過去と交わる命
倒れていた少女の顔を見た瞬間、リリアの胸はざわついた。
どこかで見たことがある──病院で最後を見送ったはずの、あの少女の面影。
「大丈夫、ゆっくりでいいから……」
リリアは手を伸ばし、そっと少女の肩に手を置く。
冷たい体に触れた瞬間、過去の記憶が押し寄せる。
あの日、あの病室でリリアは何もできなかった。
助けられなかった命の重みが、胸を締め付ける。
でも今は違う。異世界で得た知識、異世界で鍛えた技術、そして仲間たち――
すべてを使って、この少女を救うことができる。
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カイルと仲間たちが周囲を固め、リリアは落ち着いて指示を出す。
「体温を測って、発疹を確認して。呼吸の状態も!」
「水はすぐに煮沸、布で濾す。汚染源を特定して隔離!」
「青銀草と煎じ薬で初期対応。必要なら私が点滴もする!」
次々と動く仲間たち。リリアの声は、過去の悲しみを超えて力強く響いた。
少女の呼吸が少しずつ落ち着き、瞳がゆっくり開く。
「……ユ、ユイ……?」
少女の口から漏れた名前に、リリアの心臓が跳ねた。
「違う……あなたの世界のユイじゃない。でも、私は今、あなたを救う人」
少女は混乱した様子で目をぱちぱちさせるが、次第に安心した表情になる。
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夜、簡易の臨時施設の中。
少女の隣でリリアは休息を取る。
カイルが静かに言った。
「お前、昔のことを引きずってたのか……でも、今は違うな」
「うん……過去に救えなかった命の分まで、今度は守る」
リリアは手を握りしめ、決意を新たにした。
この少女だけでなく、南部都市のすべての命を、絶対に守り抜く──。
遠くの廃墟を照らす月明かりの下で、彼女の眼には確かな光が宿っていた。