静かな夜に響く想い
診療所の灯りが、柔らかく夜の闇を照らしていた。
昼間の戦いの疲れは、まだ体に残っている。けれど、仲間たちは笑顔を絶やさず、互いに支え合っていた。
リリアは薬草の瓶を整えながら、そっと微笑む。
「この小さな命も、ちゃんと守らなくちゃ…」
手元の患者はもうぐっすり眠っていて、静かな呼吸が診療所に穏やかさを与えていた。
クロードが隣に座る。
「今日は……落ち着いているな」
その声は低く、でも温かい。
リリアは小さく頷き、目を逸らす。
「うん……こうしていられる時間も、大事だよね」
カイルは背後で鍋をかき混ぜながら、にやりと笑った。
「リリア、そんな真剣な顔しても、俺たちがそばにいるから安心していいぞ」
その言葉に、リリアは微かに頬を赤くする。
セリナがティーカップを運んでくる。
「ほら、温かいお茶だよ。冷えちゃうからね」
差し出されたカップに指先が触れると、リリアの胸に小さな火が灯る。
――この距離感…心臓が止まりそう。
診療所の屋上に上がると、月明かりが二人を優しく包む。
リリアはため息をつき、手すりに肘をつく。
クロードも隣に立ち、少しだけ距離を詰める。
視線が交わる瞬間、胸の奥の鼓動が高鳴る。
「……怖くないのか?」
クロードが低く囁く。
「怖いけど……でも、守りたい気持ちの方が強い」
リリアの声は震えているけれど、瞳は強く光る。
その時、カイルとセリナが遠くで笑いながら話す声が聞こえる。
二人の無邪気な声に、リリアとクロードは少しだけ照れた顔を見合わせた。
小さな笑いが、夜の静けさを柔らかく溶かす。
リリアは胸の奥で小さく決意する。
――この穏やかさを守るために、私は全力で戦う。
仲間と過ごす時間、この温もり、この笑顔…
全てを絶対に失わせない。
月の光に照らされた診療所の屋上で、二人の影が寄り添う。
戦いの前夜、静かで、でも心がぎゅっと締め付けられる夜。
触れそうで触れない距離に、二人の胸はじんわり熱くなる。
リリアの瞳に、微かに涙が光る。
それは悲しみでも、恐怖でもない――
“守りたい、そばにいたい”という、純粋な想いのしるしだった。