守るための刃、救うための手
重い扉を叩き割る轟音が、静まり返った診療所を揺らした。
吹き込む冷気とともに、黒い鎧を纏ったギルド兵が雪崩れ込んでくる。
「ここに“偽医療師”がいると報告を受けた! 全員、捕らえろ!」
リリアは咄嗟に患者たちを庇い、身を広げる。
心臓が早鐘のように打つ――だが、退くことはできない。
「この子たちには、私しかいない……!」
剣が閃く瞬間、カイルが前へ躍り出た。
「させるかよッ!」
大剣とギルド兵の刃がぶつかり、火花が散る。
彼の背は震えていたが、その目には恐怖を押し殺した強い光が宿っていた。
「リリア、絶対に後ろを見るな! 患者を守れ!」
セリナも弓を引き絞り、矢を次々と放つ。
「ここは……私たちが時間を稼ぐ!」
彼女の声は震えていたが、その矢は正確に敵を射抜いた。
しかし、数の差は圧倒的だった。
カイルの肩が切り裂かれ、セリナの腕がかすめられる。
リリアの叫びが、喉の奥からこぼれ出た。
「もう……やめて!!」
その時だった。
クロードが彼女の前に立ちはだかり、剣を構えた。
「リリア……君は命を救う人だ。だから、守るのは俺の役目だ!」
敵の刃が振り下ろされる。
クロードはその身を挺して受け止め、血が飛び散った。
「クロードっ!!」
彼の背にしがみついたリリアの両手は震え、涙が溢れる。
――守るための刃。
――救うための手。
その狭間で、彼女の決意が固まる。
「私は……絶対に、誰も死なせない!!」
リリアの叫びと同時に、彼女の掌から淡い光が溢れ出した。
見たこともない治癒の輝き。
異世界の空気が震え、人々の視線がその光に吸い寄せられていく。