急ぎ派遣されたし。
診療所の空気が一瞬で凍りつく。
リリアは息を呑んだ。看護師として、そしてこの街を守る者として、その言葉が持つ意味を誰よりも理解していた。
カイルの表情も固くなる。
「疫病……こんなに早く、しかも王都で……」
ルークも眉をひそめ、拳を握りしめる。
リリアは一瞬、外の夕焼けを見上げた。
橙色に染まる空が、今の胸のざわめきと対照的に、静かで優しかった。
しかし、心の奥底で彼女は覚悟を決めた。
「……行かなくちゃ」
その言葉に、エマが慌てて駆け寄る。
「リリア! まだこっちの街も完全に落ち着いたわけじゃないのに!」
「だからこそ、私が行くの」
リリアの声は静かだが、揺るぎない強さを帯びていた。
仲間たちは言葉を失った。
ルークは険しい顔で地面を見つめ、カイルはじっとリリアを見つめ返す。
彼の瞳には、一瞬の不安と、しかし揺るがぬ信頼が混ざっていた。
「……わかった。俺も行く」
カイルの言葉に、リリアは小さくうなずき、胸の奥が熱くなるのを感じた。
診療所の外では、街の人々が日常を取り戻していた。
笑顔と笑い声に包まれた光景の向こうで、風がざわりと吹き、木々がささやく。
その穏やかな風景の影に、疫病という不穏な影がじわじわと広がろうとしている――
リリアは手紙を握りしめ、深呼吸した。
――どんな困難が待ち受けていても、私たちは立ち向かう。
守るべきものがある限り、私は諦めない。
夕陽が診療所の窓を黄金色に染め、リリアたちの影を長く伸ばす。
その影の先には、新たな戦いへの決意が静かに息づいていた。