束の間の安らぎ、胸に残る痛み
のような夜が過ぎ、朝がやってきた。
診療所の窓から差し込む光はやわらかく、まるで昨日の戦いが嘘のように穏やかだった。
リリアはまだ眠っている患者たちの布団を一枚一枚直し、水を汲んで回る。
セリナは隅で弓を手入れし、カイルは無骨に床を磨いていた。
クロードは静かに剣を拭きながら、時折リリアを盗み見る。
「みんな、本当にありがとう。昨日は……助かったよ」
リリアが小さな声で言うと、セリナがにっこり笑った。
「ありがとうはこっちのほうだよ。あなたがいてくれたから、今こうして笑えてる」
「そうだ。俺なんか、昨日の傷が嘘みたいに消えて……」
カイルが自分の肩を回して見せる。
リリアは笑顔を返したが、その胸の奥にはまだ重苦しい痛みが残っていた。
(昨日……光を使ったとき、確かに寿命を削られている感覚があった。
でも、この笑顔を見ると……使わずにはいられない)
彼女は表情を崩さず、日常を守るように水差しを並べた。
仲間が笑ってくれるこの空間を――命がけでも繋ぎたいと願いながら。
「リリア、無理してないか?」
不意にクロードが声をかけた。
彼の視線は鋭いが、どこか優しさを帯びている。
「大丈夫、大丈夫。看護師ですから」
リリアは笑ってごまかす。
クロードはそれ以上追及せず、ただ小さく頷いた。
束の間の安らぎ。
けれどリリアの心臓は、誰にも知られず小さく軋んでいる。
(私は……笑顔でいなきゃ。誰も傷つけないために)
窓から差し込む陽光の中、リリアは静かに拳を握りしめた。