癒しの光、その代償
診療所を揺らした戦いは、光と共に終息した。
リリアの掌から溢れた白銀の輝きは、敵も味方も分け隔てなく包み込み――血を止め、裂けた肉を繋ぎ、砕けた骨を結び直した。
仲間たちは驚愕の声を上げ、患者たちは泣きながら「奇跡だ」と口々に言う。
ギルド兵でさえ、その場に立ち尽くし、剣を落としたほどだった。
「……す、すごい……リリア、本当に神様の加護みたいだ……」
セリナが涙を浮かべて抱きつく。
「俺の肩も……完全に……!」
カイルが己の傷を見下ろし、信じられないという顔をした。
クロードは血に濡れた服を握りしめ、リリアを真剣に見つめる。
「君は……本当に何者なんだ?」
称賛と感謝が一斉に降り注ぐ。
だがリリアの胸の奥では、別の鼓動が軋んでいた。
――心臓が痛い。
――血の気が、引いていく。
全身が冷えていくのに、誰もそれを気づかない。
リリアは唇を噛み、必死に笑みを作った。
「ふふ……私なんて、ただの看護師ですよ。みんなが助かって、本当に……よかった」
言葉を発するたびに、内臓の奥がきしみ、視界の端が暗くなる。
それは、誰も知らない代償。
光を放つたびに、命そのものが少しずつ削られていく。
(こんな力……知らなかった。でも……もし代償を恐れていたら、あの子も、みんなも……)
彼女は静かに息を整え、胸の奥の痛みを押し殺した。
“自分だけの秘密”として。
それが仲間を不安にさせると分かっていたから。
仲間は笑顔で彼女を囲み、患者たちは祈るように感謝を述べる。
誰一人として、リリアの唇の震えに気づかない。
「……ありがとう。ありがとう、リリア様……」
その声に頷きながら、リリアは心の中で小さく呟いた。
(大丈夫。私はまだやれる。……でも、この光が尽きるその日までに、必ず異世界の医療を変えてみせる)
胸の奥に走る痛みを押し隠しながら、彼女の瞳はまっすぐに未来を見据えていた。
誰も知らない――その命の針が、少しずつ短くなっていることを除いて。