初めての看護
明日香は震える手で青年――リオンの深い傷に布を当てた。
血が止まらず、彼は苦痛で顔を歪める。
「……大丈夫、落ち着いて。手を離さないから」
声はか細いけれど、自分でも驚くほど落ち着いていた。
看護師としての本能が、体の小ささや病弱さを忘れさせる。
裂けた皮膚から血が染み出す。明日香は持っていた布を絞り、圧迫止血を試みる。
モノが足りない。包帯も消毒液もない。
「……薬草があるはず」
辺りを見渡すと、古い木の棚に乾燥したハーブの束があった。
指先で慎重に摘み取り、傷に巻き付ける。
「……熱い……けど、効く……」
リオンの声が少し落ち着いた。
初めて触れる異世界の医療――それは、現代の知識と魔法や薬草の混ざった不思議な世界だった。
明日香は考える。
「ここでも……人は救える……」
ふとリオンが弱々しく笑った。
「……お前、本当に……強いな」
明日香の心臓が、ほんの少し早く跳ねる。
無意識に手を握り返した瞬間、彼の視線が自分に向いた。
「……ありがとう」
言葉は短いけれど、重みがあった。
病弱で小さな少女の体に宿る、看護師としての力。
それは、この世界で生き抜くための、第一歩だった。