小さな約束
夕暮れの街並みを歩きながら、リリアはふと足を止めた。
隣を歩くカイルが首を傾げる。
「どうした?」
「ううん……ただ、こうして歩いているだけなのに、胸がいっぱいになって」
リリアは夕焼けに染まる空を見上げた。
前世では、こんな何気ない時間すら病院のベッドの上で夢見るだけだった。
けれど今は、確かにここに立っている。仲間と笑い合い、誰かを支えられている。
「リリア」
カイルが不意に真剣な声で呼びかける。
振り向けば、彼の瞳は夕日よりもまぶしく映った。
「もしまた大きな戦いが来ても……俺はおまえを守る。だから――」
彼は一瞬言葉を飲み込み、そして小さく微笑んだ。
「そのときは、おまえも俺の隣にいてくれ」
リリアの胸が熱くなる。
鼓動が速くて、どうしていいかわからなくて。
それでも、彼の真剣な瞳を見つめ返し、小さくうなずいた。
「……うん。約束する」
その瞬間、ほんの小さな「約束」が二人の間に結ばれた。
それはまだ頼りない糸のように細いもの。けれど確かに、未来へと続く絆の始まりだった。
夕焼けの下で、二人の影が寄り添うように重なっていく。
リリアはそっと心に誓った。
――絶対に守る。この日常を。この約束を。