表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/60

魔王城の影に潜む病

リリアが訪れたのは、かつて「魔王城」と呼ばれた巨大な黒い要塞だった。

 いまは魔王が倒れ、表向きは廃墟となっているが、そこにはいまだ人々の恐怖と伝説が息づいていた。


 だが──リリアが目にしたのは、勇者の伝説とはかけ離れた光景だった。

 瓦礫の奥から、咳き込み、呻き声を漏らす人々。黒ずんだ皮膚に高熱。呼吸すらままならない者たちが、地べたに横たわっている。


「……これは」

 リリアは思わず膝をついた。

 魔物の呪い? いや、これは──

 集団感染。


 かつて魔王軍が使っていた地下水路。その水が汚染され、村人たちを次々と病に侵していたのだ。

 熱と咳。皮膚の発疹。弱った者から次々に倒れていく。

 まさに、疫病の震源地。


「リリア様!」

 駆けつけてきたのは、冒険者仲間のカイル。

 彼は剣を抜き、周囲を警戒している。

「魔物の仕業に違いない! ここは危険だ、すぐ離れよう!」


「違うの!」リリアは強く首を振った。

「これは魔物じゃない。人間の体の中で起きてる“病気”よ。

 でも……このままじゃ何十人、何百人だって命を落とす!」


 カイルは剣を握り締めたまま、困惑した表情を見せる。

「じゃあ……俺に何ができる?」


 リリアは深呼吸をして、決意を込めて答えた。

「まずは“隔離”。患者さんと健康な人を分けて。

 それから水の供給源を止める。汚染が広がる前に!」


 瞬間、リリアの脳裏にかつての病棟がよみがえる。

 インフルエンザの大流行、ノロウイルスの院内感染。

 そのたびに必死で患者を守り抜いた日々。


(あのときの知識と経験……今こそ使う時!)


 リリアは冒険者たちに次々と指示を飛ばしていく。

「患者さんは一カ所にまとめて! 他の人は入らないようにして!

 水は煮沸して、清潔な布で濾してから!

 薬草は……この症状なら《青銀草》が効くはず!」


 動き出す仲間たち。混乱は収まり、次第に秩序が生まれていく。


 だが、安堵する間もなく──

「……リリア様」

 床に倒れていたひとりの少女が、弱々しい声を上げた。

 その顔を見た瞬間、リリアの表情が凍りつく。


 黒髪に、見覚えのある瞳。

 それはかつて彼女が病院で見送った、あの“末期患者の少女”にそっくりだったのだ。


「どうして……あなたが……」

 リリアの心臓が高鳴る。

 異世界に来て初めて、過去と現在が交錯する瞬間だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ