看護の砦
南部都市の中心に設けられた臨時の隔離施設。
瓦礫の中に小屋やテントを並べ、患者と健康な人を分ける簡易病棟が完成していた。
「よし、ここが私たちの“看護の砦”よ!」
リリアは深呼吸し、仲間たちに指示を出す。
「患者さんの状態をチェック! 呼吸、発疹、体温!
飲み水は煮沸して、布で濾す!
薬草はすぐ煎じる! 私が点滴するから!」
セリナは慣れない手つきで薬草を煎じながらも、リリアの指示に全力で従う。
クロードは、回復魔法で体力を少しでも補いながら、リリアの負担を軽減。
カイルは施設の周囲を警備し、外部からの混乱を防ぐ。
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それでも、患者の数は膨大だった。
咳き込む人、倒れた人、叫ぶ人──次々と運ばれてくる。
リリアの手は追いつかず、声は時折震える。
(前世の病棟もこうだった……でも、今度は違う!)
彼女の脳裏に浮かぶのは、仲間たちの顔。
一人で抱え込む必要はない。みんながいる。
その思いだけで、リリアはもう一度深呼吸した。
「大丈夫、絶対に救う。諦めない!」
その瞬間、隣で倒れていた少女が微かに微笑む。
少しずつ体温が安定し、呼吸も落ち着いてきた。
「……リリア……ありがとう……」
少女の小さな声に、リリアの胸は熱くなる。
目の前の命を守ること――それが、彼女の使命だ。
⸻
だが安堵する間もなく、施設の外で異変が起きた。
「リリア様!」
カイルの声が張り詰める。
施設の入り口に、黒いローブを纏った影が立っていた。
医師ギルドの使者──彼らはユイの活動を許さず、足止めを図ろうとしていたのだ。
「少女の命を守るには、彼らも避けられない……」
リリアは少女に視線を向ける。
この小さな砦を、守り抜く覚悟を決めた瞬間だった。