日常のきらめき
戦いの嵐が過ぎ去ったあと、街には静かな時間が流れていた。
石畳の道を歩けば、パン屋の香ばしい匂い、子どもたちの笑い声。かつてはどこか不安げだった人々の表情に、ようやく安らぎが戻ってきた。
リリアはそんな日常の光景を胸いっぱいに吸い込み、ふっと微笑む。
「……生きてるって、こんなに尊いんだね」
彼女の言葉に隣のカイルが目を細める。
「おまえがそう思えるなら、俺も救われる」
そう言って彼は、ほんの少しだけ手を差し伸べた。触れるか触れないかの距離。リリアの心臓は跳ねるように鼓動した。
その頃、仲間たちはそれぞれの場所で小さな「日常」を楽しんでいた。
エマは薬草を抱えながら市場を歩き、見知らぬ子どもに「ありがとう」と薬草のお裾分けをしている。ルークは修理された防具を手入れしつつ、店主と世間話に花を咲かせていた。
病室に寄ったリリアは、まだ入院している老人の手を取り、にっこりと笑った。
「もうすぐ退院できますよ。だから、また一緒にこの街を歩きましょうね」
その言葉に涙ぐむ老人の目を見て、リリアの胸にもじんわり温かさが広がっていく。
何もない一日。けれど、それこそがどれだけ貴いものか。
その尊さをかみしめるように、リリアは空を見上げた。
夕焼けが、彼女の頬を赤く染めていた。